【感想・ネタバレ】哲学の教科書のレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年01月03日

 哲学の大きな特徴は、時間や自我、物体、因果律などについて徹底的な懐疑を遂行することであり、この点で、これらに拘泥せずに前提とした上で論じられる思想や文学、芸術、人生論、宗教とは異なっているのである(なお、哲学でないことがこれらの価値を下げることはない)。また、物理学、社会学、心理学などの諸科学では...続きを読む、私固有の意味付けや印象は排除され、客観性が求められるが、哲学は、自分固有の人生に対する実感を忠実に、しかもあたかもそこに普遍性が成り立ちうるかのように言語化する営みである点で異なっている。ゆえに、科学には客観的な答えはあるが、哲学は、人類の歴史が終わるまで終わりはなく、問い続ける運命にあるのである(哲学の一番の敵は、「分かったつもり」になることである)。
ところで、「死」を全くの「無」と仮定することは、我々の実感に合わない。すなわち、我々は死を不幸でかわいそうな状態というマイナスの了解事項として捉えているである。そしてこのことが、我々が日常的「死」を直視しないようにして生きている原因の一つなのかもしれない。しかし、われわれが死ぬことよりも確実なことはない以上、「死」について恐れず考えるべきであり、自分が一滴もいない世界について思いを寄せることほど欺瞞的なことはないのである。
 この他にも、哲学が取り組んでいる固有の問いには、時間、因果関係、意志、存在、他者、善などがあるが、これらの問いに答えようとする哲学は、医学や法学のように技術や道具として役立つものではない。ただ、哲学は徹底的に疑うところから出発するため、前提とされている了解事項や、我々に押し寄せる不幸(様々あるが、究極的には「死」)をごまかさずに直視する目を養うことにつながる。つまり、哲学とは、「死」を宇宙論的な背景によって見つめることであり、それによって、小さな地球上のそのまた小さな人間社会のみみっちい価値観の外に出る道を教えてくれるものなのである。

 おそらく本書は、様々な例を挙げることで、哲学の感触を読者に届けようとして書かれたものであると思われる。そのため、哲学に関する本にしては、特に中島義道にしては、分かりやすい本になっていると考えられる。
哲学的な問いとはどういうものか理解でき、勉強になった(例えば、「近代とは何であったのか」は哲学的な問いではなく、「過去はいかに存在するのか」は哲学的な問いである)。また、日頃から哲学的視点を持ち合わせていることは、言葉の意味に敏感になったり、因果について深く検討したりすることにつながり、自分の視野や思考が広がると感じた。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2020年05月05日

原因や結果とは、「こうしたことは二度と起こってほしくない」とか「この現象は回避したいものだ」とかの原始的なわれわれの欲求にしたがって、自然現象をさらにとらえなおすことです。P163
因果関係とは、「起こってほしくない」という思いを込めて、ある現象を見るところに発生する概念です。原因とは、ある現象が、...続きを読むわれわれが期待している通常のあり方から逸脱したとき、はじめて問うようなものなのです。P165

過去の出来事に興味を抱く態度全体が、じつはもはや取り返しのつかない意思行為をいかにとらえるかという態度に支えられています。過去の出来事の原因を問うのは、第一に、過去の出来事がもはや取り返しのつかないことを知っているからであり、第二に、それにもかかわらず「腹の虫がおさまらないか」からです。われわれは過去のとりかえしのつかない出来事に、現在何らかの「決着」をつけたいと願うのです。われわれがこうしたこと一切を今から遡って「なかったこと」にすることができるような存在者なら、人をいささかも恨まないような存在なら、そもそもいかなる原因を問うこともないということです。P169

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