あらすじ
綾部蓮という青年は、私たちにとって遠い国の王様のような存在だった。神の贈り物と呼ぶべき肉体と才能に恵まれ、美貌をもって周囲の人々を侍臣のごとく傅かせ、それでいて何時も退屈を持て余していた。だから彼が自殺した時、その理由を知る者もいなかった――。ひとりの才能ある若者に羨望を抱いた者や憎悪した者、誰もが彼の年齢を追い越し忘れ去っていくなか、私たちは思い出す。なぜ青年は自ら命を絶ったのか? 人生の一時期に齎される謎と恩寵を忘れ難い余韻とともに鮮やかに描き切る連作ミステリ。/解説=大矢博子
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Posted by ブクログ
とても上質で綺麗な文章と、それぞれ個性があって魅力的な登場人物に心惹かれる。
読後も余韻に浸り、普段あまり縁のない充足感に満たされたような気がした。
もっと岩下さんの文章に触れたい。
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1ページ目、あまりにうつくしい文章に何度も同じ一文を読んでしまった。美文に圧倒され、はじめからおわりまでどっぷりと浸かり、「うつくしい文章の小説しか読みたくない」という普段は口にしない望みを満たしてもらえた。
化学、祈り、運動、恋慕、「反復」することでしか至らない魂の領域。そして至らない、未完であるものしか来世には持ち込めない。
綾部という自裁した男がおこした漣、それを受けた者たち。過ぎた日々の痛恨のまばゆいばかりのうつくしさ。
ミステリとしては日常の謎、に分類されると思うけどそれもよかった。でもなにより物語のうつくしさと文章のうつくしさにノックアウトされてしまい、泳ぐだけのシーンをこのように描写するのかと、趣味として文章を書く身が引き締まる思いである。
いますぐに新作を読ませて欲しいし、本作にもあった幻想小説の匂いをもっと濃くした話などはどうだろう? 読みたい、この美文に絶対に合うはずだ。
猫堂くんって萌えキャラですか?
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ミステリー性と文学性が両立してなきゃ満足できん! 一般人レベルの文章力で作家を名乗るな! って考えてる面倒な読み手(自分もそう)に全力でおすすめしたい。
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『あまりに美しいミステリ。震える。 反復の尊さと、ジハードの本当の意味。 この余韻に、しばらく揺蕩っていたい。 大切な友人に読んでほしくて、 半ば押しつけるように渡した。』
女優・小橋めぐみさんの評に納得。
私も大切な友人に読ませよう。
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なんだろう…スケールの大きい海外文学を読んだ読後感。
京都っていう限定された空間の話なのに、時間的にも空間的にも無限が広がってた。
めちゃくちゃ刺さった。
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キリスト教、イスラム教、仏教、源氏物語、そして京都という舞台がなんとも表現できない不思議な読後感を生み出します。どちらも京都が舞台ということもあり、同じ作者の作品「水底は京の朝」にも通ずる不思議な感覚でした。
蓮には何も感じなかったけれども、蓮に直接的・間接的に人生を翻弄された者に心をかきむしられる思いでした。アリジゴクと薄羽蜉蝣を思い浮かべました。
今年のベストテンに入る好きな作品になりました。
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綾部蓮という怪しい青年を巡って語られる連作短編集。しっとりした文体が心地よく、最初の作品での猫堂というトリッキーなキャラに戸惑ったが、2篇目の「ヴェロニカの千の峰」が心にズシンと来るくらいに良かった。
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綾部蓮は見た目も良く、自由形のトップスイマー。常に彼女がいて、直ぐに違う人女性になるような男だが、嫌われたりせず、何時も人に囲まれている。しかし、自殺した。
瑛子は彼にひっそり憧れる1人であり、同じ大学の水泳部員であり、伸び悩むスイマーでもある。そんな瑛子が毎日泳ぐ姿は修行僧のようで、魅せられている人が多数いることを瑛子は知らない。医学部の猫堂もその1人。瑛子、綾部、猫堂、北里舞を中心に綾部が自殺に至る前の大学時代とその後が語られ、何故自殺したのかが最後に明らかになる。
プールの青い透明感がずっと感じられる透明感のある、しかしザワザワと心の揺れる文中を漂っていた印象。脚本家出身らしく、映像が何度も心に浮かんだ。個性的なキャラクターが多いのも読みやすかった。生きることに恵まれているのに上手く立ち回れない登場人物多すぎやろ…。
子をなすことへの言及多く、小学校には向かない。中学校以上。基本は高校生くらいから。
Posted by ブクログ
綾部蓮という青年は美しく、周りにいつも人がいて、才能にも恵まれていた。しかし彼は自ら命を絶った。
彼と出会った4人の話。
文章ひとつひとつが美しく、特に水泳の様子の文章は驚いた。泳いでいる様子を描くだけで、こんな表現があるのかと。
大きなミステリーがあるのではなく、4つの話を通して小さな謎が紐解かれていく様な印象を受けた。少しずつ重なってくる人間関係。読んでいるうちに引き込まれて、一気に読み切ってしまった。
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連作短編4篇
水の申し子のような綾部漣を軸に、彼を好きだった人、関わってしまった人たち4人の視点で物語は進む。それぞれの章の謎解きと大きな謎、どうして綾部漣は死んだのか?が最後に提示され、狂言回し的な狐面の教授の不思議不可解さを残して物語は閉じる。ただボーイミーツガール的な要素もあってひたすら泳ぐ瑛子とそれを見つめる猫堂はもう一つの軸として面白かった。
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ミステリの気持ちで読み始めたが、あまりミステリ感を感じなかった。宗教的なエッセンスが散りばめられていて、思った以上に高尚な作品という印象を受けた。でも、1日で一気に読み切れるくらい引き込まれる作品でした!
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YouTube「ほんタメ」で紹介されていて、手に取りました。
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ただならぬ
緊張感と、
ままならぬ
人生の不穏な謎が、
心をざわめかせる。
巷に溢れる、
底の浅い「真相」に
飽き足らぬ人は、
ぜひご一読を。(恩田陸)
若くして自ら命を絶った天才と、
彼と出会った四人に齎せる
謎と恩寵。
忘れがたき
余韻を残す傑作。
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最近読んできたミステリーと
雰囲気(毛色?文体?)が異なり、
想像していたのと違う!と戸惑いました。苦笑
最近転職したばかりで、
心も生活もざわざわしているため、
読みやすくて読み応えのある(なんて贅沢)本ばかり手に取っていたみたいです。
本書は、
仏教、キリスト教、イスラム教、
そして源氏物語に狐に猫、
舞台は京都が登場します。
このキーワード…!
他の方のレビューにもある通り、
詩的でどこか象徴的で不思議で耽美な文章が連なります。
神の贈り物というべ才能に恵まれ、
美貌を持って周囲の人々を傅かせた綾部漣という青年。
彼は何故自ら命を絶ったのか。
彼に影響を受け、翻弄され、
心を奪われた人が登場します。
物語全体に綾部漣という青年が薄膜のように存在しますが、本書は周囲の人間から見える景色の短編集です。
最初は、
創元推理文庫さんの小さな文字たちと、
内容の読みにくさで、
(通勤で集中できない私が悪い。笑)
読み進めるのに時間がかかりました。
印象的だったのは、
「綾部にかき乱された水はいつも幸福そうに見える。」
という一文。
そんなか…!というのが第一印象でしたが、
綾部漣という男がいるだけで、世界が変わるというような圧倒的というか抗えないものを持っているんだな、と。
後半は、
そんなカリスマ性?を持った綾部漣の
悲哀、渇望が垣間見え、
周囲が傅くような王様ではなく、
ただの青年として描かれることで、
彼が中心ではなく、
そう見えるようにされていただけと思わされました。
結局、彼も見えない運命の中で転がっていただけ。
これはもう少し時間と心に余裕があるときに、ゆっくり読み返したい一冊でした。
Posted by ブクログ
自ら命を絶った肉体と才能に恵まれつついつも退屈を持て余せていた綾部蓮という1人の青年を取り巻く人たちについての連作ミステリー小説。
極めて流麗で端正な文章で、宗教的知識が散りばめられていて、ミステリーとしてもよく練られており、とても読み応えのある小説らしい小説だった。
Posted by ブクログ
猫堂がとにかく気持ち悪かった
この感情を引き摺りすぎたのかもしれないが、それ以外の登場人物も子供すぎたり冷た過ぎたりみんな極端で、誰一人として感情移入できる人がおらず、可哀想とは思っても、世界の広がりもスケールの大きさも感じなかった
「謎」についても、まあそうだろうな、という感想しかなく…
そこまでの傑作とは思えないかな
Posted by ブクログ
面白いよ!という評判で読んでみたけど、あんま刺さらなかった。
全体的に仏教的で、合わなかった。キリスト教もイスラム教も出てくる。
綾部蓮という、桐島、部活やめたってよ、の桐島みたいなキャラクター。誰にとっても神様で王様でブッダ。
「スラマナの千の蓮」
想像妊娠が出てくるのは良かった。自分が焦がれてる相手が父親かと思ったら自分だったという、なんか少女漫画的で良かった。いや、そんな見たこと無いけど、恋模様における勘違いってやつが良かった。
「ヴェロニカの千の峰」
ミステリーとしてはこれが一番ミステリーしてる。綾部蓮の死後でも、振り回される現世の人達。
「ジブリルの千の夏」
夜だと騙して水を飲ませて介抱するという。狐塚教授の暗躍具合を感じられて良かった。
「きみは億兆の泡沫」
AIDの話が出てくるなら、綾部蓮の父親は狐塚教授だろうと察しはつくが、綾部の両親の話と、冒頭の記事が父親のものだったのはわからなかった。
猫堂が狂言回しのような、狐塚教授の采配によってうまい具合に動いてるのが良かった。
綾部蓮はどうすれば良かったのかわからない。人柱にさせられたのが可哀想だとぼんやり感じる。でも、王様だと思われていても、それを踏み台にして成功を掴む瑛子もいるわけで、そこら辺は相互に作用するもんで、瑛子の場合は来世はどうでも良いから、今勝ちたいという結論になるわけか。
綾部蓮が生まれ変わったのなら、それは将琉になったのかもなあと感じた。
Posted by ブクログ
内容紹介に惹かれて読んでみた作品。
『綾部漣という青年は、私達にとって遠い国の王様のような存在だった。神の贈り物と呼ぶべき肉体と才能に恵まれ、美貌をもって周囲の人々を侍臣のごとく傅かせ、それでいて何時も退屈を持て余していた。だから彼が自殺した時、その理由を知る者もいなかった』
読む前の予想としては、端からは分からない綾部漣の真実に迫る話なのかと思ったが少し違っていた。
読み始めると、この徒花のような男が男女関係なく周囲を虜にし惑わせるというのは予想通りだったのだが、彼らが綾部漣から離れると、全く違う世界へ入って行くというのは興味深かった。
ある者は綾部漣と同じ水泳の道を突き進み、綾部漣よりも極めていく。そこに医学的ヒントと仏教を絡めていく。
ある者はキリストへの祈りの道に、ある者は仏教の中でも厳しい修行の道へと突き進む。
だがいずれの物語は綾部漣は華やかなパレードが時折交差するだけの、ちょっとした脇役でしかない。
しかし第三話でようやく元彼女の話となる。ここでついに綾部漣の真実が…と思いきや、ここでも彼は女も男も気ままに弄ぶ悪い男でしかない。
水泳の道も第一話の瑛子のような求道者のような熱心さは全くなく、気ままにしかやらない。
だがこの第三話、源氏物語とイスラムの女性たちとの共通点があり、そういう視点で読んだことはなかったと新鮮な気持ちになった。
ついに最終の第四話。これまで度々登場してきた人物が主人公となり、もう一人、やはり度々登場してきた謎めいた教授がクローズアップされる。
ここでついに綾部漣の真実が明かされるのだが、なんとも虚しく切ない物語だった。
綾部漣の物語だったはずが、いつのまにか狐塚教授の物語に取って代わってしまったような、そしてその狐塚教授すら曖昧な存在になってしまっている。
『所詮はうたかた』ということなのか。
『来世に持ち越せるものは』『成就しなかったものだけ(=修行)』という教えはなかなか興味深い。
瑛子が思うように、永遠なのは相愛ではなく片恋なのか。ならばやはり綾部漣の思いは永遠となるのか。そして綾部漣を思う人々の気持ちも永遠なのか。
なんだか堂々巡りのようになってきた。
扱いが難しい宗教を絡めて興味深い物語を描いてくれたのは面白かった。突き詰めすぎでは?と思う部分が無きにしも非ずだが(特に第二話)、興味深く読めたので良しとしよう。
個人的には綾部漣よりも狐塚教授の方が王国を築いていたように見えたのだけれど。