【感想・ネタバレ】歩山録のレビュー

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匿名

ネタバレ

自意識に殺される

生きづらさを抱えるすべての人に読んでほしい。 この小説は「自意識」に翻弄され、人生を遭難する現代人への警鐘でもある。 幼少期から「見られること」を強く意識し、周囲の視線への最適解だけを求めて生き続けてきた主人公山田の病巣は、SNSにより他人の視線がより顕在化された現代人にとっても他人事ではない。 しかしこの小説がより不幸なのは、山田がその最適解を出し続けた成功体験こそが、山田の視界を曇らせたこと。「聡明な」山田は、都市を『思考停止』と位置づけ、我こそが現代人に一石を投じるとばかりに、都市の対比としての「山」に向かう。しかし、一石を投じる動機は愛や平和のためなどでは決してないのだ。他人から「一目置かれる」自分を演出するため、もしくは一段高い場所から他人を見下ろすという承認欲求を満たすために山に入る山田。その行動こそ「自意識の奴隷」に他ならず、山田自身もまた自意識下の『思考停止』にあることを山田本人は気づいていないという皮肉。 そんな山田を待ち受けるものとは。果たして山田は目を覚ますことができるのか。 視線の呪縛から逃れて生きることができない今だからこそ、必読の小説だと思った。 またこの小説を通して、生きる上での「役割」に対する問題提起もなされているように感じるが、一貫したテーマである「自意識」から解放された時に、「役割」の答えが見えてくるように思う。 哲学的な内容を、SF要素も込めて表現された独特な小説。次回作にも期待したい。

#ドキドキハラハラ #深い #ダーク

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2023年11月21日

Posted by ブクログ

素晴らしい小説は、そんじょそこらのビジネス書はもちろん、哲学書すら凌駕する「気づき」をくれるもの。
その意味で、この本は(そもそも小説なのか?という気すらするが)とことん素晴らしい。

主人公は、身体と知性と屁理屈をもって、とことん、ホントにとことん考え抜く。一方で、結論は保留する。正解はコッチだと決めつけることなく、疑問符を抱きかかえたまま、主人公は歩く、歩き続ける。
登山の話のはずなんだけど、気づけば家族との暮らしや、仕事のこと、人生のことに想いを馳せる導線を、勘弁してくれ!っていうぐらい、引かれてしまう。

他にも色々言いたい魅力はあるけど、紙幅が足りない。例えば途中、「道とは何か」を問いかける箇所は社会学やジャーナリズムをゆさぶる力を持っていた。

登山の魅力のひとつは、とにもかくにも、歩き続けることで、身も心も変わっていくこと。その意味で、本書は登山の魅力の暴露本でもある。

きっと、作者は、山田であり、少年であり、博士であり、熊でありゴリラであったのだろうなと思う。
最後の最後、数日前のニュースが小説内に登場することにびっくりさせられる。この小説は、小説というパッケージに閉じていない。原稿を入稿して、刷りだすその直前まで、きっとこの本の物語は現実世界のドキュメンタルと接続されていた。そんなこともあってか、読後感は、今現在の自分に降り掛かってくる。

良い意味で、帯文には騙された。奇々怪々な謎めいた話の詰め物を食らうもんだと構えて読んだが、一度世界に入り込むとそこには、スーパーサイケデリックというよりも、スーパーヒューマニックな景色が広がっとった。

色々言ってしまったけど、とにかく素晴らしかった。
たっぷり生きよう。たっぷり感じよう。そう思いましたのです。

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2023年11月14日

Posted by ブクログ

ネタバレ

前半、主人公である山田の理屈っぽい部分や、他人を少し見下している感じが好きになれなくて、あまり入り込めずにいたけど、「少年」との出会いや貫太とのエピソードには山田の人間的な魅力が溢れていて、後半を読み進めているときにはもうとにかく山田と少年が無事に下山できることを願いながら読んでいた。

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2024年05月05日

Posted by ブクログ

何だこれは。
読み始めは知識先行型の初心者が縦走にチャレンジする話かと思いきや、途中からはもはや幻想小説。怪しげな登場人物が出てたり熊が出てきたりと、幻なのか現実なのかが不明確。
最終的にはホラー小説のオチ。
もっと山の話だと思っていたので予想外ではあったが楽しく読めた。

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2024年02月22日

Posted by ブクログ

元テレビ東京の名物社員な著者の小説デビュー作。登山サバイバル活劇ということで代表作『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の系譜かと思いきや、早々にテイストがガラッと変わって読者の足場がグラグラしてくる不条理劇。怪作『空気階段の料理天国』も感じもある。時にグロテスクですらある表現で生命を描写し、それと対比される形で死の香りも強く漂う。山という大自然を舞台にしながら「役割」を通した批評眼も面白い。

※私は父をまさに山での遭難事故で亡くしているのですが、似た経験をお持ちの方には辛い描写があるかもしれません。

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2023年12月03日

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