あらすじ
シリコンバレーバンクの経営破綻を象徴とする金融市場の混乱。その鍵をにぎるFRBの金融政策はどのように決まり、どのように市場に影響を及ぼしたか。歴史的な転換点にあるFRBの政策決定の舞台裏を、現地記者ならではの生の声を通してドラマチックにえがく。
40年ぶりの高インフレに苦闘したFRB。当初の「インフレは一時的」との読みは外れ、大インフレは長期間にわたり続いている。一転して行われた急激な利上げは、銀行の破綻という副作用を伴った。
政策金利の影響が経済にあらわれるまでには時間がかかる。FRBの利上げの判断がこれほど後手に回ったのはなぜなのか。著者はその本質的な答えを、FRB議長パウエルのリーダーとしての資質にみた。
公的な組織のトップは、現代においては説明責任を果たすことが一段と重視される。パウエルはそうした、カリスマなき時代の申し子と言える。本書では、多方面に配慮しようとするパウエルの人柄から、政治的・社会的な影響要因、豊富なインタビューからみえる舞台裏までを、現地記者の視点から解説する。
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Posted by ブクログ
FRBは、1913年に制定された「連邦準備法」に基づく独立性の強い準公的機関で、12の地区連邦準備銀行(民間)と、ワシントンD.C.のFRB理事会で構成される。地区銀行の株主は加盟民間銀行であり、形式的には「民間の所有」だが、政策決定は公的な理事会が主導し、利益追求より公共性が優先される構造。日本銀行みたいなものだ。
この民間銀行による理事会の構成と戦時国債のドイツ等への発行により、ウォール街と共に金儲けのために戦争を起こし得る装置のように誤解?されがちだが、目的は基軸通貨であるドルを安定させ、アメリカ国内の利益に資する事。
で、本書が告発するように、その失策も批判可能な組織として、ある程度のモラルハザードは回避している。全く無いとは言わないが。
FRBが金利を上げるとドル高・円安になりやすく、円安は輸入物価を押し上げ、日本のCPI(物価上昇率)に間接的な影響を与える。今の日本の状況を紐解くためにも、FRBの失策を改めて見ておこうというのが本書の動機。
一言、「遅れた利上げ」とある。で、取り戻せとばかりの急激な利上げだ。
ー FRBの利上げは世界的な金利上昇によって途上国の利払い費を重くし、さらにドル高もドル建て債務の膨張を通じて財政を圧迫する要因になった。途上国にとって急ピッチのドル高は、自国通貨の暴落も意味した。食糧などの輸入価格が上昇し、国内のインフレが加速する要因にもなる。通貨を防衛するためには、自分たちも利上げを実施するしかない。世銀が38カ国の金融政策を集計したところ、利上げ回数は22年5~7月に月平均で22回と、これまで最大だったリーマン危機前の14回を上回って少なくとも70年以降の記録を更新した。国際通貨基金(IMF)の集計では7月までに世界全体の4分の3にあたる75行が利上げに踏み切った。利上げは、コロナ禍から回復する途上の経済に逆風を吹き付けることになる。世界各地の途上国が、株価の下落、債券の価格下落(金利上昇)、通貨安という「トリプル安」に見舞われた。新興国からすれば、長期的な低金利時代を生み出したのはリーマン危機後に先進国が打ち出した金融緩和である。
余談だが、パウエルはグレイトフル・デッドのファンだって。そのギャップでチヤホヤされたみたいだけど…。
Posted by ブクログ
エコノミストでないJパウエルが中央銀行FRB議長に就任してから6年経つが、コロナ禍の金融緩和からコロナ後の高インフレに転換後のSVBの破綻と言った地銀の連鎖破綻をめぐる政治状況が描かれる。
第5章でFRBのインフレの持続性の見通しが甘かったとの批判(自己批判も含め)から、対応が後手に回った様子と前議長のイエレン財務長官がFRBの失策よりもトランプ政権下の金融緩和と規制緩和が原因であるとすり替えるロジックに政治的駆け引きの妙を感じた。
第6章で初のエコノミストの日銀総裁が選出されたことと13年に及ぶ異次元の金融緩和の処理が途方もないことを予感させる。
また米議会予算局のような法案毎に経済成長率や財政に与える影響を細かく試算する機関が必要との指摘はその通りだ。
事後的な会計検査院では政治的な影響が弱すぎる。