【感想・ネタバレ】共に明るいのレビュー

あらすじ

\『この世の喜びよ』で芥川賞受賞、待望の受賞後第一作!/

その瞬間、語られないものたちがあふれ出す。

早朝のバス、公園の端の野鳥園、つきあってまもない恋人の家、島への修学旅行、バイト先の工場の作業部屋――。
誰もが抱える痛みや不満、不安、葛藤。
目に見えない心の内に触れたとき、「他人」という存在が、つながりたい「他者」に変容する。
待望の芥川受賞後第一作、心ふるわす傑作小説集。


「共に明るい」
早朝のバス、女は過去を語り出す。

「野鳥園」
産後の母親と少年が過ごす、仮初のひととき。

「素晴らしく幸福で豊かな」
出会って一ヵ月、恋人と過ごす不安定な日常。

「風雨」
台風で足止めをくらった修学旅行生たちの三日間。

「池の中の」
電池の検品バイトでの会話、起こる揺れ。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

これまでの2作より更に詩的に。
情景の切り取り方、リズム、グルーブは詩。
この文体はクセになる。

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2024年01月15日

Posted by ブクログ

あるものの行動を、章を区切るでもなく、ごく自然に、すぅっと視点を移動させていくのが面白い。ひとつの物事を共有してる人が複数人いて、人と人は繋がってないわけではないんだということをすとんと心に落としてくれる。周りの人全員が生きているんだということを分からせてくれる。

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2024年11月27日

Posted by ブクログ

簡単に読み進めることはできないし、著者が表現したかったことを読み取れた自信はない。
でも、文章のリズム感や生み出されるグルーヴにはノリノリに乗れた。
それだけでも読んだかいがあった。
著者は詩を書かれんですね、なるほど。

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2024年10月16日

Posted by ブクログ

さて、いきなりですが次の文章を読んでください。

 『誰かは車を運転している時、自転車が当たってきたことがある』

いかがでしょう?『誰かは車を運転している時』という表現自体に微妙に引っかかりを感じます。そもそも、『誰かは』『自転車が当たってきたことがある』と続けて読むと全くもって意味不明です。では、もうひとつ、この文章はどうでしょうか?

 『外側で、どういう風を受けていたんだろうと誰かは思う』

再びですが、いかがでしょう?『誰かは思う』という末尾の言葉にその前にある言葉が接続していないのではないか?そんな違和感を感じます。一体全体『誰か』という言葉を使うこの不思議な文章はなんなのでしょうか?

さてここに、そんな『誰か』という言葉が文章を繋いでいく作品があります。芥川賞受賞後第一作として送り出されたこの作品。そこに井戸川射子さんの不思議世界を見るこの作品。そしてそれは、”その瞬間、語られないものたちがあふれ出す”という本の帯の感覚世界を見る物語です。

『車庫センターから始発で出発し、新神戸駅の停留所で停車してからは長いトンネルが続く』というバスに乗って『小学校の遠足のバスみたい、補助席もついて』と思ったのは『初めて乗った誰か』。『新神戸駅の停留所は乗車専用だが、誰も乗ってはこなかった』という状況に、『朝早く、新幹線から降りてこんな山の何もない方へ行く人もいないのか』と『誰か』は思います。そんな時、『長いトンネルはできるだけ早く、地震が起こらないうちに抜けてほしい』と『バスにいる全員に向けたような』声が聞こえます。『中央の通路に立って話している』のは、『前から三列目に座っていた女』でした。そんな『女』に『走行中立つのね、やめてください』と運転手がマイクで注意』すると、『もとの席に座った』『女』は、『唾が気管にでも入ったのか、強』く咳込みます。『トンネルは確かに怖い、分からなくもない』と、『阪神・淡路大震災を思い出し、小さく頷く』『誰か』。そんな中、『このバスって、終点近くの教師用の県立の、研修所があるみたいで、研修がある日だと、一年目の、教師になりたての人たちでいっぱいになるんです、座れない人がいるくらい…』と、『調子を摑んだのか、座ったままで、通路に顔を出し後ろを向いて』話す『女』。そんな『女の座席の近くから、唾飛ぶやろ、こんなところで、と注意の声が聞こえ』ます。『でも、マスク二重にしてるんです。バス停もまだだし、窓から飛び降りるわけにもいかないですもん』と言う『女』は『それでも一応自分の手のひらで覆い三重目を作』ります。やがて、バスが『無事にトンネルを抜ける』と、『注意した人は諦めたように席を立ち、遠くの方に移動』しました。そして、『道は混んでいて、バスはたびたび止ま』るという中に、『さっきの位置で立ち、走り始めれば着席』するということを繰り返す『女』は、やがて『立ち上がったまま』、『息子が保育園に行き始めた時、そうね、秋ね。夏休みの工作展が、その近くの小学校であって、私今からつらい話をしますね…』とまた話し始めます。『私が職場でお弁当を食べてたら電話があって保育園の先生が、息子さんの手の指が欠けましたって…』、『急いで病院に向かって、もう縫い合わせてもらった後だったけど…』、『片手の長い指三本、爪の半分辺りから。糸とかも、その時は見えていて…』と続ける『女』。しかし、それは『対話を求めてくるわけでもなさそうで、それには何人かが安心』します。そして、その後も『空間を埋めるものは声しかないというように』、『話し続ける』『女』が違和感を醸し出すバス車内の様子がある意味で淡々と描かれていきます…という表題作でもある短編〈共に明るい〉。閉鎖空間故の息苦しさの中にピンと張り詰めた緊張感、それでいて不思議感漂う作品でした。

“早朝のバス、公園の端の野鳥園、つきあってまもない恋人の家、島への修学旅行、バイト先の工場の作業部屋。誰もが抱える痛みや不満、不安、葛藤。目に見えない心の内に触れたとき、「他人」という存在が、つながりたい「他者」に変容する。待望の芥川賞受賞後第一作、心ふるわす傑作小説集”と内容紹介にうたわれるこの作品。2022年に「この世の喜びよ」で第168回芥川賞を受賞された井戸川射子さんが、三作目として発表された短編集となっています。現時点で井戸川さんの小説はこの作品で三冊が刊行されており、私はその全てを読み、コンプリートしたことになるのですが、とにかく難解という印象があります。女性作家さんの小説限定の読書を続けている私ですが、芥川賞作家のみなさんの作品も当然読んできており、その中には理解が難しい作品もありますが、井戸川さんは群を抜いているという印象があります。捉え所がない…という言い方が正しいかもしれません。読んでいてそんな風に感じる以上、それをレビューすることはさらにハードルが高くなります。いずれもページ数の少ない作品ばかりですが、読むことに、そしてレビューすることに苦戦させられる作家さんではあります。とは言え、めげていてはいけません。レビューを進めましょう。

まずは、芥川賞作家さんならではの表現の面白さから見ていきましょう。巧みな比喩表現が顔を出します。

 『体内に虫がいたことに今気づいたかのような驚きが、蒸気のようにバスの中に現れた』。

これは、上記で冒頭をご紹介した〈共に明るい〉の中からの一節です。静かなバスの車内でいきなり語り出した『女』に対する驚きをこのように表現しています。『体内に虫がいた』というような感覚が分かる方は今の世には少ないと思いますが、それを『蒸気のように』という言葉に繋げていく感覚が面白いです。

 『… 壁にもたれて立つ木、影絵のように壁に貼りつく木を眺める。風が背の高い草をなびかす、それで草が競って震える』。

最後の短編〈池の中に〉の中に登場するのが、木と草を擬人化したこの表現です。さりげない一文ですがどこか味のある表現にも感じます。そして、最後は面白い視点からの一節です。

 『公園の大きな、大人一人でも抱えきれないような文字盤の時計を眺める。大きい時計は、秒針が進むのが速い』。

『大きい時計は、秒針が進むのが速い』、これってそう思いませんか?時間の進み方は時計のサイズに関わらず同じですが、この感覚とても分かるように思います。

では、次に五つの短編からなるこの作品の中から三つをご紹介したいと思います。

 ・〈野鳥園〉: 『外の光で本を読むのってあんまり、良くないんじゃないかな』と『隣のベンチから声が投げかけられ』て驚くのは主人公の『私』。そんな声の主と会話を始めた『私』は、『池の泳いでいる、あれはきっと鴨だね』と言う言葉に『野鳥園』を見ます。『よく来るの?ここに』と訊く『私』に、『初めて来たの、赤ちゃん産んで疲れちゃって…』と返された言葉の『赤ちゃんを産んで疲れる、というのがあまり聞いたことのない話だったので、曖昧に頷』く『私』。そんな会話が淡々と続いていきます。

 ・〈素晴らしく幸福で豊かな〉: 『棚に飾られたペアの人形が満足しているような顔でいて』『真似して笑ってみる』のは主人公の『私』。『出会って一ヵ月でようやく来られて嬉しい』と、初めて訪れた軌志(きし)の家で改めて思う『私』は、一方で『毎日チェックしているけど軌志はまだ退会してくれていない』という『マッチングアプリ』を開きます。『保育士してます!旅行とレオパ大好き』と書かれた『自己紹介文』の横に『レオパを肩にのせた軌志の写真』を見て『見張っていなければならない』と思う『私』…。

 ・〈風雨〉: 『バスがもう走れないらしい』、『風が強まるからって』という『教師からの伝言』を『それぞれの部屋の室長に』伝えるのは、『班長』。『いけるだろ船じゃないんだから』、『やっぱ海なしか!』、とさまざまな声が飛びます。『コロナ禍のため、何度にもわたる日の延び』の末に『二年生の五月』と決まった修学旅行の後を『ゆっくりと、追いかけていくように進むはずだった、どんなに逸れても、予報では逃げ切れるはずだった』という『台風』。そんな状況下での三日間が描かれていきます。

三つの短編をご紹介しましたが、他の二編含めて五つの短編は全て文芸雑誌「群像」に掲載されたものとなります。そして、上記もした通り、なかなかに難解な物語として展開していくのが特徴です。状況がわからないということもないのですが、何を伝えられたいのかが見えづらく、結果としてどこに注目して読んだらいいのかが分からない中にページを捲っていかなければならない辛さが付き纏います。そんな中に『コロナ禍』を舞台にした作品が登場します。この二編について少し触れておきたいと思います。一つ目は表題作〈共に明るい〉です。バスの車内の状況を切り取った作品ですが、会話すること自体にリスクがあると思われていた『コロナ禍』初期の状況が描かれます。『でも、マスク二重にしてるんです』と訴える『女』が登場する作品で注目したいのは、『コロナ禍』ではなく、『誰か』という表現です。井戸川さんは芥川賞を受賞された「この世の喜びを」で”あなた”という表現を多様することで独特な世界観の物語を築き上げられました。そして、この作品では『誰か』という言い回しが同様な位置付けで登場します。16ヶ所に登場する『誰か』という表現は、どこか違和感が付き纏います。

 ・『新幹線から降りてこんな山の何もない方へ行く人もいないのか、と誰かは思った』

 ・『進行方向右側には建物全体でケーキを模したケーキ屋があり、バカみたい、と誰か思った』

これは私たちが会話の中で一般的に使う”誰かしら?”というような意味合いではなく、『誰か』という言葉で特定の人を指していることがわかります。”あなた”同様、『誰か』という言葉の響きを味わう短編だと思いました。そして、もう一つは〈風雨〉です。これは、『コロナ禍のため、何度にもわたる日の延び』の末に『二年生の五月』と決まった『修学旅行』の様子が描かれていきます。改めて言うまでもなく、『コロナ禍』によって『修学旅行』自体が見送られたという方もたくさんいらっしゃると思いますが、この短編の生徒たちは、幸いにも『修学旅行』自体には赴くことができています。『天主堂』、『鯛ノ浦』、『カステラ』と並ぶ先の長崎への『修学旅行』に赴いた生徒たち。しかし、『どんなに逸れても、予報では逃げ切れるはずだった』という『台風』の影響によって計画が総崩れになっていく様が描かれていきます。『室内でできる全てのつまらないことをさせられる可能性があるな』と、展開していく物語は、五つの短編の中で唯一といって良いくらいに状況がわかりやすく綴られていきます。『コロナ禍』の中の『修学旅行』というレアなシーンを描いた作品としてもとても貴重であり、なかなかに楽しませていただきました。

 『座席は通路を挟み二列ずつ、路線バスっぽくない、小学校の遠足のバスみたい、補助席もついてと初めて乗った誰かが思った』。

『誰か』という視点でバス車内の様子を描写していく表題作〈共に明るい〉を含めた五つの短編が収録されたこの作品。そこには、芥川賞受賞後第一作となる今の井戸川さんの作風を見ることができました。さりげない一節の中に芥川賞作家さんらしい表現を見るこの作品。一見、平易に見せつつも全体として難解さを併せ持つこの作品。

まだまだ読書歴が浅いことを実感させられた、間違いなく難解!と思えた、そんな作品でした。

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2024年06月26日

Posted by ブクログ

どれも長い詩みたいだった。
頭の中を全部書き出していくような。
文章に呼吸を合わせていくと、ほの明るい静かな気持ちになる。

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2024年03月07日

Posted by ブクログ

短編になるとなおさら一文がミニマムに。句読点で視点の切り替えだけでなく話者の切り替えまでおこなってしまう。気付けばずぶずぶと、この文体に飲み込まれる。

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2024年02月29日

Posted by ブクログ

独特の文体に
ワンフレーズ読んでは立ち止まり読み直した。視点がコロコロ変わる。
でもその描く世界が癖になった。

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2024年02月18日

Posted by ブクログ

短編集5篇
新神戸駅からのバスの中の風景の「共に明るい」、レオパを飼育する新しくできた彼氏との日々を描いた「素晴らしく幸福で豊かな」が良かった。人との距離感、関係性に独特の感性を持つ作者の表現が面白い

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2024年01月18日

Posted by ブクログ

芥川賞作家で詩人でもあるらしい。
読点の位置が、フツーの感覚とはずれていて、倒置法とか連帯どめとかが多用されてて、慣れるまで、ことごとくつっかえる感じ。
内容は、あまり残ってない。「素晴らしく幸福で豊かな」が中では1番面白かった。

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2023年12月10日

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