【感想・ネタバレ】敵討のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「日本史上最後の仇討はいつだったと思いますか?」と訊かれたら、歴史好きならわくわくするだろう。明治13年12月17日、臼井六郎という青年が幕末に秋月藩の内部抗争で殺された両親の仇を討ち果たしたのが最後だといわれている。
  六郎の父・臼井亘理は佐幕派であったが、国内の情勢を鑑みて勤皇派に転じて藩士たちの怒りを買い、干城隊という一派に寝込みを襲われて妻ともども惨殺された。当時六郎は11歳。成人するまで仇討への思いを胸に秘め、やがて上京して幕末の剣豪・山岡鉄舟に師事しながら両親殺害の実行犯である一瀬直久と萩谷伝之進の行方を捜し求め、ついに一瀬が東京で裁判所判事になっていることを突き止める。同郷の人々が集まる旧藩主・黒田家の屋敷での会合で偶然一瀬に出くわした六郎は、隠し持っていた短刀で彼を刺殺して本懐を遂げる。
 すでに廃刀令・仇討禁止令が出て久しく、六郎の行為は殺人罪として裁かれるものであったが、江戸の気風を色濃く残す世間の人々は六郎の仇討をあっぱれと称賛した。近代化を推し進める法治国家として殺人を赦すことはできないが、両親を殺された六郎の心情も察するに余りある。法と世論の間で揺れ動いた裁判官が下した判決は…。

 この小説はほとんどセリフもなく、ただ史実を淡々と述べていく。その抑制の利いた文体がより六郎の無念を際立たせ、ひたすら親の仇を討つために生きてきた彼の人生の悲しさ、虚しさも浮き上がらせる。同時に江戸から明治へ、時代が変わっても容易に変わることのない日本人の美風、世間の人々の心の有り様にも考えさせられる。

「最後の仇討」は2011年に「遺恨あり」という題でドラマ化され、テレビ朝日で単発のスペシャル時代劇として放送された。かなり淡々としている原作にすばらしい脚色が加わり物語が立体化され、主演の藤原竜也はじめキャストの心のこもった演技によって数ある時代劇の中でも屈指の名作となっている。放送文化基金賞を受賞し、DVD化もされているため、今でも容易に視聴することができる。
 一瀬を討った後も母の仇・萩谷の厳罰を求め、六郎は執拗に両親の仇を討とうとするが、それは目的を遂げた後に訪れる心の空白をより大きくする。生きる目的を失った六郎が川原で号泣するシーンは必見。また、一瀬にも家族がいること、萩谷の無残な最期、六郎自身も殺人者になってしまった悲しみを丁寧に描き、いつまでも深い余韻を残す。
 2018年のTBSドラマ「アンナチュラル」に「殺す奴は殺される覚悟をするべきだ」というセリフがあるが、連鎖の危険性をはらむ復讐の本質を端的に言い当てていて、この「最後の仇討」にも当てはまると思う。

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2021年01月22日

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