あらすじ
異世界で魔王を討伐し、現代に帰還。小説家となった仁奈。共に戦った勇者、マインハルトを忘れられずにいたけど、作品の実写化キャストとして現れたのはなんと彼!再会の感動もそこそこにぐいぐい迫られ!?「俺のすべては、仁奈のものなんだから」甘い囁きと執拗な愛撫。昂った剛直で絶頂に導かれ、幸せに満ち足りる。人気アイドルと時空を超えた溺愛ファンタジーラブ!
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Posted by ブクログ
まず、表紙が本当に素晴らしかったです。
なおやみか先生の繊細なタッチで描かれた仁奈と速人は、再会した瞬間の感情がそのまま絵に宿っているようで、思わず見惚れてしまいました。
ステージの光に照らされた速人の汗、揺れる睫毛、仁奈の戸惑いと引き寄せられる気持ちが交差する視線。
まさに“再会の運命の瞬間”が凝縮されていて、本を開く前から心を掴まれました。
物語は、作家として成功しつつも、胸の奥には忘れられない異世界の記憶を抱えた間宮仁奈(ペンネーム:深爪)から始まります。
高校生の頃、突然異世界アークトチスに聖女として召喚され、
勇者マインハルトたちと共に魔王討伐へ向かった一年間。
その濃密で、切なく、鮮烈な時間は、現代に戻った彼女の心に深い影を落とし、小説「女子高生、異世界転移して聖女になる」へと姿を変えていきます。
この設定だけで胸が締め付けられるのに、さらに “魔王を倒した瞬間に元の世界へ強制送還された”という残酷さ。
マインハルトとの想いが結ばれる前に別れた喪失感は、
彼女の中で整理しきれないまま、大人になった今も残り続けています。
そんな仁奈に、転聖の実写化が決まり、キャスト顔合わせの場に現れたのが、国民的アイドル・皇速人。
そして、彼女を見るや否やこぼれ落ちる涙。
このシーンの衝撃は忘れられません。
速人の眼差しは、初対面のはずの原作者に向けるものではなく、
「やっと見つけた」と語るような焦がれるほどの熱を帯びていて、読んでいるこちらまで息を呑むほどでした。
その後ふたりきりのバーでの対話で、
速人が“マインハルトの転生体”であると告げる場面は、胸が震えるほどドラマチックでした。
仁奈の手を握りながら「前みたいにマインハルトって呼んで」と囁く速人に、異世界での記憶が一気に溢れ、読んでいる自分の心まで揺さぶられるほど。
速人の愛情は、一途というだけでは説明できないほど深くて重い。
何十年も仁奈の帰りを待ち続け、最期の瞬間まで仁奈を想い続けた彼が、再び生まれ変わり、赤ん坊の頃から記憶を持ったまま
“ただ仁奈に会うためだけに人生を歩んできた”という事実。
この執着は狂気じみているのに、まっすぐで純度が高く、読んでいて胸が痛くなるほどでした。
仁奈も、再会したことで心が再び動き出し、異世界で抱えた気持ちに向き合っていく過程が丁寧に描かれていて、「好きになってはいけない」と抑え込んできた想いが少しずつ溢れていく様子がとても美しかったです。
また、速人の嫉妬深さや独占欲が
この作品の面白さと甘さを大きく引き上げています。
仁奈が他の男性と話すだけで拗ねる、好きすぎて挙動不審になる。
アイドルなのにこんなに可愛くて大丈夫?と思うほどの愛情表現が、切なさと同時に強烈な愛しさを生んでいました。
後半の暴露騒動も、仁奈を守るために最初に心配するのが
“自分の立場”ではなく“仁奈の心”である速人の姿勢に胸を打たれました。
転聖という作品への誠実さと、仁奈個人への深い愛情、どちらも守ろうとする真摯さは本当に魅力的でした。
そして、仁奈が速人に向けて
「あの時、アークトチスに残ったと思う」と伝える場面。
これは物語の中でも屈指の名シーンでした。
読んでいて涙腺がじわっと熱くなるほど。
二人の再会が“奇跡ではなく必然”だったと感じた瞬間です。
プロポーズ、そしてエピローグまで、異世界で結ばれなかった恋が、現代で丁寧に結び直されていくこの流れに、最後まで心をぎゅっと掴まれっぱなしでした。
甘さも切なさも愛情も、全てが濃厚で美しく、読後には幸福感がふわっと残りました。