あらすじ
あの頃の時代へ連れてゆく、76年の音楽人生の記録
1970年のデビュー以来、伝説の10日間日本武道館公演などで知られるバンド「オフコース」として約20年間活躍し、その後、ソロとなり、数多くのヒット曲や心に沁みる楽曲を作り、歌ってきた小田和正さん。
2023年8月、史上最年長アリーナツアーの記録を更新。76歳となった今でも、ライブに駆けつけるファンは年間30万人を超え、広いアリーナを縦横無尽に駆け抜けながら3時間近くのライブを精力的に展開しています。
そんな小田さんの人生について、詳しく語られたことはありませんでした。
本書では、著者が約20年をかけ、小田さんの幼少期からの音楽人生を、本人を中心に取材。学校の帰り道、同級生だった鈴木康博さんとビートルズの歌をハモる楽しさを知り、音楽の道へ。13人しか観客が来なかったコンサートなど、二人のオフコースの下積み。五人のオフコースとなり、スーパーバンドに成長していく中での鈴木さんの脱退、そして四人のオフコースになるも解散……。当時のレコード業界やレコーディング風景、「さよなら」「眠れぬ夜」「YES-YES-YES」「ラブ・ストーリーは突然に」など数々の名曲の誕生秘話も明かされます。
著者は元オフコースのメンバーである鈴木康博さん、清水仁さん、大間ジローさん、松尾一彦さんにも取材。盟友・吉田拓郎さんから見る「人間・小田和正の魅力」や、初期のファンクラブ会員だった作家の川上弘美さんが見た2人のオフコース時代も読みどころの一つです。
ストイックなまでに、自分の理想とする音楽を追求してきたアーティストの一大叙事詩ともいえる記録です。
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Posted by ブクログ
中学生の時からの筋金入りのファンである。5人時代の最後のコンサートにも行けたし、4人になってからのオフコースも大好きだった。だが、ソロになってからの小田さんには違和感を覚えていた。「クリスマスの約束」を見て、その神歌声に感嘆しつつも、なぜか昔ほど心が震えなかった。あれほどこだわっていた“オフコース”を簡単に捨て去ったように思えた。
この本ほど、小田和正の人生を掘り下げているものはなく、これ以上のものはまたとは出ないだろう。長年のファンなので、知っているエピソードも多かったが、家系も含めここまで生い立ちを綴らせるとは。
だが、私がこの本を購入した理由はただ一つ。
4人時代のオフコースが解散した原因を知りたかった。
小田さんは稀有なアーティストであるが、天才肌の人ではない。また性格もそれにありがちな「俺が俺が」では決してない。かと言って、圧倒的なエネルギーで周囲の人をまとめ上げるほどタフなチームリーダーでもない。むしろ気を遣い過ぎて疲弊する。
(とは言っても、小田さんは大の“仲間”好きでもある。それが後の“クリスマスの約束”でのアーティストたちとのつながりに発展するのである。しかしそれは部活的な仲間意識であり、利害関係を伴わないことが前提ではなかろうか)きっと仲間たちは、彼がどんなことを考えているのか、思いを巡らせながら、その魅力に付き従うのだろう。小田和正は、ひたすらに考え続け、歩き続ける職人型の人なのだ。不思議なことだが、“天賦の才”の持ち主なのに、彼は自分が“必要とされているか?”いつも懐疑的で、自信がない。なのに努力しても及ばない人の屈折した気持ちが分からない。これが『実質上の解散』となるヤスさん脱退につながる。
ただ彼の名曲が、自分を決して過大評価しない、繊細な感受性の賜物であるのも事実。
この本のタイトルどおり、風のような人である。
さて4人オフコースの解散の理由であるが、よく云えば音楽性の違い、平たく云えばコミュニケーション不足。後者の表現を採用するなら、原因は小田さんの自信のなさだと思う。皆、「俺についてこい!」と言ってほしかったのではなかろうか。
この本は、登場人物の誰にも肩入れすることなく、元メンバーはもちろん、あらゆる人たちの証言を織り込み、客観的にまとめ上げている。
寂しいが、手に取るように納得することが出来た。