あらすじ
韓国文学界で大きな存在感を放つ作家ソ・ユミによる小説6編をまとめた待望の短編集。6作品の主人公たちは貧困、失業、借金、離婚、夫の失踪、身近な死、母親との別れなどを経験し、以前とは違う状態に移る瞬間を経験する。変化は不可逆的で、人生は過去の自分との別れの蓄積だ。誰にでも訪れる不安と危機の断面を解剖し、時代と社会の病を敏感に捉え平凡な人間群像を暖かく包み込む、篤実なリアリズム小説
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Posted by ブクログ
「小市民階層の危機と不安、そして新しい未来を模索するためにそれから自立しようとしている存在に極めて深い愛情を持っている作家」解説より。
そのとおりで「ザ・現代韓国文学」という感じ。読み応えはあり、読ませる力もある。現実的な重さと苦さを味わいたいときには良い本。
絶望でも大げさな希望でもなく、ジャッジもせず、ただそこにあるがままの姿を誠実に描いている。
が、現実が重いので、結果的に作品も重い。
生きることに疲れている人が迂闊に読むとグッタリしてしまうかも。そこに一筋の光を見いだせるかどうかは読者の力に委ねられている、そんな作品。
Posted by ブクログ
20代の姉妹の、ある夫婦の夫の、妻の、中年女性の、
格差や貧困、差別、介護、結婚生活、子供のことなど社会問題の中で必死に生きる「普通の人々」の「平凡な」暮らし6篇。
不穏で不安でハッピーな感じではないのに、不思議と暗さや不幸な感じはなく淡々と語られています。
そこがかえって誰もが抱える普遍的な人生の悩みや重荷といった感じでとても自然に受け止められて、共感を覚え、励まされるような気持ちにさえなります。
この淡々とさっぱりした感じ、韓国文学の好きなところです。
Posted by ブクログ
서유미 씨의 단편집(ソ・ユミさんの短編集)普通の人々に目を向けた作品を発表しているソ・ユミさん。六編の小説もどれも何処にもいそうな普通の人が主人公だ。모두가 헤어지는 하루(誰もが別れる一日)そして誰でもが感じている疎外感や悲しみ、束縛感や孤立感などをこれでもかと言うように味わいさせてくれる。そして一つだけでもそれからの解放を与えてくれる。韓国でも日本でも現代の都市では生きていく辛さは同じだろうなあ。新しい仕事を見つけるためにバイトを辞めるジンー「エートル」、詩を読み始めた男ー「犬の日々」、ベンチで寝る男ー「休暇」、旅先で失踪した夫ー「うしろ姿の発見」、離婚してサウナに住み着いた男ー「その後の人生」、夫と離婚してひとり暮らしをする女ー「変わっていく」。
Posted by ブクログ
さらりと読んだんだけれど何箇所か、すごく刺さる文章があった。子どもが生まれてずっと一緒にいて毎日を必死ですごして、そういう生活が終わって復職するときに感じた寂しさをはっきりさせてくれた文章だった。必死で気がつかなかったけど、ここは私の人生でたぶんものすごく重要な部分だった。それがどこかで分かっていたから、写真を撮ってアルバムを作って何とか保存しようともがいた。
「同時代性を信用しない」と言っていたのは、山田詠美だったか。今なら分かる。それは本当だ。今がどんなに大切な時か、自分で分かっているつもりの時は本当には分かっていなかったんだと、その時間が終わってからやっと分かる。
Posted by ブクログ
貧困、離婚、失踪、認知症の母親、問題をかかえ、それでも何とかいい方向にと思いを巡らすが、なかなかうまくいかない。
報われない話に気が滅入ったが、実際一度落ちるとなかなか元には戻れない。現実を突きつけられた気がする。
Posted by ブクログ
kbookフェスティバルにて、この本と作者ソ・ユミさんについて、共訳された金みんじょんさんと斎藤真理子さんの対談を聞くことができた。
サインをもらいたかったのもあるが、二人のお話を聞いて、この作家の作品を読んでみたいと思い、対談終了後即売場にて購入した。
6遍からなる短編集。20代から50代の主人公の、ある一日を描いている。
決して幸せとは言えない日々をなんとか生きている人たち。どうにか今の現実から抜け出そうとも、どうしたら抜け出せるのか見出せない。もしくは、変わらなければと思いながらも、甘んじてしまう日々。
一番最初にある「エートル」は、デパートのパン屋さんでアルバイトしながら妹とソウルで暮らす30代の女性。大学を卒業後の自分の生活を思い出した。先の見えない薄暗い不安定で孤独な毎日。キラキラしたまわりの世界がまるで自分のいる場所からはとても遠く感じていたあの頃…。
性売買の仕事から抜け出したいがそれができずにいる男の「犬の日々」、夫が突然消えた妻の困惑と苛立ちを描いた「後ろ姿の発見」など。
最後に綴られた「変わっていく」は、子育ての描写が自分の記憶と重なって胸がざわざわした。主人公の母が認知症になり老人ホームに送り届けるその日、娘が産気づく。
いつも意地悪いことばかり言っていた母の笑顔。
うれしいのか悲しいのか。
その顔だけが記憶された日。一方では新しい命の誕生に戸惑う娘。
どの話もその後主人公どうなったのか、何かが変わるのか、答えは出ない。
だけど、自分と重なる感情や情景が物語として語られたとき、人は生きる希望やわずかな励みを感じるのではないかと思う。
絶望の中にもかすかな支えを見つけ、なんとかその日をやり過ごす力を。
そんなふうに感じた一冊。
Kbookフェスティバルに行かなければ読まなかったかもしれない。こういう出会いはうれしい。