【感想・ネタバレ】大江健三郎論~怪物作家の「本当ノ事」~のレビュー

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Posted by ブクログ

新書として、大江の主要著作の紹介と"既存"のイメージに対する疑義とをバランスよくまとめた好著。面白い。ただ、私は著者と同世代だが、大江を読み始めたのはこの十年内外で、時事的な評論などは読んでいない。そういう私も含めた現代の読者にはかつての様な戦後民主主義の守護神とか、障碍児を持つ親という優しいイメージとかを必ずしても持たれていないのではないかと思う。読んでいれば天皇に対する屈託や性衝動についての強迫観念は誰でもわかると思う。それを除いても読まれ得る何かを大江文学は持っているように思う。その何かが知りたい。

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2024年02月19日

Posted by ブクログ

筆者は白百合女子大学教授で、日本近代文学を専門とする学者。本書は、文学の学者が書いた大江健三郎論。
大江健三郎の作品を、おおよそ年代順に読み進めながら、個々の作品の解説を施し、しかし、全体的なテーマは、「いったい大江健三郎とは何者だったのでしょう」「大江は戦後民主主義を代表する知識人という枠には決して収まらない存在であり、大江文学の真の魅力は、そういう評価とは別の場所、むしろそれを裏切る場所にあるのかもしれない」と筆者が触れているように、大江健三郎という作家の真の姿に迫っていくことだ。
私は高校生・大学生の頃に大江健三郎の初期の作品を読んでいた。それから数十年が経ち、最近、初期の頃の作品から概ね年代順に、作品を読み返している。大江健三郎の文壇登場作は「奇妙な仕事」「死者の奢り」であるが、それらの作品の発表年は1957年のことである。そこから読み進めて、今現在は1970年頃の発表作品、具体的には「みずから我が涙をぬぐいたまう日」あたりまで読んだ。大江健三郎は以降も数多くの作品を発表しており、私が読み終わった部分は、まだまだ入口的な部分までであろう。
初期の頃の大江健三郎の作品は衝撃的な文体・内容のものが多いが、それでも、まだ読みにくさがあったとは思わない。ところが、私が読み進めた時期あたりからの作品は、非常に解釈の難しい、読みにくい作品が多くなってくる。なぜ、このようにスタイルも内容も変わったのだろうとずっと思っていた。詳しいことは省くが、この本の中で、筆者は、自らの作品内容に縛られ、以降の作品に行き詰まりが出て来た時期であるというような趣旨のことを書いており、なるほど、と思わされた。
本書の大江健三郎論は、晩年の作品まで続き、その多くの作品を私は読んでいない。作品を読み進めた後、再度、本書を読んでみたいと思った。

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2024年04月20日

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