あらすじ
いまだ継続する不正義と差別に抗して,アイヌの人々は何を問い,行動してきたのか.五人の当事者へのインタビューから現代アイヌの〈まなざし〉を辿ると共に,アイヌの声を奪い,語りを占有し続ける日本人のあり方を問う.
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Posted by ブクログ
自分が何も知らなかったことを思い知った。
遺骨の盗掘や研究者たちの謝罪について、ぼんやりと聞いたことがあること、大学生の時に、親が北海道旅行で撮ってきた踊るアイヌの写真を無邪気に見せる様子に感じた、苛立ちと悲しい気持ちが、ずっと引っかかっていて、もっと知らなければ思っていたけれど、この本に出会えて本当に良かった。
私にはマイノリティの属性もあるけど、アイヌの人達が経験してきた歴史や苦しみを全くといっていいほど知らなかったし、思いを馳せることもなかった。
日本の教育を受け、日本の主流の文化的コンテンツを消費してきた私は、マイノリティ要素の有無をとわず、著者がいう白人性を持つ日本人だ。特権性に無自覚のマジョリティだ。
自分のマイノリティ性を足がかりに想像するアイヌの人達の苦しみは、とても複雑で、大きすぎて理解が及ばないが、言葉にできないほどグロテスクな扱いを受け続けていることを知った。
研究が、アイヌにとっては最も汚い言葉のひとつである、という指摘は鋭く、重い。これは本を読んで知識を得ようとする読み手にも、知った上でどうするのか次第で、突きつけられる指摘だと思う。
中身はアイヌの人達のライフヒストリーのインタビューとその内容に対する繊細な分析で、言葉の使い方や、言い淀み、繰り返しやためらいなども含めて細やかに内容を読み解いていく。アイヌの経験がとても多様であることが分かるし、ウポポイやゴールデンカムイではない、生活の中の経験が見えてくる。研究者の見たアイヌ、ではなく、生活するアイヌの言葉で問題に触れることは大切なことだと感じた。自分の知っている少し似た疎外の経験に引き付けて、生々しく理解できるからだ。
著者の1人、石原麻衣氏の考察とその表明の声色は、今まで読んだどの日本の研究者より知的ラディカルさに富む。あとがき、謝辞を読んで、石原さんが研究者として舐めてきた辛酸を思い、辛くなったが、同時に石原さんの知性の強さになんだかスカッとする部分もある。ともかくあとがき、謝辞にも強く感情が揺さぶられた。希望もあるんだ、かすかでも、と感じた。
ここ数年で読んだ日本の人文系の本で、ダントツで1番良かった。
Posted by ブクログ
【痛みの声があぶり出す欺瞞】
なんて孤独なんだろう。生活と歴史がいやが応でも切り結ばれてしまう人びとの、救いのない、絶望的な孤独の片鱗をイメージしただけで胸がいっぱいになった。
本書はアイヌに出自を持つ文化人類学者の石原真衣氏と哲学者の村上彰彦氏による共著で、5人の当事者へのインタビューと論考により構成されている。
登場するインタビュー対象者たちの孤独に和人はいかに関わってきたのか。特に知識人である研究者たちは、「知的好奇心」で彼彼女らを消費し、自らの業績とし、時にはアイヌを批判し上から目線でアドバイスをして、自分たちがイメージするマイノリティ像に近づくようけしかける。そしてそれ以外の生き方やアイデンティティの置き所を選んだアイヌは視界から外し、時には自死にまで追いやる。
醜悪だ、と思った。同時に、研究者の末席にいるひとりとして、そうではないやり方がいかに可能かという重い課題も渡されることになった。主流派に必読の書。(さとちん@本土に沖縄の米軍基地を引き取る福岡の会)