あらすじ
あなたもわたしも免れない
「やはりそれは愚行だったか」――思わず膝を打つ事例と分析
「働き方改革」「お役所仕事」「デジタル革命」「競争」「縄張り」ほか…現代社会のいたるところで遭遇する理不尽なこと、あたり前のことのように言われるが、よく考えると納得できない「愚かな行為」をつぶさに検証。生物としての人間がもつ〈生存欲求〉と「集団」生活が余儀なくさせ、理性によって制御できない行為を解く。人間社会の根源的メカニズムに迫る意欲的論考。
一級建築士としてさまざまな都市づくり、建築の現場に関わる著者ならではのエピソード満載。高いところに自分を置いて他者を冷笑する「愚行」とは無縁、読みやすく、ユーモアに満ちた論述。
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Posted by ブクログ
社会学博士であり設計事務所一級建築士の面白社会学エッセイという感じ。当事者でないが故に気になってしまう部分は多々あるものの、面白い。
設計建築話の解像度が高いのと社会学視点の抽象化のバランスが楽しい。
Posted by ブクログ
これは社会学の本なのか??とちょっと疑問。
建築関係のエッセイ、みたいな印象。
転職サイトの話と、中華街やマンション開発の事例はわりと面白かった。
余談だけれど、企業名の伏字が斬新。
例:Dトール、Mドーナツ
以下メモ
・職場は「居場所」でもある。
が、「より良いワークライフバランス」という掛け声のもと、仕事以外の生活に、より価値を見出し仕事時間を減らすことを「働き方改革」と名づけ、善なる行いとしてワークからライフへと「居場所」の移動を指示しているのだ。
・設計という仕事
まだ願望でしかないクライアントの頭の中にある漠たる「建築」を、法的、物理的、社会的な具象とするため、煩雑な法令を読み解きながら、行政の建築施策及びお役人たちの法令解釈との齟齬を埋め合わせながら構成しなおす。そしてそれを素人であるクライアントとその関係者に理解できるように美的操作を加えながらプレゼンテーションを行い関与する各セクターの合意を得て、まだまだ願望の入り混じった想念でしかない抽象空間に物理的な形を与える。
・転職エージェント
給与や労働時間や福利厚生といった労働条件の良しあしではなく、「君には価値があり、それを認めてくれる世界がある」と承認欲求を刺激して唆しているのだ。
就職問題が居場所問題であることなど意識の端にもなく、転職の先には漂流の可能性もあることなど意識していない。
若者にとっては転職はショッピングなのだ。好きか嫌いかで感覚的に選択できる「認知容易性」を基軸仕様とする転職サイトは「居場所」がお気軽に手に入ると繰り返し教えている。そこでは自分の人生における働くことの意義など考える必要はない。まどろっこしいことは放っておいて、目の前の商品リストから気に入ったものを選べばいいのだ。だからどんな仕事であろうと悩む過程が含まれていることに気が付きもしない。
Posted by ブクログ
愚行の社会学とかいうから、ジョンスチュアートミルの「愚行権」を現代版で深追いした本かと思ったら、ただの〝バカっぽい仕組みの体験記“ではないか。でよく見ると、一級建築士で設計会社取締役、プラス社会学博士という風変わりな肩書き。この芯をとらえないランダム感は嫌いではない。
「これって、みんなグルなんじゃないの?」
転職エージェントと求職者、及び退職代行エージェントの三者合作による詐欺。刑法上の犯罪には当たらないので、民事訴訟で損害賠償を求めることもできない。分かるなー、コンサルとかエージェントとか、本当、搾取構造。この場合、愚行なのは依頼する方だが、依頼せざるを得ない社会的隙間にビシッとはまり込むのがビジネスチャンスなのである。愚行というか、世を小馬鹿にした巧妙なビジネスモデル。どうやって切り崩すか。
アリバイ作りの為の書類作成。この言葉も気に入った。華美なパワーポイントなしで判断できれば、資料作成の仕事は要らない。大企業には、大学の研究室の延長みたいな理系、サークル活動の延長みたいな文系が、時々いる。いや、割とよくいる。愚行愚行。
実効資源としての価値はほぼ皆無といえる盆栽の「天帝の松」に1億円の値段。レオナルド・ダビンチが描いた「サルバトール・ムンディ」が、510億。日本では、葛飾北斎の「神奈川沖富士」で3億6000万円。みんなで価値を信じこむ愚行。
「まことちゃんハウス」。派手な外観が「色彩の暴力」であるとして、近隣住民らが東京地裁へ工事差し止めの仮処分を申し立て。結果は「外壁の色について、法律上保護すべき景観利益はない」として、住民側の請求は全面的に棄却された。作る方が愚行?訴えた側?それとも裁判結果に対してか。
と、気付くと楽しんでいた。おバカな話、百選みたいな感じか。愚かとは思わないが、むしろ、そうせざるを得ない人間のバグみたいな話だ。