あらすじ
ナチが略奪したのは美術品だけではなかった。世界を思想的にも制覇しようという彼らの野望にとって、厖大な量の本や資料を略奪し、それを用いて「敵」を研究し尽くすことが、不可欠な手段だった。
ナチは「野蛮な知の破壊者」ではなかった。「敵」を知るために厖大な本や資料を読み尽くし、それを利用し歪曲して、ナチの視点から世界史を書き換えるという壮大な目論みが、本の略奪の動機だった。
戦争末期の混乱のなかでナチが略奪した大量の本は失われ、叢書やコレクションは四散した。戦後ソ連に運ばれたまま戻らぬ本も多い。ドイツの多くの図書館は、失われた叢書を補填すべく、出所を確かめぬまま略奪本を受け入れた。今世紀になり、そのような略奪本を洗い出し、もとの所有者やその子孫に返還する運動が進行中である。
著者はヨーロッパ各地を訪れ、本の略奪、蔵書の消滅や四散、そして返還の現在を、新資料とともに検証している。
スウェーデン「Foundation Bengt Janson's Memorial Fund Prize 2018」受賞作品。
「このような歴史は、今なおわれわれを驚愕させる。研究者たちが新たな問題を掘り起こし、新たな手がかりを辿ると、初めて明るみに出る事実が今なお存在する」(シカゴ・トリビューン紙)
「思想史、探偵小説、略奪本返還運動の記録が渾然一体となったこの本は、読者の興味をかきたてずにはおかない」(ロサンジェルス・レビュー・オブ・ブックス)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
本を焼いたのは知られているが占領地でユダヤの本を片端から集めていたのは知られていまぜんでした。
その奇妙な性癖についての本です。
善悪からはちょっと身を引いて書いています。
集められた本が今どうなっているのかを同時にレポートした書き方がすぐれています。
また、ナチスのユダヤ人差別の「思想」がどのようにして起こっていったかがくわしくわかりやすく書かれています。
ユダヤ人差別がナチス、ドイツだけの問題ではなかったことが、ナチスの蛮に世界が震撼した理由なのだとわかります。
ユダヤ人への差別を持っていない日本人がひどいというのと性質が違うのです。
Posted by ブクログ
本年の春にテッサロニキを訪れたとき、この地はアリストテレスやアレクサンドロス大王ゆかりのギリシア第二の都市と称揚されるわりには荒廃した印象が拭えず、不思議な思いがしたものであった。ところが図らずも本書には、そのよってきたる原因が記されていた。
第二次世界大戦でナチスの占領されるまでは、テッサロニキは過去何百年も世界最大のユダヤ人都市であった。つまりユダヤ人がマジョリティであり、そのもとで文化、経済が花咲く唯一の都市だったのである。第二次世界大戦勃発の時点でユダヤ人は5万を数えたが、この大戦を生き延びたユダヤ人はわずか2~3000人だったそうである。ナチスはユダヤ人を虐殺しただけでなく、ユダヤ文化の根幹となるタルムードをはじめとするあらゆる文献、古史料を略奪、焚書に処し、シナゴーグや墓地をすべて破壊して、ユダヤ人の痕跡を消したのである。現在のテッサロニキの荒廃した印象は、その破壊の残滓がもたらしたものであった。
似たような運命に見舞われた都市はワイマールやミュンヘン、フランクフルト等のドイツ国内はもとより、ポーランド、リトアニア、オランダ、さらにはローマ、パリ、プラハ‥‥とヨーロッパ各地に及ぶ。本書はこれらの地で行なわれたユダヤ文献の略奪や抹殺を実行した組織の実態、及びその規模と方法の一端を明るみに出したという点だけでも特筆に値する一書といえるだろう。