【感想・ネタバレ】世界の賢人と語る「資本主義の先」のレビュー

あらすじ

誰の目にも限界が明らかになりつつある資本主義。どこに問題があり、どう乗り越えることが可能なのか。

GDP幻想、格差の真実、温暖化の本当のリスク、民営化幻想、少子化と教育、財政健全化論争の真偽、そして「第三の道」を探る。

経済報道の第一線に20年間身を置いてきた記者が現場を歩き、世界の賢者たちとともに人類が生き残るための現実的かつラディカルな処方箋を考える。

岩瀬大輔氏推薦!
戦前の行き過ぎたグローバル自由主義への反動として、第二次世界大戦後に国家の役割は大幅に拡大した。政府が肥大化し非効率が目立つようになり、80年代から規制緩和と自由主義の流れが反論不可なドグマとなる。この「市場対国家」の攻防の歴史を綴ったダニエル・ヤーギンの名著「コマンディグ・ハイツ」が出版された1998年から早25年。専制的政治体制を取る大国の台頭と、自由主義陣営でもナショナリズムの風が吹く中、グローバル政治経済の「管制高地」を巡る議論が再び必要とされている。本書はその難題に正面から向き合う野心的な著作だ。最低賃金の引き上げ、業種別労働組合への転換、教育への公的補助の拡大、民営化された公的サービスの見直しなど、政府関与の揺り戻しを主張するテーマは慣れ親しんだ自由主義の教義を問い直すきっかけを与えてくれる。より深淵な問いを提示するのはGDP成長に替わる指標の定義、財政健全化論争、そして気候変動問題への対応だ。これらは決して珍しいテーマではないが、ギリシャ人経済学教授、英国労働党の政治家、フィンランド教育文化省の事務次官など海外のパイオニアたちを取材しているのが興味深いし、もっと読みたかった。本書の最後で言及されるテクノロジーを活用した地域通貨・ベーシックインカム・暗号資産などの事例も新しい光をかざしてくれる。締めくくりとして資本主義の未来像を米国の音楽祭典・バーニングマンに求めるところは、ヒッピー精神溢れる著者らしい。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

経済報道の世界では、理論はほとんど役に立たない。
資本主義そのものに代わるものがない。
資本主義は拡大再生産=自己増殖プログラムが組み込まれている=経済成長がないと資本主義とはいえない。資本主義の普及で、GDPは急上昇した=資本の自己増殖が起きた。これは永遠には続かないはず。
成長しなくていいという企業は、吸収されたり潰れたりして市場から追放される。永遠の自己増殖が求められている。
GDPはフローしか見ていない。ストックは考慮していない。
GDPは、お金が使われれば上がる。良いことに使われているか悪いことに使われているかは関係ない。
再分配は成長に悪影響という反論が出る。
グリーン成長は幻想。成長には新たな原材料や労働力が必要。成長そのものがグリーン化に反する。
脱成長=定常経済の考え方は19世紀からあったが、資本主義とは相容れない。
世界的な炭素税が必要。

ジニ係数でみると日本はOECD諸国でも格差が大きい部類に入る。日本の格差の特徴は、相対的貧困率が高い、超富裕層は少ない。所得の中央値は、下がっている。
最低賃金を上げると雇用が縮小するというのは事実に反する。
生活保護の貯金の規定がおかしい。少なくとも100万くらいは持っていていい制度にすべき。
環境負荷の問題だけでなく、格差拡大と貧困が社会を壊す。資本主義の問題点。

温暖化で、大絶滅時代に入っている。
江戸時代の究極のリサイクルシステムに現代の技術を加えられないか。
生物学的に人間は娯楽で幸せを最大化する特殊な動物。
ツバルは海面上昇で沈む反面、サンゴの成長で国土が広がっている。
映画「ドントルックアップ」のように、温暖化懐疑派との言い争いが続いている。

2023年、UAWは抜き打ちストで交渉して賃金交渉に成功した。ビッグスリーだけでなく、労組のないテスラ、ホンダ、トヨタなどの他のメーカーにも効果が波及した。
日本は企業別労組のため、あまり効果がない。日本では、61年ぶりに2023年の西武本店スト、ABCマートのパート女性のストとユニオンによる団体交渉があった。
ストライキ権を背景としない団体交渉は、物乞と同じ(ドイツの判決で)。
企業別だと、その企業の競争力が落ちるため結果として勤め先が淘汰されるだけ。
フォードは、高い賃金で労働者の購買力を高めようとした。国は福祉主義的な社会保証と高い成長でその体制を支えた。高成長が止まると新自由主義でそれらを精算した。
社会の成熟でものが行き渡って新たな需要がなくなる。
バブルは高度成長の徒花、本当の低迷の理由はグローバル経済で新興工業国に市場を奪われたこと。
企業内組合では、労使協調路線で組合活動が人事ローテーションに組み込まれて、本気で対峙する気はない。

JRは誰のものか。公共性の高い鉄道が不採算路線を切り捨てて巨額の利益を積み上げていいのか。
民営化と効率性の向上は別の問題。再公営化はイギリスでも起きている。
資本主義では、短期的な利益を追求せざるをえない。
生活に欠かすことができない医療や教育は公的主体で行われるべき。
民間でできることは民間に、は正しいのか。公共の道具を金儲けの材料にしているだけではないか。
皆が利用していて独占的に供給するもの、は公が担うべき。水道の例。鉄道も本来そうではないか。

国民負担率は、日本では5公5民だが、世界的に見ると高くはない。年金や医療の負担が高く、住宅関連が少ない。
フィンランドでは、大学院まで無料。教育資金を貯めるという発想がない。
日本でも消費税を6%上げれば、医療や介護、教育、住宅手当も出せる、という議論がある。
しかし、フィンランドでは、小さい子供と家にいたほうが実入りがいいという制度にしたが、少子化は止まらない。社会的文化的背景があるのではないか。
勉強せず遊んでいる大学生になぜお金を出すのか、という反論。落第させることは可能だがそのためには精緻な成績評価が必要になる。ほとんどの学生に単位を与えたほうが楽。
財源は消費税が適した財源。法人税や所得税は景気変動が大きい。

財務省の財政均衡目標は正しいのか
財政論は、左派右派のねじれ。財政健全化は票にならない。MMTは、外貨借り入れがなければ財政破綻は起きないという議論。日銀から借りた政府の借金は返済する必要がないもの。そもそも貸し手も存在しない。貸借対照表に書こうとするから負債の欄に計上しているだけ。金本位制ではない現代では、通貨の信用維持のために負債を減らす必要はない。
税金は、税制支出の原資のためではなく、所得再分配とインフレ制御のために必要。納税は貨幣の需要のために必要。
財政支出の上限は、供給力を上回ることはできない。上回ればインフレになるだけ。現実には制御は難しい。
日本が実験室だった。イールドカーブ・コントロールであらゆる金利を操れる。日本で起きたことは、MMTの有効性を証明するもの。
MMTは、政策ではなく、レンズ。価値判断と結びついて有効な政策が打ち出せる。主流派の経済学は、エリートが資本主義を正当化するためのもの。
財政赤字の拡大だけでハイパーインフレが起きたことはない。戦後ドイツやジンバブエは供給力が損なわれていた。
BSE(緩衝備蓄雇用)の元になったのは、オーストラリアの羊毛買い入れ制度。日本の駐輪場で整理をしている人の賃金は、無駄のように見えるが、失業を防いでいる点で無駄ではない。BSEと同じ。就業保証の賃金で世の中の価格をコントロールできる。中心的政策。人は恐怖で働くのではなく、希望によって動く。
日本では赤字が膨大になっても、財政危機は起きていない。オオカミはいない。
財政支出と経済成長は、相関関係はあるが因果があるかはわからない。逆かもしれない。
ハイパーインフレは集団心理がおこすもの。何が契機になるかはわからない。

資本主義以外の選択肢がないように見えるが、かつては王権神授説もそう思われていた。
ベーシックインカムがもたらす制度、暗号資産との融合など。これが発行主体に組み込まれるディストピアの始まりかもしれない。

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2025年10月15日

Posted by ブクログ

社会福祉国家論を志向している感じで、規制緩和・民営化などの新自由主義には批判的な考察をとっている。
その観点で興味がある方は読んでみると良いかもしれない。

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2025年08月25日

Posted by ブクログ

現代社会が直面する様々な問題を、新聞の特集記事らしい質とボリュームで要領よくまとめている。新しい何かがあるわけではないが、一人の記者で書いているので、全体のまとまりや一貫性もあってよい。民営化と財政健全化の話が面白かった。

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2025年02月26日

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