あらすじ
可憐なる美少女”姫草ユリ子”は、すべての患者、いな接触するすべての人間に好意を抱かせる、天才的な看護婦だった。その秘密は、彼女の病的な虚言癖にあった。一つのウソを支えるために、もう一つの新しいウソをつく。無限に増幅されたウソの果ては、もう、虚構世界を完成させるための自殺しかない。そして、その遺言状もまた……。〈夢幻〉の世界を華やかに再現する夢野久作。書簡体形式で書いた表題作ほか、男女の宿命的断層を妖麗に描いた「女坑主」「童貞」を収める傑作集。(C)KAMAWANU CO.,LTD.All Rights Reserved
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太宰治と夢野久作は、同じ「少女」を題材にしていますが、まったく異なる鏡の中に彼女たちを映し出しています。
『女生徒』(太宰治)
これはまさに、少女の「内面の純度」を丁寧にすくい上げた作品です。羞恥、憧れ、自己嫌悪、ささやかな虚栄心、死と生の間を漂うような感受性が見事に描き出されています。
一見、何気ない日常を綴った一人称日記風の語りが続きますが、その中には「少女」であることのもろさと、同時にどこか気丈で背筋の伸びた誇りのようなものが垣間見えます。太宰自身がこの「女生徒」の語り口を模倣しながら、どこまでも真摯に「少女になりきる」ことで、ある種の理想化された少女像を創り出しているとも言えます。
『少女地獄』(夢野久作)
対してこちらは、「少女」という存在に潜む、欺瞞・執着・欲望・混乱を容赦なく暴き出していきます。三つの短編からなる本作では、少女たちは皆どこかずる賢く、哀れで、滑稽で、破滅的です。特に「何んでも無い」では、自己愛と虚栄に取り憑かれた少女が自滅していく様がグロテスクなまでに描かれます。
夢野は、少女の「無垢さ」を信じていません。むしろ、「純粋さ」そのものが狂気の温床になりうると見ています。太宰が「少女=内面の繊細さと可憐さ」をすくい取ろうとしたのに対し、夢野は「少女=醜悪な社会的欲望の写し鏡」として描いているとも言えます。
太宰の少女は、「なることができたかもしれない少女像」であり、夢野の少女は、「なってしまうかもしれない少女像」。
両者はまるで、光と影の補完関係のようです。太宰が「少女の尊さ」を描くことで昇華しようとしたものを、夢野は「少女の醜さ」を描くことで暴こうとしました。どちらも「少女」という仮面の内側にある、人間のどうしようもなさや愛しさを突いているからこそ、今も読まれ続けるんだと思います。
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姫草ユリ子が自殺した。臼杵先生は、彼女の出会いからついた虚構まで、同じく翻弄された白鷹先生に手紙で語ってゆく。可憐で、美しく、誰からも好かれる姫草ユリ子。彼女の「何でも無い」人生の物語である。「何でも無い」の他に、「殺人リレー」「火星の女」の計3篇が収録。
「ですから彼女は実に、何でもない事に苦しんで、何でもない事に死んでいったのです。彼女を生かしたのは空想です。彼女を殺したのも空想です。ただそれだけです」
「何でも無い」というタイトルが秀逸。自分にとっては大変に重大で特別なことも、誰かにとっては何でも無いことなのかもしれない。
個人的には「火星の女」がゴシック文学・幻想文学っぽくてかなり好みです。決して麗しい少女ではない甘川だからこその物語。
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何んでも無いを目当てに読んだけど他の作品にも度肝抜かれた。
この世界観かなり好み。
基本は男女の話なんだけど常に性別だけじゃない上下関係が纏わりついてる。
一見わからない、説明しづらい少女(少女性)の強さが描かれていると思う。
ただ年が若いことが少女ではない。
ここで描かれている少女とは、自分より社会的に強い者の心の中に入り、動かしてしまうことができる女のことだと個人的には思う。
その力は、鈍器で殴るような強さではなく、いつの間にか入り込み、気付いた時には手遅れになっている毒のような強さだと感じた。
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まずこの本は短編集です。
その中でも表題の「少女地獄」の感想になります。
「少女地獄」は「何んでも無い」「殺人リレー」「火星の女」の三作で構成されています。この中でも「殺人リレー」は先に発表され、後から「何んでも無い」と「火星の女」と共に一つの本となって刊行されました。
書簡形式で書かれた作品ですが、同じ書簡形式をした短編は同じ著者だと「瓶詰めの地獄」がありますね。
閑話休題。
私がこの中でも一番好きな話は「何んでも無い」になります。私自身、虚言癖があります。なので、この「何んでも無い」のユリ子という彼女の嘘とその末路が美しくも鮮やかで寂しくて大好きです。
嘘つきにはロクな死に方は求められません。ユリ子は自殺“したことになっている”のです。ユリ子は主人公への書簡の中で死んでいます。これはユリ子という人格の死に他なりません。
実際に“ユリ子”にあたる人物が死んだかはわかりません。そこが、この話の美しさなのです。
嘘という言葉で構成されたユリ子の、最高の結末は、言葉による嘘でなければ、物語は終わることができないでしょう。
なお、この「何んでも無い」は映画化されたようです。気になる方はそちらもどうぞ。
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暑さに噎せ返るような感覚を覚えた。背中を撫ぜるような不安感。だけど話はするする読めるし情景も想像しやすい。『ドグラ・マグラ』を読んだ時はどこまで何を読んだか思い出せなくて苦労したけど読みやすさに驚いた。
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乙女たちの、それぞれの地獄。
おかしくも我が身を振り返ったり、ゾワっとしたり。
私たちはいつの間にか、ある地獄に足を踏み入れていたりするのかもしれない。
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何でもないだけ読んだ。
主人公みたいな人って現実にもいるよなぁ、ここまでじゃないにせよ自分を大きく見せたいってみんなある気持ちだよなぁと少し共感してしまう怖さがありました。
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夢野久作、小栗虫太郎は、決して面白くないというわけではなく、むしろ好きな方ですが、常識や理性が揺さぶられる。個人的には「火星の女」が好きかな。ペッペッ。
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念願の夢野久作第1冊目。
予想よりも読みやすく、面白かった。
なんでもない、けむりを吐かぬ煙突が好み。
昔の日本女性って私なんかより肝が据わってて艶かしくて「ホホホ、、、」と笑う
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三者三様の少女の地獄というべき経験を書簡形式に表した『少女地獄』、ある記者が訪ねた家で未亡人と出会い恐ろしい事実が判明する『けむりを吐かぬ煙突』など、おどろおどろしくもどこか美しさも感じる世界観で魅力的だった。
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三人の少女に襲いかかる三通りの地獄をリアルに描写したのは読んでいてゾクゾクとした怖さがある
特に一本目の「何でも無い」は秀逸
誰もが一度はしたことがある「嘘を嘘で隠す」を突き詰めていけば待っている地獄、それを解釈する他人の汚さがもうたまらなく恐い
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夢野久作の短編集。どの話にも強烈な印象を残すヒロインが登場するので、作者の人物描写の堪能さに舌を巻く。
個人的には「何んでもない」の姫草ユリ子が好き。名前年齢学歴生家、自身を構成する全てを虚構で塗り固め、巧みな話術と徹底した振る舞いで周囲を「姫草ユリ子の世界」に巻き込んでいく彼女。
今年は嘘を吐くことで愛することを知ろうとしたヒロインのアニメがヒットしたが、姫草ユリ子にとっても嘘を吐くことが彼女なりの、世界を愛し愛される術だったのではないかと感じる。多少屈折している気はするが、嘘は最上の愛情表現……なのかも。
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人間の怖さや陰は時代とともに儚げに変わるものもあれば、時代背景でこんなにも影響を与えるのだなと考えさせられました。
火星さんと呼ばれた少女は
ルッキズムや人と違うところなどに焦点を合わせず
男性の道徳観念に関してに怒りを覚えたのも面白かったです。
「火星の女の置き土産、黒焦げ少女の死体を受け取りください。
私の体は永久にあなたのものですから。」
この言葉から炎のように赤い怒りを感じました……
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一言で言い表すのが難しい。
印象に残るのは少女或いは女性達の何重にも張り巡らされた尋常ならざる執念と、なんともオソロシ気な事件の顛末。
それらが、チョット普通の文体では考えられないようなある種の「ドグラ・マグラ」を思わせるような独特の構成によって炙り出されて行く。
確かにこれは"少女地獄"というタイトルに相応しい恐ろしくも圧巻の内容だった。
Posted by ブクログ
夢野久作の命日
遺作は「ドグラ・マフラ」…まだ読めてない
「少女地獄」は 美しい少女達の変質的な人生
3編
「何でもない」
医院を開業した医師の元に19歳の少女が看護婦を希望して現れる
彼女は可愛く、優秀、そして気遣いの人
申し分ない女性だった
しかし、彼女のその姿は全て虚構
あらゆる手段を使い嘘をつき通す
最後にその嘘が発覚するのだが
この少女の嘘は切ない
彼女の妄想する自分は空想の中
「殺人リレー」
友人のバスガイドが運転手に結婚詐欺に合う
殺人まで犯した男に、なぜか惹かれていく少女
「火星の女」
遺書的手記で真相を綴るのは
女子高生の焼身自殺、校長の失踪、女教師の自殺
金と色にまみれた校長に復讐を遂げる女生徒
この女生徒のニックネームが火星の女
今も昔も 少女達は大変
他は割愛
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本書に登場する蠱惑的な女性達が堪らない。
『少女地獄』
積み重ねてきた嘘が崩れ去っていく様を覚悟しながら読み進めて言った。
虚言癖の心理が気になる。
校長を恨み復讐を誓うも、彼女は彼を愛していた。
それが不気味でたまらない。
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虚言癖への当たりキツいな。赤として密告って酷すぎん?
別に人を傷つけた訳じゃないのにね。
嘘であろうとも信じていれば現実なんだろう。
いま、感想を書いていて、何故か姫草の肩をもってしまう自分に気づいた。読者も織り込んでしまう「姫草」と云う虚構、魅力的です。
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難しい言葉や表現が読んでく上で少し苦戦したけれど、理解できると面白かった
読んでいくうちになんとも言えない不気味さや薄気味悪さがゾクゾクとさせられた
個人的には1番初めの話が1番引き込まれて面白かったかな
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翻弄しているようで、翻弄されている。
翻弄されているようで、嘲笑っている。
振り回されて、傷つけられて、その上で見せる恐ろしく強い意志。
かたや、最初から最後まで手玉にとっている。
通り一辺ではない、表裏一体な「少女」「女性」たち。
同じ女性としてツラい展開もあれば、ニヤリとする展開もある。…一気に読むとドッと満足感と疲労感!
固定観念的な性差を避ける時代だけど、どこかこの男女の「断絶」はいつの時代も在るんだろうなぁ、と思ったり。
Posted by ブクログ
①小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、中井英夫『虚無への供物』と並んで、日本探偵小説三大奇書と言われる「ドグラ・マグラ」の作者、夢野久作作品。
②過日読み終えた「おちくぼ姫」同様に人気てぬぐい店「かまわぬ」とのコラボ和柄Specialカバーである。
上記2点が本書を購入した理由、「ドグラ・マグラ」の難解さを思い出す度に手にとることを躊躇い、積読となっていましたが、何故か今回はすんなりと手に取ることが出来ました。
初版は昭和51年1月30日に初版発行された本書、私が所持しているのは平成25年5月25日の70版発行分。
初版から約37年半で70版、いかに多くの読者が手にして来たかがわかります。
表題作でもあり巻頭に収められている「少女地獄」には「何でもない」「殺人リレー」「火星の女」の3篇の短篇ですが、著者が戦前(昭和11年)に書いた作品。
正直に言えば、やはり読み辛い...
ただこれだけ版を重ねてきた本書、読み辛いと感じるのはまだまだ私の力不足ということ。
好きで購入したまま積読となっている多くの皆川博子作品にも手がのびないのはそれが理由。
もっと頑張らないと^^;
説明
可憐な少女姫草ユリ子は、すべての人間に好意を抱かせる天才的な看護婦だった。その秘密は、虚言癖にあった。ウソを支えるためにまたウソをつく。【夢幻」の世界に生きた少女の果ては…。(松田 修)
Posted by ブクログ
現代社会の堕落層に住む寄生虫
夢野久作といえば「ドグラ・マグラ」が有名ですよね。
一度、ドグラ・マグラを通読してみたのですが、やはりまだ私のレベルではついていけなかったので比較的読みやすい本書を通読してレベル上げをすることにしました笑
私が1番好きな話は「煙を吐かぬ煙突」です。
短編集とはいえ夢野久作の著書はやや癖が強いですね笑
Posted by ブクログ
個人的にはあまり合わないんです、この時代のこの手のテイストの作品は。良い悪いの話ではございません。
でも解説の読み解き方含めて、書かれた時代を考えると深いものがあるだろうとは容易に想像つきます。当時どんな感じで受け止められていたのか、結構興味あります。
にしてもこのお方の出自、何気にすごい。こういうところからしか出てこない異才なんですかね。
Posted by ブクログ
『少女地獄』は、「何んでもない」、「殺人リレー」、「火星の女」三編を収める、何れも書簡体小説。
「何んでもない」では病的虚言症の少女、姫草ユリ子が嘘を嘘で塗り固め、周辺の人を振り回して、次第に後戻り出来なくなり、ついに自殺してしまう話。読んでいくうちに姫草に愛着が湧いてしまう。キャラクターの描写がイキイキして素晴らしい。
「殺人リレー」「火星の女」などもサスペンスっぽさがあり面白かった。
『煙を吐かぬ煙突』グロテスク、かつミステリアス。エロとグロと恐怖と。読んでいて頭がぐわんぐわんする感じ(?)。『ドグラマグラ』でも感じた不思議な感覚。これぞ夢野久作マジックw
『女鉱主』では、したたかで意志の強い女炭鉱王、新張眉香子(みかこ)が美青年を追い詰める様子がエロティックかつスリリングでよかった。