【感想・ネタバレ】潜水鐘に乗ってのレビュー

あらすじ

【サマセット・モーム賞受賞、ホリヤー・アン・ゴフ賞受賞】48年ぶりに夫と再会するため、旧式の潜水鐘で海にはいっていく老婦人(表題作)、身体が石になる予兆を感じた女性が過ごす最後の一日(「石の乙女たち」)、やがて巨人になる少年と、人間の少女のなにげない日常のひととき(「巨人の墓場」)、数百年を生き、語るべき話を失いながらも再び物語を紡ごうとする語り部(「語り部(ドロール・テラー)の物語」)……妖精、巨人、精霊、願い事をかなえる木、魔犬……さまざまな伝説や伝承がいまなお息づく現代の英国コーンウォール地方を舞台に、現実と幻が交錯する日々をあるがまま受け入れ、つつましく暮らす人々の姿を、新鋭ルーシー・ウッドが繊細かつ瑞々しい筆致で描く12編を収録した短編集。/【目次】潜水鐘に乗って/石の乙女たち/緑のこびと/窓辺の灯り/カササギ/巨人の墓場/浜辺にて/精霊たちの家/願いがかなう木/ミセス・ティボリ/魔犬(ウイシット)/語り部(ドロール・テラー)の物語/訳者あとがき=木下淳子

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Posted by ブクログ

『潜水鐘に乗って』
著者 ルーシー•ウッド
訳者 木下淳子 

この本は、ルーシー・ウッドの出身地である、英国コーンウォール地方のさまざまな伝説や伝承を元に紡がれた12の短編集になっています。
イングランドのコーンウォールという、その国、その地、独特の物語があります。
装丁画の持つ雰囲気と解説に惹かれて購入し、ゆっくりと時間をかけて読み進め、堪能しました。
静けさの中に、時を生きた人々の想いを感じられるお話が心に残ります。

【目次】より。
潜水鐘に乗ってー48年ぶりに夫と再会するため、
    旧式の潜水鐘で海にはいっていく老婦人。
石の乙女たちー身体が石になる予兆を感じた女性
    が過ごす最後の一日。
緑のこびとー母親の周りについて回っている普段
    は見えない緑(銀色)のベストの男。
    ー母親の青いクリームの容器ー。
窓辺の灯りー亡霊ー難破船荒らしの男が探すもの
    ー錆びた鍵ー洪水に沈んだ町。
カササギー妻は毎晩夢をみる。彼女に話さなかっ
    た事実ばかりをー昔の恋人マイに会う、
    カササギに出会うーそのことは話さない。
巨人の墓場ーやがて巨人になる少年と人間の少女
    のなにげない日常のひととき。
浜辺にてーオスカーと祖母ー海の妖精ブッカー
    供える魚を忘れた祖母ー帰らぬ夫と息子。
精霊たちの家ー「家」に宿る精霊たちの語り。
願いがかなう木ー母ジューンと娘テッサー再び
    訪れた「願いがかなう木」。
ミセス•ティボリー瓶の中にしまわれた記憶ーミセ
   ス•ティボリと私ー彼女の世界の地図を作る
魔犬(ウィシット)ー床屋を営む痩せた父ー松明を
    手に、夜でかける父ー家にひとり留守番
    するわたしー荒れ野の魔犬ー父とふたり、
    斜面の岩を登り頂上へー流星群(希望)。
語り部の物語(ドロール•テラー)ー数百年を生き、
    語るべき話を失いながらも再び物語を
    紡ごうとする語り部。

読後は余韻が残ります。表題作の「潜水鐘に乗って」と「浜辺にて」は特に印象深く残っています。
(『浜辺にて』の終盤、友達に「(オスカーの)おばあちゃんは世界一不幸だ」と言われたことに対してオスカーは、「おばあちゃんは不幸じゃないー。おばあちゃんはずっと続けてるだけで、それは不幸とは全然違うー」。この言葉は秀逸です。)
一話毎に、別世界に連れて行かれたような不思議な感覚もありました。また違う季節に、歳を重ねてからも繰り返し味わいたくなる、深みある人生の物語のような一冊ですね。
ルーシー•ウッドの二冊目の短編集と長編小説も、ぜひ刊行して欲しいです!

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【コーンウォールについて】
コーンウォールを調べてみると、イギリス最南端、名称の由来は、ケルト語で「岩の丘陵地帯」を意味する「Kernow」に由来する。伝説の宝庫で、スコットランドやアイルランドと同じケルト民族の土地であるため独自の文化を持つ。など、あります。
(コーンウォールについてもっと詳しく知りたい方は、井村君江さんの「コーンウォール 妖精とアーサー王伝説の国」をお薦めします。そちらにも、伝承、伝説のお話が載っていますよ〜( ´∀`))

【訳者のあとがき】より抜粋。
 原書の英版ペーパーバックを手に入れたのは、美しい表紙に惹かれてのことだった。だが、読み終わる頃には、独特の世界観を持ち、幻想的かつ胸が締め付けられるような短編の数々を、ぜひ日本の読者にも紹介したいと強く思うようになっていた。
 本書に収められている短編集は、どれも著者ルーシー•ウッドの出身地、イギリス南西部に位置するコーンウォール半島に数多く伝わる伝説や伝承が下敷きになっている。
 あるインタビューの中で、ルーシー•ウッドはこう話している。「ー伝説や伝承には、人生のあらゆる問題に対する答えが詰まっています。それは、読む人が物語を現実の出来事に変換し、現実を理解するように促しているのです。伝説や伝承には悲劇が秘められていますが、魔女や人魚や巨人たちの物語には、悲劇だけでなく美しさやユーモアも隠れています。ー伝説や伝承を元にそれらを再構築し、生まれ変わらせて新しい物語を作る。それがわたしのやりたいことですー」
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サマセット•モーム賞受賞
ホリヤー•アン•ゴフ賞受賞

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2024年07月19日

Posted by ブクログ

短編集12編
イギリス,コーンウォール地方の伝承などを元にして幻想と現実が混じり合ったような味わいの物語.家に住み着く精霊や変身譚など変化に富む内容.少しわかりにくいのや,単に認知症なのでは?というのもあるが,面白かった.
鐘の潜水艇に乗って50年も前に海の底に沈んだ夫を探す表題作,孫オスカーと洞窟に住む祖母との交流を描いた「浜辺にて」が良かった.

0
2024年10月02日

Posted by ブクログ

イギリスの幻想小説ですね。
作者はルーシー・ウッドさん、イギリスのコーンウォール出身。この作品がデビュー作です。サマセット・モーム賞、ホリヤー・アン・ゴフ賞を受賞。
訳は木下淳子さん翻訳家。
 木下淳子さんが、原書を読まれて是非とも日本で出版したいと形になった本です。木下淳子さんは訳出するにあたって、コーンウォールを訪れた事が無いので、井村君江さんの『コーンウォール 妖精とアーサー王伝説の国』を参考にされたそうです。情熱と愛着の結晶ですね。
「ルーシー・ウッドが故郷の自然や風土、そこに息ずく伝説を愛情深く生き生きと描き出していることがわかった」とあとがきで記されています。
 十二編の短編は、伝説や伝承がルーシー・ウッドさんのお話で浄化されて、美しく描かれています。
 精霊や亡霊、伝説が幻の形でなく、そこに生活している登場人物と共に息づいているのです。
 静かに物語は語られて、時にユーモアも感じさせます。読み人はこの小説でコーンウォールの美しい風土と、人々の中に伝説や伝承が生き生きと生活に根付いているのを感じることができると思います。
(この本も、メメさんの本棚登録で知りました。
 メメさん、とても美しい幻想小説を堪能出来まし  た。ありがとうございます♪)

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2024年08月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ディケンズの「大いなる遺産」のピップの故郷が思い浮かぶような背景で描かれる「魔犬」が特に印象に残った。孤独な雰囲気をまとう父と娘が、ある夜、寒く暗い荒地を歩いて流星群を見に行く…その情景が切ないほど美しいと思った。

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2024年12月19日

Posted by ブクログ

理屈で読んではいけない一冊。「浜辺にて」くらいまではあまりの謎世界ぶりに混乱してばかりだったが、訳者あとがきを読んでようやく、英国風の妖怪奇譚と捉えればよいのだとわかった。それにしてはどれもこれも、人間の女性の寂寥感に溢れすぎているのだが。

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2024年07月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ルーシー・ウッドの短編集。本邦初訳。
表紙が良く、ジャケ買い。

ジャンル的には幻想文学か。コーンウォールに伝わる伝承が日常に溶け合っており、不思議な余韻を残す短編が多い。
非常に良い作品もあったのだけど、いかんせん文章が入ってこないことが多かった。霧の中を彷徨う読み応えなら良いのだが、どちらかというと泥の中を歩く感じ。なかなか時間のかかる読書になった。以下、作品ごとの感想。

◎潜水鐘に乗って
48年前に生き別れた夫に会い、海の底へ向かう老婆の話。沈んだ船にまとわりつく死霊なのか精霊なのか。相手が死んだ時のまま変わっておらず、自分だけが年老いたため声をかけずじまいの最後が切ない。

◎石の乙女たち
体が石になる女性の話。あと数時間で石になってしまうのに、昔の恋人から新居の確認を頼まれて断れない。石になるまでの時間が少ないことの焦りと、元恋人ののんびりさの対比がユニーク。

◎緑のこびと  ★おすすめ
母親の使っていた塗り薬を塗ると妖精が見えるようになった女性の話。有名な妖精に連れられていく子供の伝承話が元だろうか。妖精の邪悪さが垣間見えて良い。

◎窓辺の灯り
難破した船乗りの幽霊と同居することになった女性の話。どこか息苦しい感じがする。会話できる幽霊が結構理不尽。

◎カササギ
車で轢いてしまったカササギが何か言ったような気がして、カササギを追う男の話。妻も男が体験したことを共有しているようで、言わなかったことまで夢に見る様子。結局はあったかもしれない別の人生に焦がれる男の、幻想色が強い作品。

◎巨人の墓場  ★おすすめ
原野にある巨人の墓場で一夏を振り返る少年少女の話。少年の父が巨人だったようで、大きくなることへの戸惑いと焦りを感じている。少女とは住む世界が違うことをなんとなく予兆させる終わり方。

◎浜辺にて  ★おすすめ
海難事故で夫と多分息子も亡くし、その後から海岸の洞窟で暮らす祖母と祖母を訪れる孫の話。ブッカ(嵐を呼び込む妖精?)の存在が示されるが、災害の擬人化(悪さをすると的な)のようで。祖母と孫の関係も永遠に続かず、終わりが近いことが予感される。ラスト、終わりが近いからこそ、ずっと忘れられない風景を二人で見れたことの余韻が良い。

◎精霊たちの家
家の精霊たちから見た家に住む人々の移り変わりの話。色々な人が入れ替わり立ち替わり住むが、それを影から見守る妖精たち。色々な家族の一生のようでどこか切ない。

◎願いがかなう木
母の友人を訪ねる親娘の話。目的地までの途中で寄る「願いがかなう木」に何も願うものがない娘。母と二人、毎日を過ごせることが一番の願いだからなのか。

◎ミセス・ティボリ  ★おすすめ
新設された老人ホームの受付の女性の話。老人の一人ミセス・ティボリから、様々な情景を見せてくれる霧の入った小瓶を紹介される。見せてくれる霧は過去だったり、未来だったり。老人ホームを舞台に魔女との日常が描かれた作品。

◎魔犬
原野近くの家に住む父娘の話。夜毎聞こえてくる魔犬の遠吠えの中、星を見にいく二人。どこかぎこちない父娘を描いた作品。

◎語り部の物語
地域の伝承、伝説を忘れてしまった不死の語り部の話。久しぶりの語り部の仕事で記憶が徐々に戻り、伝承、伝説は蘇る。

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2024年01月28日

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