あらすじ
父について知ることのあまりに少なかった娘のユニークな父の記.著名な父への娘の激しい葛藤があり,骨太い知識人である父の思いがけぬ一面の発見がその人となりと心の奥行きをおのずと明かしてゆく.
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
中野好夫の娘&土井晩翠の孫娘(生母は晩翠の娘)というレッテルとプレッシャーがついてまわる。父の好夫はワーカホリックで、自分中心。娘に対しては厳しく、叱責の数々。だから、10代の頃は沈黙の抵抗、20代と30代はことばで反発し続けた。
しかしその父が亡くなり、自分も50歳を過ぎ、父の著書と訳書を読んでみる。晩年に訳したギボンの大著『ローマ帝国衰亡史』。西洋史を専攻した娘は、その訳文に惹き込まれてゆく。封印してきた父との思い出の箱が少しずつ開けられる。
淮陰生(わいいんせい)をめぐるエピソードもある。1970年から15年間、岩波のPR誌『図書』に「一月一話」というコラムを連載していた淮。実は中野好夫だった。娘は父親の文章に似ているのに気づいて聞いてみたが、自分ではないという返答。本書を書くにあたって、バックナンバーを調べてみたら、休載月が病気療養時期とぴったり一致した。娘もまんまと騙された。スウィフトの専門家、いかにも中野好夫らしい。
本書は、1993年度の日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した。