【感想・ネタバレ】京の都で薬屋さん始めました ~鬼の陰陽師と身代わり姫の診療録~のレビュー

あらすじ

雪山に捨てられた少女・朱那を救ったのは鬼と人の血を引く若き陰陽師、皇子・瑠王だった。
鬼の里で医術を学んだ朱那は、都で病に伏す姫の身代わりを頼まれる。
しかし驚くべきことに、その姫は朱那に瓜二つ。これは呪いか、それとも陰謀か──。
姫のふりをして屋敷に潜り込んだ朱那は、薬草オタクで動物好きな野性児ぶりを隠しきれず、
周囲は「姫さまがご乱心!?」と騒然となる。
だがその並外れた知識と行動力で、病の謎や屋敷に渦巻く不穏な気配を次々と解き明かしていく。
東宮からの求愛にも惑わされず、朱那の心はずっと瑠王のもので…。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

普段はキャラ文はほとんど読まないが、今は卒業したBLで数少ない好きな作家の一人である華藤えれな先生の非BLの新作ということで待ってましたとばかりに読んだ。

華藤先生の作品に通じているのは読んでいる時に五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)をフルに働かされるということ。本作でもそれはいかんなく発揮されている。そして読み手も登場人物と同様に感じながら話に溶け込んでいく。

主人公の朱那は鬼の郷で育つも極めて論理的思考の持ち主であり、根拠のないものに惑わされない。すぐに噂や妄想に惑わされる民衆が全く効果のない権威的なものに縋るのは今の世の中にも通じることである。物事の本質を見極めて行動をする朱那は今を生きる私達に最も求められるものだ。別世界で人に害を与えることなく過ごしている鬼達への人々の偏見も異質なものに対する現代社会における差別行動にも繋がる。また民衆の救済策を考え実現に向けて奔走する瑠王を邪魔立てする反対勢力。誰のための政策なのか?どこを向いた政り事なのか?平安時代を舞台にしていても、その根底に流れるものはまさに現代社会における問題でもあり、それを感じ取れた読者にとっては有意義な作品になると思う。

朱那を温かく見守る登場人物達もそれぞれが魅力的で、とりわけ朱那を助けようと自分の命まで投げ打って守ろうとする紫蓮の親心に泣けた。

人間と鬼の混血の瑠王もまた人間にも鬼にもなり切れず、孤独の中にいる。異質なものを排除する傾向が人間にはある。そしてそれを扇動して弱者を攻撃しようとする勢力もまたいつの世の中にもある。権利者に阿る者は単なるコマとして使われて、結局排除される。桔梗の典侍のように。まさに今政界で行われているトカゲの尻尾切りそのもの。そういう意味でも世相を反映したタイムリーな作品とも言える。

朱那のように現実逃避することなく立ち向かっていく強さを持ちたいものである。

また自分の気持ちに正直に生きていくために密かに雪椿を切望していた瑠王。雪椿があろうと無かろうと、雪椿であろうがなかろうが、朱那と共に生きていくという決意は最後には揺らがなくなった。何事も自分次第。未来は自分の力で切り開いていくものだというラストが清々しい。

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2025年09月09日

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