あらすじ
韓国文学界で大きな存在感を放つ作家ソ・ユミによる小説6編をまとめた待望の短編集。6作品の主人公たちは貧困、失業、借金、離婚、夫の失踪、身近な死、母親との別れなどを経験し、以前とは違う状態に移る瞬間を経験する。変化は不可逆的で、人生は過去の自分との別れの蓄積だ。誰にでも訪れる不安と危機の断面を解剖し、時代と社会の病を敏感に捉え平凡な人間群像を暖かく包み込む、篤実なリアリズム小説
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Posted by ブクログ
kbookフェスティバルにて、この本と作者ソ・ユミさんについて、共訳された金みんじょんさんと斎藤真理子さんの対談を聞くことができた。
サインをもらいたかったのもあるが、二人のお話を聞いて、この作家の作品を読んでみたいと思い、対談終了後即売場にて購入した。
6遍からなる短編集。20代から50代の主人公の、ある一日を描いている。
決して幸せとは言えない日々をなんとか生きている人たち。どうにか今の現実から抜け出そうとも、どうしたら抜け出せるのか見出せない。もしくは、変わらなければと思いながらも、甘んじてしまう日々。
一番最初にある「エートル」は、デパートのパン屋さんでアルバイトしながら妹とソウルで暮らす30代の女性。大学を卒業後の自分の生活を思い出した。先の見えない薄暗い不安定で孤独な毎日。キラキラしたまわりの世界がまるで自分のいる場所からはとても遠く感じていたあの頃…。
性売買の仕事から抜け出したいがそれができずにいる男の「犬の日々」、夫が突然消えた妻の困惑と苛立ちを描いた「後ろ姿の発見」など。
最後に綴られた「変わっていく」は、子育ての描写が自分の記憶と重なって胸がざわざわした。主人公の母が認知症になり老人ホームに送り届けるその日、娘が産気づく。
いつも意地悪いことばかり言っていた母の笑顔。
うれしいのか悲しいのか。
その顔だけが記憶された日。一方では新しい命の誕生に戸惑う娘。
どの話もその後主人公どうなったのか、何かが変わるのか、答えは出ない。
だけど、自分と重なる感情や情景が物語として語られたとき、人は生きる希望やわずかな励みを感じるのではないかと思う。
絶望の中にもかすかな支えを見つけ、なんとかその日をやり過ごす力を。
そんなふうに感じた一冊。
Kbookフェスティバルに行かなければ読まなかったかもしれない。こういう出会いはうれしい。