【感想・ネタバレ】技術安全保障 科学とイノベーションは平和のために何ができるかのレビュー

あらすじ

【安全保障上の重要技術をどのように見抜き、活用していくか】
ロシア・ウクライナ戦争の勃発、米中対立の激化といった安全保障環境の激変に対応するため、日本では安全保障法案が成立し取り組みが加速。重要技術育成プログラム(Kプロ)も始まっている。重要技術の維持・育成は、重要技術の輸出入によって、日本が他国から不当な影響を受けない力を持つこと、そして他国への影響力を発揮し、これにより平和を維持することを目指したものである。

本書では、(1)安全保障、(2)技術的特異性、(3)経済、(4)経営の観点から俯瞰して重要技術を見極めるための理論あるいは見取り図を提供し、上記の関係者たちがそれぞれどのような行動をとるべきかを示す。技術安全保障とは、防衛力強化と経済安全保障の強化のために、安全保障上の重要技術の特定、創出、保護、活用を行うこと。技術安全保障は、単独の専門性ではなし得ず、安全保障、技術、経済、経営の知見を融合させて初めて可能となる。本書は、技術安全保障を実現するための方策を、多角的視点から第一人者が明快に解説する、待望の手引書である。

【目次】
序章 科学技術に携わる者は平和への鍵を握っている
第I部 論理――戦争を遠ざける重要技術とは何か
第1章 技術で戦争を遠ざける2つの道
第2章 防衛における抑止と技術
第3章 経済安全保障における抑止と技術
第4章 防衛上の重要技術――ゲームチェンジャー
第5章 経済安全保障上の重要技術――サプライチェーンチョークポイント
第II部 実践――重要技術で戦争を遠ざける方法
第6章 重要技術の特定――困難と乗り越えるための方策
第7章 重要技術の創出――求められるイノベーションの視点
第8章 重要技術の保護――技術を守ることは日本と平和を守ること
第9章 重要技術の活用――抑止を有効に機能させるための方策
第10章 技術安全保障政策を実装可能な体制構築と人材育成
終章 平和のために科学技術に携わる者が今なすべきこと

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Posted by ブクログ

とても素晴らしい内容。

全般通じて筆者の安全保障に対する熱意と、官民問わず、また産学官問わず、日本国関係者全員が戦争回避のために役割を果たすべきというメッセージを強く受け取った。

日本も戦争とは無関係ではないという前提に立ち、その上で技術を用いていかに戦争を回避していくかという視点に立っている。
戦争は時代とともにそのあり方も変化していき、非国家主体での脅威が注目される時代もあれば、多くの人間にとって想定外だった大国ロシアとウクライナ間での戦争も行われているという不確実性ある世界情勢推移を認識している。さらに技術については、ゲームチェンジャーの登場頻度が加速しているという考え方を紹介している。

戦争を回避するための根本的かつ基礎となる理論として、対立状態から誤認識、不確実性などが介在して戦争に至ることがあるが、あらゆる発信に加えて、防衛的又は経済的手段による抑止力を強化することが、誤認識、不確実性を起因とした戦争の回避も可能だとしている。

伝統的な陸海空以外にも宇宙・サイバー・認知戦など領域を拡げると、SNS、ウェブマーケティングなどもデュアルユース、ミクスドユース、フュージョンユース技術として応用できる。また、先端技術のみではなく既存の技術の活用方法の発見からゲームチェンジャーは登場しうる。こういった技術の傾向や動向がある中で、科学者、技術者、製造企業、官公庁などが連携することで、幅広い領域での技術安全保障の推進と、ゲームチェンジャーの効率的効果的な創出ができるというメッセージを感じた。

重要技術について、官公庁だけの調査のみではおそらく網羅できないため、サプライチェーンポイントの候補となりうる製品やゲームチェンジャーに応用可能な技術を科学者、技術者、企業などが報告し、官公庁が受け取る仕組みが必要である。
さらにはこうした情報の収集・分析・評価を行うために、経済、経営、科学技術、国際情勢など広範な分野での横断的な知見を融合できる体制が必要である。

イノベーション論に触れつつ、技術プッシュ型とデマンドプル型のゲームチェンジャー創出のフローも描いている。いわゆる段階的にフェーズを通過していくフローのようにも見えるが、その間には試行錯誤とフェーズのやり直しなどが発生することも前提に論述されている。また、各工程・フェーズでも必要な知見が異なり、科学技術、経営、その他あらゆる知見の融合が必要である(この論点は本書を通じて繰り返される)。

マルチ専門チームの体制構築のあたりではプロジェクトマネジメントについても言及があり、個人的にも興味が高まった。

ゲームチェンジャー市場の一つのアイデアとしてドローンをデュアルユース化し、購入費の一部を国が負担し、有事にはどのドローンを活用できるというもの、非常に共感しよいアイデアだと思った。

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2025年12月02日

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