【感想・ネタバレ】清浄島のレビュー

あらすじ

風が強く吹きつける日本海最北の離島、礼文島。昭和二十九年初夏、動物学者である土橋義明は単身、ここに赴任する。島の出身者から相次いで発見された「エキノコックス症」を解明するためだった。それは米粒ほどの寄生虫によって、腹が膨れて死に至る謎多き感染症。懸命に生きる島民を苛む病を撲滅すべく土橋は奮闘を続ける。だが、島外への更なる流行拡大を防ぐため、ある苦しい決断を迫られ……。

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Posted by ブクログ

道立研究所に所属する研究者としての職責と向き合う土橋さんの姿に、今、モヤモヤしている私のパートのお仕事の悩みなど一掃されました。人間の命、愛玩動物の命、野生動物の命、寄生虫の命… 比べることなど意味はなく、ただ、自分のできる最大限を尽くすことしかないのですね。

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2024年02月03日

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河崎秋子氏の本を読むときは、身構える。その中身はいつもヘビーで、特に動物を扱うときは、自分にとってやりきれない内容を含むことが多いからだ。そのショック受けた後遺症の元になったのが、ヒグマとペットの犬を扱った『肉弾』だった。そのストレートな描写に打ちのめされた。(いや、『颶風の王』からすでにその強烈な印象はあったのだけれど!)
犬や猫はペットとしての付き合いしかない。家畜の最後を目にしたこともない。北海道では野生動物ともよく出会うし、それを喜びともしている自分が、いつもつきあたる問題だ。心してかかる。

結果、確かに残酷な現実ではあったが、過去の作品とは印象が全く違う物語だった。
それは、登場人物の描き方が細やかであると感じられたからだろう。離島の人たちの排他的な部分と、親しみを持ってくれる部分、政治家、役場のやりとりなど、北海道の郡部で暮らすということは、こういうことなんだと、リアルに迫ってくるものがあった。それでも長い時間をかけて、立場の違うもの同士が理解しあっていく過程の描かれ方が、とてもよかった。
清浄島の意味する重さは、動物たちの命の重さでもある。土橋が動物の命に対する心情を明かしているところも、興味深かった。
物語は、礼文島のみならず全道にわたって展開していくが、それはやりきれない悲劇だ。それでも土橋は、同士であり、頼もしい後輩である沢渡とともに、立ち向かっていく。
今、未曾有の伝染病に席捲されているこの世界にいる私たちは、何に翻弄されているのか、考えさせられる。

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2023年01月21日

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久しぶりに一気読みしてしまった。それぐらい、次の展開が気になる内容だった。礼文島も根室も訪れたことがあり、描かれている風景が自分の思い出と重なったからかも。主人公はいい人に恵まれているな。

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2023年01月15日

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「発展と病は隣り合わせ。人間が活動するかぎり病原体もまた大きな移動をする」「人と物の流れが感染症の拡大を引き起こしてきたことは人類の歴史が証明している」コロナの死者1日で500人超え、過去最悪なのに、また移動奨励GOTO。なんなんだろう…「動物実験でもそうだが、研究の上で殺生は仕方ない。だがそこで何らの感情も波打たなくなった者は、いずれ研究のためだと人を殺生することにも戸惑いを持たなくなる」「島で今生きてる人のためじゃありません。これから島で生きていく人のためです。いまは正しくなくても、将来正しくあるためにやるべきことをやっている」捕食システムにうまく乗っかり繁殖し子孫を広げ続ける巧妙な寄生虫。礼文島には何度か行ったが、そんな歴史があったとは…いろいろ考えさせられた。

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2023年01月14日

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ネタバレ

 これまで2度、渡道しました。キタキツネのエキノコックスには注意しました。礼文島は2~3度訪れました。河﨑秋子さん、作品の幅をどんどん拡げてらっしゃいます。「清浄島(せいじょうとう)」、2022.10発行。昭和29年当時、呪いの島と言われた礼文島に、札幌の道立衛生研究所の土橋義明32歳がエキノコックス症研究・対策で派遣され、長きにわたり苦労を重ねる物語。特にネズミ、キツネ、犬、猫と、野性のみならず飼い犬や飼い猫までエキノコックスが寄生しているかいないかの解剖検査を。人間のため動物を犠牲にするやるせなさ。感染症は怖いけど、読んでていたたまれなくなりました。礼文島は清浄島になり、エキノコックスは撲滅したかに思えましたが、やがて根室で、そして後に、埼玉や愛知で野犬の便からエキノコックスの虫卵が検出される。読後、いろいろな思いが頭を駆け巡りました。

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2023年01月10日

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ネタバレ

北海道礼文島で多発した寄生虫による感染症「エキノコックス症」から島民の命、暮らしを守るための闘いを描いた作品。
エキノコックスは中間宿主であるネズミを食べたキツネや犬、猫が終宿主となりその体内で成虫が卵を産み、それが糞とともに体外に排出される。
なんらかのきっかけで人がその卵を摂取すると、肝臓肥大や肝硬変などをもたらし、死に至ることもある。
昭和29年に道立衛生研究所から礼文島へ感染経路を調べる現地調査のため派遣された土橋は、日々、野犬の剖検に没頭するが、エキノコックスの痕跡を見つけられず、衛生研究所は11名の調査団を島に送る。
そして、野生動物だけでなく、島民が飼育している犬や猫まで全て捕獲、処分してのエキノコックス終宿主根絶に乗り出す。
ただでさえ、島民との間に断絶があった土橋は、島民が可愛がっていた動物の命を断つという立場に立たされ苦悩する。
史実や調査研究に基づくドキュメンタリータッチでありながらも、土橋が島民の思いや営みに向き合いながら使命を果たしていく姿を描いた人間ドラマとして、読みごたえのある作品になっている。
島民の立場に立ちながら土橋と友情を交わす役場の職員・山田、人格者で島を愛する議員・大久保、冷徹だが洞察力のある上司・小山内など、多彩な登場人物と土橋の交流が心に響いた。
礼文島の美しい風景や風土にも触れられ、旅情がかきたてられた。
また、寄生虫、病原体が物資輸送網の発達、海外取引や戦争などの人間活動により移動範囲を広めるという現在のコロナウイルス感染をにらんだ記述も盛り込まれていた。

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2022年12月20日

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利尻島、礼文島に行ってみたいということもあって、興味深く読んだ。
犬、猫の殺処分は、研究員の方達も辛かっただろうと思う。
寄生虫の撲滅は難しい。今は良いお薬があるのだろうか…

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2025年09月27日

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北海道礼文島でのエキノコックスという寄生虫駆除のお話。北海道の人間には馴染みのエキノコックス。礼文島でこんなに苦労した歴史があるとは知らなかった。
いまは早期発見できれば治療可能とのこと。でも、戦後間もない当時では、寄生虫により臨月の妊婦のように腹が膨れたというから恐ろしい。
2005年には埼玉で、2014年には愛知でエキノコックスに罹った犬が発見されたそう。いまもまだ格闘は続いている模様。

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2025年07月26日

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ネタバレ

 「生き物として望ましい死に方ってのは何か」
そんな問いを突きつけられて、読者である私たちはどう受け取るのか。
 最後に受け取る「抗うこと」の意味を、私は理解できたつもりでいるが、当事者とは違う、上辺だけのものなのだと感じる。
 しかし、心に沈んだこの言葉は、いつか私に訪れる死の際で思い出されることかも知れない。

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2025年07月13日

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戦後数年という時代背景、北海道の離島ならではの島民の価値観、昆布漁など漁業の島の生業なども感じられる作品。史実に基づいて取材した作品なのだあろう、エキノコックスという厄介な病の調査・対策に地道に奮闘する主人公の使命感や周囲の人々との心の交流には引き込まれる部分がある。出版年が2022年なので、コロナの渦中に執筆した作品なのだろう。当時治療薬もない病との戦いの中、孤島に閉じ込められず広がっていく新たな病を想起して恐怖する主人公たちは、コロナに翻弄された私たちの姿でもあると言える。

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2025年05月27日

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パンデミック系のお話が好きで手にとってみたけど…思ってた内容とは全然違った…。特にペットを飼ってる人には辛い内容だと思う。自分なら…と考えてしまう。

特に派手なシーンもない、大事件が起こるわけでもない、それでも読んでいて退屈だとは感じなかったし考えさせられる内容だった。

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2024年11月18日

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エキノコックスを題材にしたストーリーで、この内容で最後までどのように展開されるのか気になってはいたが、読み終わると、そこには人間模様、人間臭さがありとても良かった。
他人に不利な判断をしても、誠心誠意付き合えば最後はわかってくれる。

今の時代もエキノコックスは報告されており、毎年、全国で20〜30名新規感染者が報告されることには驚いた。

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2024年10月31日

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ネタバレ

重い話でなかなか読み進められず…
礼文島、道東に行ったときのことを思い出しながら少しずつ読み進め、
約1年かけて読み終わった…。
ちょうど先日NHKの北海道道で礼文島のトド撃ち猟師が、昔エキノコックスの際に繋いだ犬を撃ったら大層苦しませてしまい、それ以来、獲物が苦しまないように一発で仕留めているというドキュメンタリーが放送されて、島民の苦しみや歴史の生々しさを感じた。

木の実をつまんで食べることができないとか、本州では聴いたことなかったので…登山のときキイチゴとかそのまま食べていた。札幌に親が遊びに来て、そのへんにはえてたグミの実を取って食べていて、ダメ❗️といったらポカンとしていたので観光客は結構やってる人多いと思うんだよな。
札幌でもキツネウロウロしてる北大とか近くの公園で小さな子ども遊ばせていたりするし…。ほほえましくもヒヤヒヤする。札幌のキツネは大丈夫なのかな⁉️

エキノコックスが愛知で発見された報にはショックだった。
礼文島の過去を知る人はどう思っただろう。
タイトルに皮肉な意味なのかなと思っていたけれど、そのままの意味でよかった。
また行こう礼文島。

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2024年05月25日

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ネタバレ

大正末期、ネズミ被害に頭を悩ませる人間が
天敵であるキツネを礼文島の野に放った。

P258
〈良いことだと思ってやったことが
後の世で悪いことを引き起こしちまう〉
寄生虫による感染は、どのように起こったのか。
昭和29年、解明するため島へ派遣されたのは道立衛生研究所の土橋。
研究を進める間に下されたのは
終宿主となる可能性のある動物、キツネ、イヌ、ネコを全て処分すること。
島民、土橋にとって過酷という他ない決断だった。

エキノコックス撲滅のためとはいえ
飼っているイヌ、ネコを供出し処分させるなんて。

河﨑さんが描くのは今回も命について。

驚いたのが、P387
おわりに書かれていること。
キツネの感染率が増加を続け新規患者も報告されているという。
まだ終わっていないのだ。

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2024年05月20日

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大正末期、増えすぎたネズミの対策で千島から天敵たるキツネを礼文島に放つ。

戦後、腹が膨れる奇病が礼文島にだけ発生。
エキノコックス症という寄生虫由来の病気。

道立衛生研究所の土橋は単身、調査に礼文島に行く。

実話がベースの小説。

寄生する宿主(動物)を絶てば根絶できるので、礼文島内の終宿主をすべて解剖し感染状況を調査することになる。
終宿主とはキツネ、ネコ、イヌ。
当然、飼いネコ、飼いイヌも含まれる。

次郎の飼いイヌ「トモ」の部分は落涙必須。

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2024年02月22日

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ネタバレ

礼文島、増えたネズミ対策に導入されたキツネによるエキノコックス症を無くすために闘う人々の姿。犠牲を強いられる島の人々、犬や猫を殺される場面では言葉もない。ちっぽけな条虫との闘いは北海道から本州まで広がる被害の中でまだまだ続くようだ。

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2024年01月30日

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寄生虫感染症なのに礼文島の風土病とも言われた「エキノコックス症」に対する公衆衛生学者と町議、役場職員の闘いを描いた作品です。
河崎秋子さん。私はこれまで「次から次に強い文章でたたみ込んで来ます。」「なにせ河崎さんの作品は構えてしまいます。重くて暗い。」などという感想を書いてきましたが、今回はかなり印象が違います。柔らかくなった。良い意味で力が抜けてきた感じがします。
まだ正体も定かでないエキノコックス症に誠実に立ち向かった人々、主人公の若手研究員・土橋、役場職員の山田、村議の大久保、土橋の上司・小山内、そして学生の沢渡。それぞれ見事な造形です。みんな柔らかく影を引きずっていて、その分深みがあります。
島から寄生虫を駆逐するための苦渋の決断。島民からの反発。きれい事で済まない寄生虫との長い戦いと苦みを伴った成功。そういった心境が上手く描かれています。
ああ、良かったねで終わらないところが河崎さんらしさかもしれません。

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2023年09月22日

Posted by ブクログ

北海道に生まれ育った人間はエキノコックスの恐ろしさは子供の頃から何度も言い聞かされてきました。でも最初は礼文島だったなんて、ここ数年で知りました。そのことについて書かれた小説ということで興味を持って読みましたが、ノンフィクションのような作品で読み応えがありました。
礼文島は本当に美しい島で、キツネもクマもヘビもいないから安心してハイキングができます。こんなに辛い歴史を乗り越えて今があることを、もっともっと皆に知ってほしいです。

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2023年08月26日

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読書備忘録759号。
★★★★☆。

ドキュメンタリーかと思うばかりの物語でした。
吉村昭を読んでいるのかと勘違いするくらい。笑

物語はエキノコックス感染症撲滅に人生を掛けた人々の戦いを描く。

時は大正。礼文島を山火事が襲う。森林の再生の為に苗木を植えるが植えたそばからネズミが食う。
ネズミを駆除するために千島からキツネを連れてくる。そして、キツネにはある寄生虫が巣食っていた・・・。

時は戦後の昭和29年。
北海道立衛生研究所の研究員土橋義明は礼文島に向かう船上にいた。
礼文島で度々患者が報告される奇病の調査の為だった。
奇病はエキノコックス感染症。肝臓に寄生虫が巣食い、最終的に死に至る・・・。
エキノコックスの終宿主はキツネ、犬など。中間宿主は鼠。すなわち、寄生虫の卵を食べた鼠に幼虫として寄生し、感染した鼠を食べた終宿主の犬やキツネの腹の中で成虫になり卵を産む。その卵が糞などに紛れて大地にばら撒かれる。野菜、水、山菜に紛れて人間に・・・。ただし、エキノコックスとしては人間への感染はエラー。成虫になれずに人間と共に死んでしまう。
厄介なのは潜伏期間が10年以上の長期に渡るため、感染しているのか判断が難しい。

物語は、礼文島に到着した土橋が、村の職員である山田、村の議員大久保、医師の長谷川など、協力者と共に、礼文島からエキノコックスを駆逐する過程を描く。
さらに、12年後に根室で再び起きるエキノコックス感染症に対する取り組みを描く。

ほんとにドキュメンタリーです。
なんとか感染症を撲滅したい関係者の思いがビシビシ伝わってきます。
そして、撲滅のために犠牲になったペットの犬、猫、そしてエキノコックスという微生物も含めて、あらゆる生き物に対する敬意、悼み、弔いの心。

河﨑さん。「土に贖う」など、北海道を舞台に、時代に翻弄された人々を描く骨太小説がほんと素晴らしいです。

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2023年08月25日

Posted by ブクログ

風光明媚な花の島、礼文にこんな歴史があったこと知らなかった。重いストーリーだったが、最初は好感を持てなかった主人公を応援したい気持ちになり、途中からは一気読みしてしまった。

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2023年06月17日

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エキノコックス症と向き合う若き研究者と感染地域の島民の物語。感染症や寄生虫などの根絶がいかに困難かを思い知らされる一冊。新型コロナについて悩まされた今読むとまた考えさせられる。

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2023年05月12日

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なんと言っても主人公の土橋義明が魅力的だ。

時は昭和29年初夏。
島の出身者から相次いで発見されたエキノコックス感染症を解明する為、北海道礼文島に赴任した土橋の生き様が描かれる。

救える命があるならば諦めてなるものか、その強い信念の元、未知の感染症に一人果敢に立ち向かう姿に感動する。

だがエキノコックス根絶の為に、上司から告げられたのは島で生きる全ての動物達の殺傷命令。
動物を愛する土橋にとって、どれ程の心痛を伴ったか想像に難くない。

時代が変わっても感染症との闘いは続く。

研究者への感謝と共に命の軽重が問われる読後。

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2023年02月18日

Posted by ブクログ

エキノコックス症という言葉を昔どこかで聞いたことがあり、北海道に行ったときはよく意味も分からずキツネに触っちゃだめよという言葉だけが先走ったまま何も知らずに過ごしてきた。
この本を読んでようやくその寄生虫の存在と、キツネに限らず犬や猫にも存在することを知る。利尻島は有名でよく聞く名前だが、礼文島はわき役でその歴史も知らなかった。この小説は礼文島を郷土愛のように書かれており懸命なエキノコックス撲滅に多くの犠牲を払い、いつしか”清浄島”という称号を手にするも、決してエキノコックスは絶えず、現在も日本の全土に存在する不治の病となっていることに驚いた。
研究員や、役所担当者、議員や島の住人達、そして次郎。人物の細かな描写や感情が読んでいて切に思った。読みやすくわかりやすくすごく丁寧に書かれている作品で人物はフィクションでありながらも実際の活動もこんな感じだったんだろうと十分に伝わった。多くの人にこの今も続けられている活動を知ってもらいたいと思う。

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2023年02月05日

Posted by ブクログ

史実を元にしたフィクションです。という一文にヒヤリ。現代に至ってもまだ戦いは終わっていないのか。コロナ禍だから尚更ウイルスや病原菌の話に引き込まれた。

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2023年01月27日

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ネタバレ

読んで楽しい話ではありません。しかし北海道に住むものとしては知らないことにはできない話でした。なかなか終焉しない感染症に見舞われている今、かつて謎の感染症と思われていた寄生虫による病との闘いの物語が世に出てきたのは自分には時代の要請だったのでは、という気がしました。

河﨑先生がこの物語をいつから構想されていたのか存じ上げませんが、よくぞこの重い話を書かれたなと尊敬の念を覚えるとともに、北海道にはまだまだ日本の他地域にはない物語の素材が未発掘のままあるのではないかとも考えました。この物語をどの時代まで描き、どのようにまとめるか、終わらせるか悩まれたのではないかなぁと勝手に想像しました。今も現実が厳しいからこそ、登場人物たちを最後はあのような形にしたのかな、とちょっとした救いのように感じました。個人的には、大の猫好きの先生が犬や猫の腹をどんどんかっさばく小説を書くのはしんどかった面もあったのではとも思いました。

有名某ドラマでキタキツネを「ルールー」と呼ぶアクションが昔放映されましたがあれを見ていた大人は当時大層懸念を示していたことを思い出しました。今でも道民はキタキツネを見ると「絶対触っちゃだめだよ」と言うし沢水は絶対口にしません。湧き水も定期検査などで安全を確認できているものでなければ飲みません。寄生虫はまん延してしまったかもしれないけどそれを予防する知識はこの物語に出てくるような先人たちのお陰で周知されたと思います。そのことに改めて感謝する読書となりました。
道民だけでなく沢山の人に知ってもらいたい物語です。

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2023年01月02日

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ネタバレ

昭和29年北海道の離島、礼文島の出身者から相次いで発見された「エキノコックス」。
腹が膨れて死に至る感染症を撲滅すべく、北海道立衛生研究所の研究員である土橋が奮闘する。

流行拡大を防ぐためにキツネ、野犬、野猫のみならず飼育されてる犬猫までも処分という決断に至るまで。

まるで映像を見てるかのような描写だと思った。
それほどの熱量が、ガンガン伝わってくる。
生死に関わることを追求し、やるべきことを恨まれながらもやるからには覚悟が必要。

土橋とは性格が合わないのか…と思っていた役場の山田、議員の大久保、大学生の沢渡は礼文島を離れた後も交流するほどになるのは、彼らが土橋の気持ちをよくわかっていたからだろう。
決して、ひとりでは出来ないことだから。
そして、彼らは強いと感じた。

今なお、「エキノコックス」を耳にするのはまだ感染することがあるからだろう。
生きている限り、終わりではないのかもしれないが医学は進歩していると信じている。


どんな感染症であれ、日々治療薬を開発している研究者や医療従事者の方々に、心よりご尊敬の念を申し上げます。


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2022年12月05日

Posted by ブクログ

礼文島のエキノコックスの話。
いささか冗長に思えた。
登場人物がみな良い人過ぎた感が。
もう少しハラハラする展開ならと思う。

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2022年12月01日

Posted by ブクログ

10月-13。3.5点。
戦後すぐの礼文島、エキノコックスによる病気が診られ、札幌より学者が調査に。。

感染症との戦いを描く。面白かった。島民の協力を得るための奮闘や、軋轢が上手く描写されている。

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2024年10月30日

Posted by ブクログ

うーん・・・
コロナ禍もそうだけど、ウィルスというものは改めてやっかいで、なかなか収めるのは難しいなと考えさせられる一冊でした。
エキノコックスを撲滅するため、こんなに心身を削り、頑張られた方達がいたこと、なお今も少ないけれど撲滅していないエキノコックスが、まん延しないことを祈りたいです。

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2023年04月30日

Posted by ブクログ

キタキツネから感染するというくらいの何となくな知識しかなかったエキノコックス症。潜伏期間が非常に長く、発見された時は手遅れになっていることが多い恐ろしい病。未だに効果的な治療薬も見つかっていないという病気に、昭和中期にその防疫に人生を捧げた研究者の物語は、寄生虫とウイルスという違いはあれど、未知の感染症に対する防疫の困難さという面において、現在の新型コロナ感染症を思い出させる。

礼文島という小さな島で広がった感染症ということで取られたある方策。これはひどい。元々動物が好きで生物学者になったような研究者にはさぞかし辛い選択だったろう。
この過去の方策に対して20年後に大久保が語った「人に飼われて生きるイヌやネコを殺す人間は、条件によっては人を殺すこともいとわないのではないか」という言葉には頷ける。お上による命の「供出」という恐ろしい策がヒトに向かない保証なんかないんだと。

防疫に携わる人の努力と苦悩が胸に染みる作品は、それでも、彼らを動かす道府県や国の非情な一面を否応なしに思い起こさせ寒い思いがする読後でした。

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2022年12月02日

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