あらすじ
藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき――。(講談社文庫)
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Posted by ブクログ
プロローグで語られた、「その光を私は浴びたことがある」という言葉は、抽象的な表現だと思ったが、決してそうではなくそのままの意味だった。それが分かるのは、本当に最後の最後でありながら、冒頭のその言葉がそのシーンまで記憶に残されていたのは、たまたまではなかったと思う。何気ない言葉のようで、知らず知らずのうちにこころに引っ掛らせる力があったのだろう。
主人公がつらつらと語るシーンは、良くも悪くも、頭の良さが垣間見れた。人を見下すというのは、どう考えても良くない部分ではあるけれど、特別なものではない。みんな口には出さなくても、自分より下の相手を見つけて、人のダメな部分を心の奥底で馬鹿にすることで、安心感を得ている。里帆子や若尾だけではない。ただ若尾が違うのは、それを表に出してしまうということで、結局彼は救いようがなかった。
里帆子の母のことは、あまり好きになれなかった。それでも写真集の最後のラブレターには、心を揺さぶられた。それまであまり夫への愛を感じられなかって分、余計に。
プロローグでの、写真の「彼」というのは別所のことだろうと当然のように思っていた。どういう経緯でそうなるのだろうと思っていた。そんな陳腐な予想が裏切られた瞬間は、あまりに感動的で、どこか切なかった。里帆子があの父を引き止めなかったことから来た後悔は、一種の呪縛のようだったが、それから解き放たれたようにも感じられた。
憧れの人物、「藤子先生」へのあまりこ拘泥がそうさせてしまったのか、里帆子の父が選んだ道は、正解だとは思えない。ラブレターの一文、「迷惑をかけながら、妻や娘に嫌われながら、そうしてほしかった」という言葉に共感した。ただ最後の最後、彼は父親としての責任を果たしたと思う。
Posted by ブクログ
人への評価を口にする人がいる。
あの人は優秀だ。あの人は頭が良い。あの人は仕事ができない。
自分もまた、どこかで評価される立場だというのに。
自分の尺度でしか物事を測れないから、慢心するし、心が醜くなる。
その醜さを、ひみつ道具で比喩してごまかした。
現実と向き合うのが怖くて、俯瞰的な人付き合いばかりしてきた主人公。
優しい心の持ち主は、きっと相手に興味がある。
人に興味を持ち続けることで、初めて本当の優しさに触れられる。
反対もあるかもしれない。
きっと、大人になるにつれて、少しずつそういう付き合いができるようになる。
それでも、誰かと生きていくって、そういうことだよね。
Posted by ブクログ
〜1周目〜
2023.06.15
ドラえもんの秘密道具がたくさん出てくる。
テキオー灯という道具は初めて聞いたけど、心に残りそう。
別所が理帆子の父とわかった時に今までの全ての言動(持ち物のバッグ、好きな道具はタイムマシン)などのことが繋がり、もう一度読みたくなった。
大好きです!大切な本です!
凄い苦しくて、凄いキレイで、抱きしめるように愛してしまう物語です!!登場人物も全て素敵(若尾くんはダメすぎるけど、理帆子ちゃんがそれすらも愛するから、やはり尊い命に見えてしまう)
お母さんが編集した写真集の描写と、別所さん(お父さん)の最後のセリフ(最後の最後だけじゃなく、その一連のとこ)は、何度読んでも涙が出てきて熱くなります。
辻村さんの作品では、これと「ぼくのメジャースプーン」が私の中で殿堂入りです!
Posted by ブクログ
読む前にこの本のジャンルを調べたら「ミステリー」と出てきたのでちょっと身構えてたけど、ミステリー要素はほんの少しで、ほとんどは家族や自分を取り巻く人たちの中に自分の存在を認める、というお話。
主人公は年齢の割には達観した思想を持ち、周囲を見下していたものの、疎外されないために八方美人的な行動をとって、その結果手に負えない自体に発展したりもしている。
家庭環境に起因するものでもあるが中二病みたいなものだと私は解釈している。上記のようにそれが原因で他者に危害が加えられたりしてるからそんな簡単に片づけていいもんでもないけども……
各章はそのときの状況に当てはまるドラえもんのひみつ道具の名前をタイトルにしていて、必ずしもポジティブなものとして捉えられているわけではない。
道具は使い方次第ということだろうが、ドラえもんの物語とは違い、救いのないオチを迎えていたりするのが対照的で、なんだかひみつ道具の闇に迫った新しい視点なんじゃないかと感じた。
私自身ドラえもんが好きなので、その良い面も悪い面も満遍なく取り込んでいるこの作品を、義務教育を終えたあたりの若い人たちに是非読んでもらいたいなと思う。
Posted by ブクログ
初めて小説で泣いた。
タイムカプセルからは、ものすごく感情の起伏が激しかった。予想できない展開が何度も起きて、すぐに読み終えてしまった。
この本を通して、ドラえもんがどれだけ自分の身に染み込んでいたのかを知った。幼少期に読んでいたドラえもん。歳をとって頭の隅にもなかったのに、この小説を読んで全て蘇ってきた。大切なことはドラえもんから学んでいたのだと気付かされた。そして、大人になった今もう一度ドラえもんを読んでみたいと思った。
理帆子が頭の良し悪しやS・Fの遊びで人物の特徴を定めて、それのミスリードに自分で引っかかってしまうのが面白いと感じた。
若尾に関する部分は本当にこの物語の中の暗闇の部分だった。読んでいるだけで心が曇るし、物語を追うごとに表現力が高まっていってまるで若尾が実在しているぐらい嫌な気持ちになった。若尾が理帆子に会わずに狂っていなかった世界線では、ちゃんと司法試験に合格していたのかなと思う。
美也とカオリは本当に友達思い。彼女らは理帆子が頭がよく自分たちのことを内心では見下していると分かっていたと思う。
立川と加世は犬猿の仲だが、その仲は切れないと思う。加世の自分の信じたものが正義といった傲慢さが、弱い立川をいじめる立場でなくていじめられる立川を救う立場であったなら、それはいい関係になりそう。
自分が最後の郁也に送るS・Fは
『スコシ・full(満たされた)』
Posted by ブクログ
加害者と被害者のくだりから別所あきらが父であることに気づきながら読んでいたけれど、登場人物の思いを追いながら見る結末はやっぱり号泣。別所が父なのだと理帆子が気付くのが、他の誰かとの会話の齟齬からではなく父本人との会話からというのが良かったなぁと思う。
そして別所と過ごす時間が、父と母が過ごした日々の追体験になっているのがSugoku Fukai(すごく深い)。父と母の直接のやりとりは作中ほとんどないが、別所と理帆子のやりとりから両親の絆を窺い知れた。
Posted by ブクログ
深くて難しくてでも正直で、はっきり言って読みづらいと思ったけど、でもやっぱり読んでしまった。
理帆子が人を観察する中でどうしても高みから心の中で馬鹿にしてしまうところ、それでもバカにする相手のどこにも入っていけない「少し不在」な状態。解説では「理帆子には読者は簡単に共感できない」って書かれてたけど、理帆子の性質がどうしても私すぎた。
母親のこともバカにしてた?深く関わることを避けてたけど、結局1人になった時に母親を思って大泣きする姿は少し違ったけど、、
別所あきらは最初から謎の存在だったけど、結局お父さんだったとわ、、そしたら立川さんはどうなる?
とりあえず若尾はキモかった。けどこの人の性質も持ってしまっている自分に引く、、
難しかったけど人間の汚さを色々見れる作品だった。
Posted by ブクログ
ドラえもんの道具そんなに詳しくないのが残念だけど、それでも全然読める面白かった。最後、霊的な?SFな感じなのはあんまり好きじゃなかった。
自分は少しナントカにあてはめたらなんだろうな?