【感想・ネタバレ】清浄島のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 これまで2度、渡道しました。キタキツネのエキノコックスには注意しました。礼文島は2~3度訪れました。河﨑秋子さん、作品の幅をどんどん拡げてらっしゃいます。「清浄島(せいじょうとう)」、2022.10発行。昭和29年当時、呪いの島と言われた礼文島に、札幌の道立衛生研究所の土橋義明32歳がエキノコックス症研究・対策で派遣され、長きにわたり苦労を重ねる物語。特にネズミ、キツネ、犬、猫と、野性のみならず飼い犬や飼い猫までエキノコックスが寄生しているかいないかの解剖検査を。人間のため動物を犠牲にするやるせなさ。感染症は怖いけど、読んでていたたまれなくなりました。礼文島は清浄島になり、エキノコックスは撲滅したかに思えましたが、やがて根室で、そして後に、埼玉や愛知で野犬の便からエキノコックスの虫卵が検出される。読後、いろいろな思いが頭を駆け巡りました。

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2023年01月10日

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ネタバレ

北海道礼文島で多発した寄生虫による感染症「エキノコックス症」から島民の命、暮らしを守るための闘いを描いた作品。
エキノコックスは中間宿主であるネズミを食べたキツネや犬、猫が終宿主となりその体内で成虫が卵を産み、それが糞とともに体外に排出される。
なんらかのきっかけで人がその卵を摂取すると、肝臓肥大や肝硬変などをもたらし、死に至ることもある。
昭和29年に道立衛生研究所から礼文島へ感染経路を調べる現地調査のため派遣された土橋は、日々、野犬の剖検に没頭するが、エキノコックスの痕跡を見つけられず、衛生研究所は11名の調査団を島に送る。
そして、野生動物だけでなく、島民が飼育している犬や猫まで全て捕獲、処分してのエキノコックス終宿主根絶に乗り出す。
ただでさえ、島民との間に断絶があった土橋は、島民が可愛がっていた動物の命を断つという立場に立たされ苦悩する。
史実や調査研究に基づくドキュメンタリータッチでありながらも、土橋が島民の思いや営みに向き合いながら使命を果たしていく姿を描いた人間ドラマとして、読みごたえのある作品になっている。
島民の立場に立ちながら土橋と友情を交わす役場の職員・山田、人格者で島を愛する議員・大久保、冷徹だが洞察力のある上司・小山内など、多彩な登場人物と土橋の交流が心に響いた。
礼文島の美しい風景や風土にも触れられ、旅情がかきたてられた。
また、寄生虫、病原体が物資輸送網の発達、海外取引や戦争などの人間活動により移動範囲を広めるという現在のコロナウイルス感染をにらんだ記述も盛り込まれていた。

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2022年12月20日

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ネタバレ

大正末期、ネズミ被害に頭を悩ませる人間が
天敵であるキツネを礼文島の野に放った。

P258
〈良いことだと思ってやったことが
後の世で悪いことを引き起こしちまう〉
寄生虫による感染は、どのように起こったのか。
昭和29年、解明するため島へ派遣されたのは道立衛生研究所の土橋。
研究を進める間に下されたのは
終宿主となる可能性のある動物、キツネ、イヌ、ネコを全て処分すること。
島民、土橋にとって過酷という他ない決断だった。

エキノコックス撲滅のためとはいえ
飼っているイヌ、ネコを供出し処分させるなんて。

河﨑さんが描くのは今回も命について。

驚いたのが、P387
おわりに書かれていること。
キツネの感染率が増加を続け新規患者も報告されているという。
まだ終わっていないのだ。

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2024年05月20日

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礼文島、増えたネズミ対策に導入されたキツネによるエキノコックス症を無くすために闘う人々の姿。犠牲を強いられる島の人々、犬や猫を殺される場面では言葉もない。ちっぽけな条虫との闘いは北海道から本州まで広がる被害の中でまだまだ続くようだ。

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2024年01月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読んで楽しい話ではありません。しかし北海道に住むものとしては知らないことにはできない話でした。なかなか終焉しない感染症に見舞われている今、かつて謎の感染症と思われていた寄生虫による病との闘いの物語が世に出てきたのは自分には時代の要請だったのでは、という気がしました。

河﨑先生がこの物語をいつから構想されていたのか存じ上げませんが、よくぞこの重い話を書かれたなと尊敬の念を覚えるとともに、北海道にはまだまだ日本の他地域にはない物語の素材が未発掘のままあるのではないかとも考えました。この物語をどの時代まで描き、どのようにまとめるか、終わらせるか悩まれたのではないかなぁと勝手に想像しました。今も現実が厳しいからこそ、登場人物たちを最後はあのような形にしたのかな、とちょっとした救いのように感じました。個人的には、大の猫好きの先生が犬や猫の腹をどんどんかっさばく小説を書くのはしんどかった面もあったのではとも思いました。

有名某ドラマでキタキツネを「ルールー」と呼ぶアクションが昔放映されましたがあれを見ていた大人は当時大層懸念を示していたことを思い出しました。今でも道民はキタキツネを見ると「絶対触っちゃだめだよ」と言うし沢水は絶対口にしません。湧き水も定期検査などで安全を確認できているものでなければ飲みません。寄生虫はまん延してしまったかもしれないけどそれを予防する知識はこの物語に出てくるような先人たちのお陰で周知されたと思います。そのことに改めて感謝する読書となりました。
道民だけでなく沢山の人に知ってもらいたい物語です。

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2023年01月02日

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ネタバレ

昭和29年北海道の離島、礼文島の出身者から相次いで発見された「エキノコックス」。
腹が膨れて死に至る感染症を撲滅すべく、北海道立衛生研究所の研究員である土橋が奮闘する。

流行拡大を防ぐためにキツネ、野犬、野猫のみならず飼育されてる犬猫までも処分という決断に至るまで。

まるで映像を見てるかのような描写だと思った。
それほどの熱量が、ガンガン伝わってくる。
生死に関わることを追求し、やるべきことを恨まれながらもやるからには覚悟が必要。

土橋とは性格が合わないのか…と思っていた役場の山田、議員の大久保、大学生の沢渡は礼文島を離れた後も交流するほどになるのは、彼らが土橋の気持ちをよくわかっていたからだろう。
決して、ひとりでは出来ないことだから。
そして、彼らは強いと感じた。

今なお、「エキノコックス」を耳にするのはまだ感染することがあるからだろう。
生きている限り、終わりではないのかもしれないが医学は進歩していると信じている。


どんな感染症であれ、日々治療薬を開発している研究者や医療従事者の方々に、心よりご尊敬の念を申し上げます。


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2022年12月05日

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