【感想・ネタバレ】しをかくうまのレビュー

あらすじ

第45回野間文芸新人賞受賞作

「東京都同情塔」が芥川賞を受賞して更なる注目を集める著者が、
ほとばしる想像力で描く、馬と人類の壮大な歴史をめぐる物語。

太古の時代。「乗れ!」という声に導かれて人が初めて馬に乗った日から、
驚異の物語は始まる。この出逢いによって人は限りなく遠くまで
移動できるようになった――人間を“今のような人間”にしたのは馬なのだ。
そこから人馬一体の歴史は現代まで脈々と続き、
しかしいつしか人は己だけが賢い動物であるとの妄想に囚われてしまった。
現代で競馬実況を生業とする、馬を愛する「わたし」は、人類と馬との関係を
取り戻すため、そして愛する牝馬<しをかくうま>号に近づくため、
両者に起こったあらゆる歴史を学ぼうと
「これまで存在したすべての牡馬」たる男を訪ねるのだった――。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

p3〝〜それを突き止めないことには、どれほど頭の中に言葉を増やそうと、いくら急いで歩みを進めようと、どこへも行けないのだとふと気が付いたからだ。自分の頭と体の外へは一歩も出られないことを悟ったからだ。〟

p20〝〜馬は人間に言った、乗れ。そのようになった。馬は人間を乗せた。馬が人間をこの世界へ連れてきた。第一の日だ。 落雷のように私の頭に落ちてきた神と馬にまつわるアイデアは、この不可思議な世界の成り立ちのすべてを証明していた。馬が人間を乗せていなければ人間はいつまでも自分の足以外の手段で陸上を移動するというコンセプトを思いつかず、出会うべき人間同士が出会うこともなく、ひいてはここまで人間が増えることもなく、当然わたしも存在しなかった。人間の手によって創造された万象、わたしが座っている椅子、あなたが座っているその椅子、TV、インターネット、人工知能もすべては馬が人間につくらせていた。彼らの意思が、わたしたちにそれらを創造するよう仕向けていた。そう考えたとき、わたしは初めてこの世界に触れたような気がした。初めて世界が愛おしくなった。〟

p23〝タイトルの代わりに1163の番号が振られた短い詩は、神の白い空白の権力にひれ伏すかのようにごく控えめに印字されていた。詩の言葉は頭に入ってくる手前でばらばらに砕け、細かい塵のように床に落ちて埃に吸い込まれていった。ただエミリーディキンソンという名前がわたしの脳に刻まれた。〜〟



p43谷川俊太郎の芝生
〝そして私はいつか
どこかから来て
不意にこの芝生の上に立っていた
なすべきことは全て
私の細胞が記憶していた
だから私は人間の形をし
幸せについて語りさえしたのだ

 詩の暗誦を終えた彼女は視線を正し、再び我々を遥かな高みから見下ろした。不意にこの芝生の上に立っていた。それはどこの芝生だろう。わたしの頭の中に、馬も人もいない、夏の東京競馬場の乾いたターフと、コース内側の楕円の空白が広がった。 「私が日本人である状態を言い表した詩です。ご参考までに」と彼女は言った。〜〜〜「そのようなことは絶対に有り得ません。あなたも誰かの名前を呼んだことぐらいあるでしょう?名前は人間が人間に与える最初の詩なんです。その人間に一生ついてまわる詩です」 「名前?名前が、詩?ですか?」 「はい。名前は詩であり、名前のついたものはすべて詩です。私は詩です。あなたは詩です。こうして今、詩が歩いたり、労働したり、喋ったりしているわけです。〜〟


p53〝〜「My Maker - let me be.......(創造主よ、お願いです)」
彼女は小さな声で、詩らしきものを暗誦し始めた。
「Enamored most of thee - (私を夢中にさせて)/But nearer this(でも今よりも近づいたら)/I more should miss -(もっと恋しくなる)」  詩を理解する必要なんてありません。センスなんていうのは『センスがいいね』と言い合いたい人たちのための言葉であって詩には関係がないから。でもせっかく人間として生まれ、たまたま人間の言葉を覚えたのなら、詩を読むに越したことはない。なぜなら我々人類をこんなところにまで連れてきたのは、他ならぬ言葉だからです。その言葉が理解不能であればあるほど、より遠くへ行くための駆動力になります。だから詩を読まないというのは人生の大きな損失です。人類の大きな後退です。私はそう思います」〟

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2026年10月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

後半は特に難解であまり分からなかった
馬が好きすぎるあまり、境界線や思考が歪んだ人達の心情を描いてるのかもしれない
馬の血統主義を婚活マッチングサービスに持ち込む人の言説が面白かった

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2026年02月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【言葉を使うヒト、の行く先…】
主人公がTV局での競馬の実況の仕事をしている世界と、もう一つの異次元的な世界とが、交ざり合っていく。


この題名が平仮名なのは、あえてその意味を固定せずに言葉で遊んでいる節があるー「詩を書く馬」「死を欠く馬」。

詩や言葉について、幾度も触れられている。

一頭でも多く馬の名前を電波に乗せるという使命感。

馬に付けられる名前。その言葉の重み。

語順。

ヒトが言葉を生み出す過程。生物としての進化、分岐。

人工知能を内在化する未来のヒト。


結果と意義。なんのための言葉?何のための進化?みたいなところを問うているような、でもはっきりとは示さない構成。ニーチェとかサルトルとかの思想を知っていると理解が深まるのかな。そういった部分が難しかった。


とにかく私にはまったく新しい切り口で、言葉を持つ人間界を少し相対化するような、逆に馬を少し神聖化するような、ユニークな視点で描かれた作品。

正直最終的に、漢字をずっと見てたら漢字じゃなくなる現象の、言葉バージョンみたいになってしまったような部分がある。

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2024年04月29日

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