あらすじ
イスラエル国家の暴力性には,いかなる歴史的背景や国内要因が横たわっているのか.統合と分裂のはざまに揺れ動く多文化社会は,これからどこへ向かうのか.シオニズムの論理,建国へと至る力学,アラブ諸国との戦争,新しい移民の波,宗教勢力の伸張など,現代史の諸局面を考察.「ユダヤ国家」の光と影を見つめる.
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Posted by ブクログ
イスラエルのガザ侵攻より一年。この本を再読した。
この本の目的の一つとして著者は、
「パレスチナ人に対する戦争すらも「対テロ戦争」で正当化するシオニズムの核心部分を、内在的に理解しなければならないと思ったから」だと述べている。
しかし一つの列島に同一の民族として生きてきた日本人にはなかなか理解が難しいのかもしれない。ヨーロッパのユダヤ人には長く迫害されてきた歴史があり、それが「シオンの丘」にユダヤ民族国家を建設しようというシオニズムにつながっていったことを考えると、その強い防衛意識はあながち過ちだとは言い切れない。
イスラエル社会は大きく分けて三つの分裂があるという。一つ目は政教分離の原則にかかわる分裂。イスラエルは民主国家であるが、イスラエルをユダヤ教に基づく宗教国家にすべきであると考える「ユダヤ教原理主義」の人々との対立が顕在化している。二つ目はユダヤ人の出身地域からうまれる文化的差異に基づくエスニックレベルの対立である。一口にユダヤ人といってもヨーロッパからの移民だけではなく、イラク、エチオピア、モロッコからの移民もあり、それぞれの生活習慣も違う。ソ連崩壊以降は旧ソ連地域から100万人近いロシア系ユダヤ人が流入したが、その多くはヘブライ語も学ばず、ロシア文化と生活様式を維持している。そして最後にユダヤ市民とアラブ市民の民族的対立がある。イスラエル建国後もその地にとどまったアラブ人たちがいて、イスラエル総人口の約20%を占めるという。かれらはイスラエル国籍を持っており、公共サービスも受けることができるが、経済的・社会的格差がある。さらには今問題となっているガザ地区やヨルダン川西岸には多くのパレスチナ人がいる。
イスラエルは実に多様な文化が入り組んだ国家である。それを反映して政党数も非常に多く、その変遷も複雑であるが、大きく言えば上記に挙げた三極を争点として争っているといえる。そのため多くの場合一党で組閣をすることはできず、連立内閣となることが多い。
イスラエル社会は右傾化が進んでいるように見える。今のネタニヤフ内閣は右翼政党、宗教政党との連立内閣である。そこに来て2023年10月7日のハマースの奇襲が起こった。社会のバランスが一気に崩れてしまったかのようだ。
マスコミの報道は圧倒的にガザ地区のものが多く、イスラエル国内のものは少ない。まして普通のイスラエル市民を伝えるものはごくわずかだ。しかし、この人たちのことも理解し、対話をしなければ、この戦争は終わらないだろう。
Posted by ブクログ
イスラエルの存在は、ヘブライ語、ユダヤ教、ユダヤ人が鍵とのこと。
ユダヤ人といっても、
アシュケナジーム:ドイツ系ユダヤ人:イディッシュ語
スファラディーム:スペイン系ユダヤ人:ラディーノ語
ミズラヒーム:中東系ユダヤ人
など、いろいろだとのこと。
世界中にいる中国人とユダヤ人。中国人は、すぐに見分けがつくが、
ユダヤ人は各国での分岐が大きいような気もする。
中国人とユダヤ人に共通の特質である世界経済との関係の記述がないのはなぜだろう。
また、食料、音楽、習慣などの生活が見えないのはなぜだろう。
Posted by ブクログ
支配が続いたこと。その後も2大政党制にはならず、小党乱立・連立政で微妙なバランスを取っていること(これは日本では最近崩れたが)。そして、アシュケナジーム、ミズラヒーム、パレスチナ人という厳然たる階層と、超正統派ユダヤ教など様々な宗派が分立することで国民相互の分断が図られていることは、今日のわが国民の相互分断状況(例えばネット上で顕著な在日韓国朝鮮人、貧困層等への差別)に酷似する。
しかし考えてみればこれはグローバリゼーションに晒されるあらゆる国々に普遍的な現象なのかもしれない。ただ、それが一国内に収まりきらず、隣接するアラブ諸国や最大の支援国であるアメリカとの国際関係に密接にリンクしていることが、この国に特殊の困難さであろう。
Posted by ブクログ
もし大学時代にこの本を読んでいて、「イスラエルとパレスチナの対立の経緯と現状について書きなさい」なんて課題が出されたら、多分この本をまる写ししてたと思う(笑)それぐらい、イスラエル誕生からこの本が上梓された2009年までのイスラエル情勢を、きれいに纏めていると思います。
もう少し、ユダヤ教がイスラエルに与えている影響について深く触れられていても好いかなとも思ったけど、200ページちょいの新書でそこまで取り上げろというのは酷でしょう。
むしろ、テーマを物凄く狭く絞り、その中でしっかり掘り下げて一つの書籍を組み立てられる、岩波新書に感謝すべきかも。やはり、この手の本になると岩波は強いと感じます。
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
イスラエルはいま、「ユダヤ国家」という理念と多文化化・多民族化する現実とのはざまで切り裂かれ、国家像をめぐって分裂状態にある。
なぜそうした苦悩を抱え込んだのか。
シオニズムの論理、建国に至る力学、アラブ諸国との戦争、新しい移民の波、宗教勢力の伸張、和平の試みと破綻など、現代史の諸局面をたどり、イスラエルの光と影を描く。
[ 目次 ]
第1章 統合と分裂のイスラエル社会
第2章 シオニズムの遺産
第3章 ユダヤ国家の誕生
第4章 建国の光と影
第5章 占領と変容
第6章 和平への道
第7章 テロと和平のはざまで
終章 イスラエルはどこに向かうのか
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