あらすじ
トレーディングにおけるマネーマネジメントの世界に多大な貢献をしてきたラルフ・ビンスの考え方は、金融のプロのみならず、ベテラン級の一般投資家たちの心をもとらえて離さない。その彼が前三作(『投資家のためのマネーマネジメント』『マセマティクス・オブ・マネーマネジメント』『ニュー・マネーマネジメント』)の概念を基に新たなモデル(レバレッジスペースモデル)を開発した。これは、彼の理論を実践に応用することを可能にするモデルである。ドローダウンという概念を、従来の枠組みを超えて議論している書籍は本書を除いてほかにはないだろう。リスクの測定にリターンの分散を用いてきた従来モデルから発想を180度転換して、リスクの測定にドローダウンを用いる点がこのモデルの最大の特徴であり、画期的な点でもある。
そしてこれが、彼のモデルがこの業界で半世紀以上にもわたって使われ続けてきた従来モデルをはるかにしのぐモデルであるゆえんでもある。 第1部は理論が中心だが、オプティマルfアプローチによる最適ポジションサイズという観点からポートフォリオ構築を考えるうえで欠かせない理論ばかりである。理論・概念の理解やポートフォリオの構築に欠かせないものが数学である。しかし現実問題として、ポートフォリオを構築するうえで壁となっているのがこの数学である。
ギャンブル理論や統計学などの基本的な理論に始まり、ポートフォリオの構築に必要なケリーの公式、オプティマルfの説明、そして複数の同時ポジションを扱うためのレバレッジスペースモデルへと読者を導いていくなかで、彼が最も重視したのは理論、概念、ポートフォリオ、モデルを読者に数学的にきちんと理解させることである。例えば、次のような複雑な概念を採用する際に壁となる数学的問題にも明確な回答を示している。
・オプティマルfの枠組みを破産リスクや現実世界でより応用の効くドローダウンリスクと関連づけて適用するにはどうすればよいのか
・リターンの再投資と幾何的成長問題
・成長の法則、効用、有限流列
・古典的ポートフォリオ構築
・大きな成功を収めてきた商品ファンドに共通するポートフォリオやシステムのマ ネージメント手法
本書はトレーディングについてのみ書かれたものではない。基本的な数学法則とコ ントロール不可能なリスクを伴う一連の結果を扱うときに、これらの数学法則がわれ われにどのような影響を及ぼすのかが本書のメーンテーマである。
幸い彼は優れたライターでもある。本書を読み終えるころには、難しい概念も数学 も難なく理解できているあなたがいるはずだ。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
理論的な背景はいいから結論を三行でまとめてくれ。そんな本。
主眼であるオプティマルfについていえばこんなカンジ。
①期待値が負のゲームではいかなるマネーマネジメントを用いたところで勝てない
②期待値が正のときにリターンを最大化できるのは総資金の一定比率賭けである
③総資金に対する最適比率はオプティマルfである
勇敢なパイロットというか、両手ぶらりノーガード戦法というか、とにかくリターンの最大化を最重視するもんだから、理屈ではそうでしょうがね、なんてトレーダーにいわれる始末。
独立試行という前提においてはドローダウンという危惧は無意味である。確率的には限界がないため、1/2のコインでさえ20連敗30連敗が余裕でありえるのだから、そんなことを前提に考えたところで何の意味があるの?それよりも、とにかく貴様ら、どうすればリターンを最大化できるかというこのアイデアの素晴らしさをもっと知るべきだと思います。
てなカンジだから、ま、しょーがないっちゃしょーがないんだろうけど、実践ではむずかしいもんがある。リターン最大化しようとしたら全資金ぶっ飛ばしちゃった、なんて抜かしたらファンドマネージャーなんかぶっ転がされてしまう。
後半では破産確率やらプロのインタビューなんかがでてくるけど、そもそもからして目的がちがうのだから、いくらすりあわせてみようとしたところでやはり別物でしかない。トレーダーの目的は、資金をぶっ飛ばすことなく、いかに安定的に増やすことができるか、なんだから。
じゃ、無価値なのかっつったら、そんなことはなく、まえがきにもあるように、トレード手法の優劣の観点が99%を占めていた業界において、トレード手法を一切語らず、どんなトレード手法にも数学的に最適なマネーマネジメントが存在しうると主張したこの本は、新たなものの見方・考え方を獲得することができるという意味だけで、充分に価値がある。