【感想・ネタバレ】きつねがはしる チェコのわらべうたのレビュー

あらすじ

「おひさまが やまのむこうに かくれたら,うしかいたちは おいもをやくよ」のどかな田園風景,今にもおしゃべりをはじめそうなどうぶつたち,子どもたちのあそびや暮らしのひとこま.チェコの国民的画家ヨゼフ・ラダの素朴でゆかいな絵で味わう,わらべうた38編.ぜひ子どもたちと一緒に声にだして楽しんでください.※この電子書籍は「固定レイアウト型」で作成されており,タブレットなど大きなディスプレイを備えた端末で読むことに適しています.また,文字だけを拡大すること,文字列のハイライト,検索,辞書の参照,引用などの機能は使用できません.

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Posted by ブクログ

 チェコでは、幼い子どもたちにわらべうたを聞かせる習慣があり、その中でも、チェコの国民的画家ヨゼフ・ラダのわらべうたの絵本は、特別愛されているそうで、本書は、そんなチェコで数多く出版されている、彼の絵本の中から、編訳の木村有子さんが2冊選び、日本人向けに編んだものです(以上、木村有子さんの「読者のみなさんへ」より)。

 というわけで、生まれて初めて知った、チェコのわらべうたですが、ちょっとシュールで独特なストーリーと、素朴な日常を扱ったシンプルなものとが極端に分かれる上に、日本のそれと比べて、歌詞が口語体なのがまた面白くて、それこそまさに、子どもたちに聞かせる習慣がある証なんでしょうね。

 それから、ヨゼフ・ラダの絵について、見た瞬間に思わず微笑んでしまうような、素朴で温かい中にも、ちょっと独特なユーモラスさが潜む、そんな平和で優しい世界観が心地好い中、絵の雰囲気が少し、スズキコージさんに似ているなと感じ、勿論、絵のテイストを言っているのではなく、あくまでも雰囲気なんだけど、前からコージさんの絵には東欧風の匂いを感じていたから、強ち、私の印象は間違っていなかったんだと、何だか嬉しくなりました。


 試しに、チェコのわらべうたがどんな感じなのか、いくつか掲載しますと・・・。

「こいぬとこねこ」
こねこさん あなから かおを にゅっと だし
こいぬくん まどを ひょいっと とびこえる
あめなんか ふらないもん
ぼくら ぬれないもん

 うん、晴れ犬(猫)ってことかな? 自信満々なところが微笑ましいし、ラダの絵がまた、彼らを人間のような、ちょっと筋肉質な体格にしている上に、こいぬには棒高跳びをさせているのが、可愛いんだけど、ちょっと癖になる面白さがあって、こうした描き方には、動物も人間と同じ等身大の視点で見ているような親しみやすさを感じ、チェコの国民性も窺えそうです。

「きつねがはしる」
きつねが はしる ターボルのまちへ
しょうがの つまった ふくろを しょって
とことこ おうのは はりねずみ
せなかのはりで ふくろを ぷすんと さしたいのさ

 表紙の絵のわらべうたですが、なんて意地悪なことするのって思いません? ラダの絵を見ても分かるように、どこか不安げな顔をしたきつねに対して、まるで誰かの依頼で何の感情も無く、それをやり遂げることしか頭になさそうな、ポーカーフェイスのようにも見えるはりねずみの執拗な追跡には、ちょっとスリリングな怖さがあるようで・・・ま、そこまで深い意味はありませんよね、たぶん。

「ふゆ」
わーい ふゆだ ゆきだ
みんな うきうき
ゆきだるまを たくさん つくろう
ころころ ころころ ころがして ほら できた!
まあるい かわいい ゆきだるま

 口語体ならではの親しみやすさがあって、初めてゆきだるまを作る時には、これを歌って聞かせるのかなと思えるほどのシンプルさだが、そんな素朴さにも垣間見えるチェコの国民性っていいかもね。
それに、ラダの絵の長身の雪だるまがまた面白い。

「りょうけん」
りょうけんは うさぎを おいかけてばっかり
いつも にげられて がっかり
いまじゃ じてんしゃに のって おいまわす
うさぎめ こんどこそ にがさないぞ

 すごい、『ばっかり』と『がっかり』で韻を踏んでると思った以上に、うさぎに追い着けない猟犬の個性が面白くて、ラダの絵でも普通に自転車乗って追いかけてるのが、とってもシュールで良いです。空はこんなにのどかに晴れてるのにねー。

「キックボード」
いぬだって キックボードに のりたいらしい
ところが ねこさん
しんぱいそうに のどを ごろごろ ならします
「このこを ひかないように きをつけてくださいよ」

 「りょうけん」の右ページに掲載されていたことに、明らかな意図があると思われた、それは自転車もキックボードも、犬が乗っていると大して変わらなく見えてくる面白さの中、こちらの歌は、ねこさんのこのこを思う、母の切実な気持ちとの対照性が際立っていて、こういう雰囲気のわらべうたもあるんだね。

「くるま」
くるまが いいました
「おうまさん そこにいたら あぶないよ」
すると うまが いいました
「じゃあ わたしたちが くるまに のっちゃいましょう」

 ラダの絵には、ハンチングにパイプを咥えた紳士風の馬と、ピンクの帽子に黄色いマフラーもお洒落な貴婦人風の馬が、まるでドライブデートしているように見える中での、この歌詞の自由な発想の面白さといったら!

「みずのぬし ヴォドニーク」
おつきさんや おつきさん
くつを ぬうので あかるく てらしておくれよ
じょうぶな くつは
みずのなかでも どこでも はけるのさ

 水の魔物と呼ばれるヴォドニークも、わらべうたにかかると、こんなにほのぼのとした雰囲気を醸し出すのがまた面白くて、ラダの絵では、思わずおつきさんも苦笑いしているし、夜空を表した青色の、なんて優しいこと。


 このような、ちょっと癖になる面白いわらべうたが、全部で38も収録されてます。

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2024年05月10日

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