あらすじ
ここに書かれたことは実現しなければならない――好色で、酒好きで、暴力癖のある作家・須賀庸一。業界での評判はすこぶる悪いが、それでも依頼が絶えなかったのは、その作品がすべて〈私小説〉だと宣言されていたからだ。他人の人生をのぞき見する興奮とゴシップ誌的な話題も手伝い、小説は純文学と呼ばれる分野で異例の売れ行きを示していた……。ついには、最後の文士と呼ばれるまでになった庸一、しかしその執筆活動には驚くべき秘密が隠されていた――。真実と虚構の境界はどこに? 期待の新鋭が贈る問題長編!
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
『文身』という言葉を初めて知りました。
刺青のことだそうですね。
虚構が現実になる、というよりも、自分の手で現実にしてしまう。という表現の方が近いように、兄の人生は優秀である弟の手中にある。
しかし、それすらも兄自身が望んだことだとしたら、本当に虚構を生きていたのは弟の方だったのかもしれません。
終盤は読者である私も『どちらが虚構でどちらが現実なの?』といった具合に境目がわからなくなってしまいました。これも作者の狙い通りなんだろうな。
わたしたちの身の回りにもきっと、現実だと思ってた中に虚構が含まれているんだろうと思います。気づかないまま一生を終えることもあるでしょうけど。
おもしろい読書体験でした!
Posted by ブクログ
どんでん返しのどんでん返し。
1回目のどんでん返しではちょっとガッカリしたけど
やはりラストは裏切らなかった!
よしっ!
しかし私小説って面白いのかな。
文章読んだ感じではそんなにヒット作になるような作品ではなかったけど。(奥さんの死のとこは除く)
とりあえず弟の人生は嫌だ。
波乱万丈だった兄の方がマシだ。
Posted by ブクログ
第4章までは、読み進めるのも嫌なくらい、とっとと飛ばして読んでしまおうと思うくらいだった。が、その後の展開にはやられた。最後の一行が最高。
Posted by ブクログ
私小説,最後の文士.現実と虚構の真実は紛らわしい.
死んだとされる弟の小説ありきの壮絶な人生を生きる兄.そもそも弟は生きているのか?と言う問を最後に投げかけ,そしてラストの1行でひっくり返す.いやもう,モヤモヤしていまだによくわからない.
Posted by ブクログ
面白かった。2度のどんでん返しより、父の存在意義を見出せなかった娘が、最後父と同じ生き方を選択する、それも同じ理由である所が血は争えないというか、そういった親子の絆の描き方もあるのかと感心した。あと庸一の娘を不要と位置付けて小説では描いてこなかった賢次が、兄が亡くなった後最後の文士に明日美を選ぶことで、兄が情をかけていた娘の存在を認めたことにより初めて兄の意思を汲んだ様に取れて、歪な兄弟の絆からまだ解放されない賢次にぞっとする様な嬉しい様な複雑な気持ちにさせられた。
人として生を受けた以上は何か残して死にたい、後世まで語り継がれる自分の存在という何かを。(私が勝手に受け取ったメッセージ)自分の生きる意味を渇望してたようにとれる明日美の最後の独白にひどく共感してしまって、私もこの小説を読んだ意味はそれに気がつくことなんだと思わされてしまった。
Posted by ブクログ
続きが気になってしょうがなかったので、ほぼ一気読みした。
エンディングでは、弟の堅次は生きているのか死んでいるのか、もうどっちが真実なんだか訳わからない状態になってしまった。
庸一の妻、詠子の死に方が本当に作中作「文身」の通りであるならば、詠子も庸一も堪らないだろう。 詠子の台詞。
『〈本当の須賀庸一〉なんか好きじゃないから。あたしが愛してきたのは、傍若無人で社会不適合な、文士の須賀庸一なの。作り物の、虚構の、操り人形の須賀庸一なの。あなたの自由意志なんか知らないし、聞きたくもない』
庸一が、電車の中で会った初対面の一家に対して、泣き喚く弟を泣き止ませるよう兄に命令し、兄が実行する場面、それがその二人のそれ以降の兄弟関係に大きな意味を持った、という、設定が、この作品中唯一といっていい位、「いい話」だった。
プロットは全く関係ないが、作品の匂いとして、米澤穂信さんの『追想五断章』を思い出した。
Posted by ブクログ
なんとも表現し難い作品でした。
あまりの展開に嫌悪感が募り、顔を背けたくなりながらもどうしても先が気になり読んでしまう。
昔のウッチャンナンチャンのバラエティ番組で『未来日記』というコーナーがあったのですが、それを思い出しました(歳がバレる笑)。司令書に未来の日記が書いてあって、そうなるように自分たちで動いていくのです。
この物語の主人公は兄弟ふたり。15歳の時に偽装自殺した弟が、その後姿を隠して小説を書き続け、兄の名前で世に出す。その小説は私小説として発表する。
「私小説は自然主義の文学であり、現実にあったことでなければ書いてはならないという認識すらある。」
でも普通の私小説と違うのは、弟が書いた小説の内容を後から兄が経験するというところ。
ここまで読んで、え?ということは、序幕で書かれていたあの場面は弟が書いたシナリオの結果なの?と気付き、なんとも言えない嫌悪感が‥‥。
どこまでが事実でどこからが虚構なのか?この兄弟を結びつけているものは何なのか?
何とも言えない薄暗い物語でした。
でも、先が気になってどうしてもページを捲ってしまいました。
Posted by ブクログ
やっと読み終わった。庸一も堅次もその両親も庸一の妻も理解不能で、この感じ、読んだことあるなと思ったら太宰治の人間失格だった。そういえば、あの小説も、最後の一文でハッとさせられた気がする。記憶が正しければ。
作中の文身は読み進めていくにつれて、どんどん不快感が強まる。幼少期の何気ない一家の様子から、どんどんありえない展開になっていく。一番の転換点は、妻の死を唆すあたり。兄弟が一気に不穏な空気になる。そこからのあまりにもな展開に、顔をしかめながら最後まで一気に読んだ。
最後、どんな終わり方になるのかとおもったら、結局弟は生きているというラストであってるのか?そうだとしたら、結局何が本当で何が虚構か本当にわからない。この、何がなんだかわからない感じ、この本を読む前のレビューで知っていたから、本当にこの感想になったことに今驚いている。けど、このわからない感じは、私は好きじゃない。最後にスッキリするかというと、全くそんなことはない。わたしの読解力では、最終的にこの本のジャンルは、ホラーになる。ただただ怖い。私の理解が追いついてないなら、教えてほしい。でもとりあえず読み終えることができてよかった。凄い本であることは確かだと思う。ただ次は明るい幸せな血の通った話が読みたいとつくづく思った。
Posted by ブクログ
想像してたものを遥かに超える内容に、嫌悪感を強く感じてしまった。
が、後半に実は書いていたのは弟ではなく本人だったのかという展開に驚きつつ、ラストでまた覆され一体なにが本当なのか。
兄弟の絆は本当にあったのか、あったとしてそれは絆なのか呪いの鎖だったのか。
Posted by ブクログ
波瀾万丈で破天荒な私生活を小説に綴り最後の文士と言われ亡くなった男が娘に実は自分が小説を書いたのではなく弟が小説を書きそれを自分が実行に移してきただけだったという衝撃的な事実を手紙で送ったことから始まる物語。
自分で決めた事とはいえ表に出ない弟と自分は描いてないのに持て囃され人気者にある兄と関係性の変化がリアルだった。
そして最後に衝撃的な内容が書かれており、さらに最後の一文でまたどんでん返しのようなものが待っている作品。
途中読むのやめようと思ったけど読んで良かった。