【感想・ネタバレ】月の森に、カミよ眠れのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

たつみや章の『月神の統べる森で』と混乱しちゃう。
でも、縄文が舞台の『月神の~』とは違い、こちらは律令の世の中。
それでも人はまだ神のそばで生きていた。

九州の山間の小さな集落。
男たちは狩りをして、女たちは稗や粟を作ったりどんぐりの粉で団子を作ったり。
欲しいものは山が与えてくれる。
神さまの場所さえ侵さなければ。

しかし、時代は変わってしまった。
男たちは朝貢(えだち)のため都で6年間暮らさなければならず、男手の足りない村は狩りをすることもままならず、どんなに工夫をしてもひもじさをこらえることはできなかった。
そしてようやく帰ってきた男たちは、遅れた生活(全身の刺青、狩猟生活等)から抜け出すために、田んぼを作るという。
神の力の源である沼のすぐわきに。

神と人の間に生まれ、鬼とさげすんできた都人を見返そうと神殺しをするためにやって来たナガタチ。
同じく神と人の間に生まれ、神の思いを体現するタヤタ。
神と人との間で絆となるカミンマとなる予定の少女キシメは、タヤタを愛しながらも人として村を見捨てることもできないでいる。
神が守るのは山であり、人ではないのだから。

登場人物たちのほとんどが、自分のためではなく、みんなのためにどうしたらいいのかを考えている。
立場によって、そだちによって、あるべき未来が違うため、どうしても意見を統一することはできない。
神を殺すべきなのか、徐々に滅びていくべきなのか。

結果を私たちは知っている。
結局人は、神を殺したのだ。
山全体の命ではなく、人間だけが生き抜いていけるように自然を変えた。

”〈掟〉をいちどやぶることは、崖からちょろちょろとふきだした、わき水のようなものだ。しだいにまわりをけずり、ひとにとっては、考える気にもならぬほど長い時ののちに、その水におのが身をけずられて、崖はくずれさる。”

40年が過ぎ、少しずつ森が切り開かれ、掘り返されて、稲田が広がっていく。
倉には沢山の米。
しかし人々は飢えている。
だってその米は〈租〉だから。
朝廷に納めなければならないものだから。
苦しさは変わらない。
朝貢がなくなっただけ。

直接話には出てこないけれど、朝廷の信じる神は、太陽の神で、女性神。
朝廷に従うことになった民の土着の神は月の神で、男性神。
そういう対立もきっとあったんだろうなあ、と思う。
世界的には男性が太陽神の場合が多いけど、日本はアマテラスという女性神で、月は男性のツクヨミなのは、何か意味があるのだろうかと以前より思っていたけれど、命をはぐくむ女性が〈絆〉として神と人を繋ぐ存在になるために、神は男性なのかもしれない。

0
2023年01月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

時代の流れに取り残された貧しい集落。貧しさから脱却するために近代化を図るも古来からの掟が村人を縛る。ゆえに村人は神殺しを決行することに。ただ新たな時代となっても貧しさからは逃れられないという、虐げられた村人の姿は悲しみしかない。

0
2018年10月10日

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ネタバレ

これは、私たちの物語。

舞台が古代日本でも、隼人にフォーカスがあてられていても、だからこそ、わたしたちに連綿と続く歴史の物語。

主人公のナカダチは、カミ殺しを依頼される。
ナカダチの母は山の神にみいられ、子であるナカダチを生んだが、不幸になった。
ナカダチが母を背負って旅をして、それが遺体になっていたことに気づくくだりは、彼のさみしさを際立たせる。
彼の異能の力を役立たせるため、カミ殺しを依頼されて訪れた先にはカミンマという一人の少女がいる。カミンマ、神と人の境界の存在のこと。
月のものが訪れた女性にしかなりえない、神の声をきくもの。あわいに立つもの。
キシメはなぜ自分たちがカミ殺しを考えたかを、ナカダチに語る。

ごく普通の少女だった彼女は、死にかけ、月の森でホオズキヒメに介抱され、その息子のタユタと深く触れ合うことにより人間としての命を失い、キシメという名を与えられる。
ホオズキヒメもまたカミンマである。その美しさに郡司に見初められるが、ホオズキヒメは月のカミと恋をして、子供を宿す。
しかし母親の口車に乗せられ、毒針を月のカミに刺してしまう。
傷ついたカミは荒れ狂いみにくい姿をみせるが、ホオズキヒメは裏切りの許しを彼に乞う。
そして彼の息子であるタヤタと、月の森にひっそりと暮らしているのであった。


一方、キシメはカミンマとなり、歌を送られタヤタに求婚される。それを受け入れようとするが、兄たちが都からもどり、朝貢のかわりに律令をとりいれようとする朝廷の命令に従って、稲作をはじめようとする。
ヒトの暮らしを楽にするために、カミとのあわいの地、絆の地を侵そうとする。
稲を植えることが罪だろうか、とキシメも疑念を抱き、カミ殺しに同意する。
しかしそれはつまり、タヤタを殺すことを意味したーーーー。

キシメは物語の中で、なんども選択を迫られる。
タヤタの手を取ってカミンマとなるか?
文明を取ってタヤタを殺すか?
それは誰が迫られても同じように迷い、間違えるであろう、難しい決断。
この物語はなんともいえない、ハッピーエンドとは言い難い結末を迎えるけれど、これこそが我々が選んできた歴史なのだということを突きつける。歴史のなかで、わたしたちは何度カミを愛し、カミに愛され、カミを裏切り、殺してきたのだろう。
そしてきっと、これからも。

タヤタとキシメの物語は、ヒトとカミがいかにあいいれぬ存在かということも浮き彫りにしている。山の流れを司るカミと、その構成物のひとつに過ぎないヒトでは、視点の高さがどうしても違う。
ロマンティックな恋物語だけれど、そのすれちがいがきちんと描かれているのがさすが上橋さん。


他の作品の根底に流れているようなほのかなあたたかみがなく、一味違う作品だけれど、傑作だと思う。

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2015年05月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

悪がほろんでハイおしまいというような
単純な印象ではない
カミと人の共存

これでいいのかな
答えがないままなんとなく
終わってしまった

沖縄基地問題もなんとか
いい方向に解決できますように

参考:九州祖母山
『あかぎれ多弥太伝説』

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2014年01月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

古代日本が舞台。 人とカミとの掟をめぐる、切ない物語。巫女のカミンマであるキシメと、カミの子、ナガタチとタヤタが己の運命を背負いながら、自分の中の思いと葛藤する。何だか、子どもの頃よく見た「日本むかし話」を思い出してしまった。あれも、子どもが見るアニメなのに、切ないラストが結構多かった気がするな。私、こういう少し陰鬱だけど心に訴えるような古代の日本の物語の挿絵、少しやってみたいかも。

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2016年01月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

神話を元に歴史考証などもきちんとした上で
それでもフィクションのファンタジーとして仕上げられた作品。

大和 朝廷が律令制で日本をまとめあげようとしている頃。
遂にその手が九州地方まで到達する。
時の流れに違和感や反発を覚えても、従うしかなく
その中で捨てなければならないものに戸惑い、正しいものがなんなのか迷う。

同じように神話、古い時代の日本を元にしたもののけ姫でもやはり
似たようなテーマが取り上げられていたが、
より実際にもとづいてリアルに穢れや伝統などについても描写されている。
カミなのか、オニなのか。
確かに殺した後で祀ればカミになるという都合の良いシステムも存在する。
飽く迄も人間から見て、都合が良いか悪いか。
益獣と害獣の判断と同じだ。

だがそれでも、アツシロたちが間違っていると簡単に部外者が言えるものでもない。
他の大きな村が勝てなかった朝廷相手に、小さな村が勝てるわけもなく
働き手を何年も朝廷に取られて村が立ち行くわけもなく
かと言って米を作ったからと言って搾取されるばかりで暮らしが楽になるわけでもない。
それでも、このままでは今すぐ村が潰されてしまう。

アツシロたちも、カミンマも、タヤタも、守ろうとしているのは同じなのだ。
何を守ろうとするのか、なんのために守るのか、それが違うだけだ。

それがこんなにも悲しい結末を迎え、
殺されるとわかっていて尚キシメを愛し、死ぬとわかっていてもそれでも
キシメを愛しいというタヤタがあまりにも切ない。

掟は人の命より大事。
本当にそうなのか、と、現代に生きる自分は思ってしまう。
大事なのはわかる。だがそれでも、他に方法はなかったのだろうか。

掟もカミも失われた村で、それでも人は生きていくしかない。


あとがきで、日本は単一民族国家ではないとすっと言い切っているところが
先生らしいなと思い惚れ直した。

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2015年04月12日

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