あらすじ
1940年、太平洋戦争勃発直前の南洋サイパン。日本と各国が水面下でぶつかり合う地に、横浜で英語教師をしていた麻田健吾が降り立つ。表向きは、南洋庁サイパン支庁庶務係として。だが彼は日本海軍のスパイという密命を帯びていた。日本による南洋群島の支配は1914年にさかのぼるが、海軍の唱える南進論が「国策の基準」として日本の外交方針となったのは1936年だった。その後、一般国民の間でも南進論が浸透していった。この地にはあらゆる種類のスパイが跋扈し、日本と他国との開戦に備え、海軍の前線基地となるサイパンで情報収集に励んでいた。麻田は、沖縄から移住してきた漁師が自殺した真相を探ることをきっかけに、南洋群島の闇に踏み込んでいく……。時代が大きなうねりを見せる中、個人はどこまで自分の考えを持つことができるのか? そして、どこまで自らの意思を通すことができるのか? 南洋の地を舞台にした壮大な物語がここに――。
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Posted by ブクログ
喘息を持病に持つ麻田がサイパンに渡り、海軍のスパイとして働く。彼は最後まで死を美化することなく、生きようとする。名誉の戦死、自決の美学を否定する。最終章…ひょっとして生き延びたのでは?という希望も…彼はアメリカ軍によって銃殺されていた。その事を告げに来た、ローザ・セイルズの父、フィリップ経由で手に入れた機密文書が見つかったことが原因。麻田はその事実をローザには告げていない、そういう人であった。読み応え、余韻ともになかなかの良作。性格も方法論も全く違うけど、「ライフイズビューティフルを思い出した。
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プロローグ
灼熱のアスファルトから立ち昇る蜃気楼は、
自身の影をゆらゆらと揺らしている
太陽からは容赦無く熱波が放射され、
己からは汗が吹き出している
纏わりつく湿気も実に不快だ
我が国はいつから亜熱帯気候になってしまったのか
80余年前の彼の地、サイパンも
昨今の日本のように灼熱だったに違いない
本章
『楽園の犬』★5 mariさんの本棚から
主に第二次世界大戦前夜のスパイ小説で
まことに稀有なサイパンが舞台だ!
スパイにならざるおえなかった主人公、麻田
その雇い主である海軍の堂本
2人の人生が、大戦前後の動乱によって
大きく変化していく様を克明に描いた
感動のスパイ小説である
作中に登場する、南洋桜という真っ赤な花を咲かせる木にも注目だ
その南洋桜の下で、自決した堂本は日本の未来に
何を憂いたのだろうか
是非、皆にも読んでほしい作品である
エピローグ
戦前80年という節目と8月ということで
本書を手に取った
戦前、サイパンが日本の半統治下であったという
事実は、恥ずかしながら知らなかった
アメリカとの綱引きの中で繰り広げられた
両国のスパイ合戦
日本の陸軍、海軍の各スパイの暗躍
サイパンの風土
読みどころ満載の本作であった
暑さが和らいだ黄昏時
窓を開けると、鈴虫の鳴き声が耳朶を打った
久しぶりに聴いたような気がする
サイパンで咲き乱れる、あの南洋桜の木の下でも、
同じように、鈴虫は鳴くのだろうか?
我が未到の地サイパンに哀愁と鎮魂の
思いを馳せた!
完
Posted by ブクログ
1940年、太平洋戦争勃発直前のサイパンの地に降り立った元女学校英語教師の麻田健吾。表向きは南洋庁サイパン支庁庶務係としての赴任だが、その実態は日本海軍のスパイという任務を帯びていた。
島内を跋扈するあらゆる種類のスパイたち。海軍vs陸軍、アメリカ人vs島民、内地vs沖縄、あらゆる対立構造が生み出す緊張感。
ごく普通の教師だった麻田が飲み込まれていく闇が深すぎる。それでも真っ当な感覚を最後まで持ち続けた彼の姿がどこまでも爽やかで印象的。
日米開戦を回避するべく奔走した堂本海軍少佐と、思いを同じくする麻田の間にある信頼関係。戦争中、非国民の誹りを受けながら、なんとしても生き抜く努力をすることの尊さを繰り返し説く麻田の生き様。
「死はすべて死でしかない。美しい死など存在しない」繰り返されるこの言葉が深く胸を打つ。
武士の時代の切腹に始まり、「生きて虜囚の辱めを受けず」の精神など、日本人は自ら命を断つことを潔しと美化しすぎていはいないか。
大勢に流されず、真っ当な思いを保ち続けることの難しさを思い、先の戦争にまつわる映画や本を目にする機会の多い夏だからこそ、深く心に沁みる物語となりました。
Posted by ブクログ
岩井圭也さん「楽園の犬」
著者の作品は「汽水域」以来5作品目。
80年前の終戦に合わせて結構前からこの「楽園の犬」を本年の8月の一冊にしようと決めていた。
まず表紙。「鳳凰木」という樹木、全く知らなかったのだがサイパンでは「南洋桜」というらしい。
現在もだが、日本人にとって戦中は特に「桜」とはある意味で生と死を象徴する樹木であり、満開に咲いて散っていくその儚さを表象しているようと思慕し偲んできた。
この表紙の満開の真っ赤な桜に当時サイパンにいた日本人はきっと色んな想いを馳せたに違いない。
祖国を想い、家族を想い…
この桜には先人の御霊が宿っている様に感じられる。
自分は20年位前に一度サイパンに観光で行ったことがある。多くの日本人が身を投げたとされる通称「バンザイクリフ」にも足を運び鎮魂の意を込め両手を合わせてきた。
せりだされた崖に激しく波がぶつかり、そこに万歳と連呼しながら飛び込んでいった先人達を想像すると居たたまれなくなったし、二度とそういった状況を作ってはいけないと深く考えさせられる場所だった。
この作品、太平洋戦争開戦直前のそのサイパンが舞台。物語はタイトルの通り、主人公の麻田が堂本という海軍少佐のめいを受け諜報活動をしていくという物語。
ミステリー風に描かれており、関わってくる人物が米国のスパイなのか?陸軍のスパイなのか?そもそも上官の堂本は何者なのか?物語の進行と共にそれらがクリアになっていく。
なんといってもこの物語は最後が壮絶。
終章が素晴らしかった。苦しさの中だからこそより見える喜びや希望が読み取れる。その愛が時間を超えて父から子への教訓の様にも感じられた。
生の重み、だからこそ死の否定。
最後良一にローザから渡された父からの最期の一通の手紙。
冬でも咲く「南洋桜」の根本に何年も埋められていたその手紙。
良一が生きていてくれたからこそ時を超えて届いたその手紙。
父の魂が手紙を通じて良一を抱きしめているように感じられた。
頑張って生きろよって良一を抱きしめながら息子の背中を笑いながら涙ながら擦っている父の姿が想像できた。
とんでもなく素晴らしかった。
戦後80年、長いような短いような時間だが、自分も含め今現在の日本人の多くは戦争を体験していない。
戦争がないから平和なのかと問われれば違うと思うが、戦争があれば根本的に平和とは思わないだろう。
平和という言葉と思想のギャップはさておき、ただただ先人達が命をかけて日本という国を守り、日本人という民族を繋いでくれたのは確かだ。
それを誇りに自分は日々を暮らしているという喜びを噛み締めながら、その先人達の報いを決して踏みにじることだけは絶対にしないし、したくない。そしてその魂を自分も次の世代へと繋いでいきたいし、そうしなければならないと思っている。
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舞台は太平洋戦争も秒読みとされた時代のサイパン。生きるために海軍の犬(スパイ)として動くことになる主人公の麻田。日本では英語教師として働いていた彼は、アメリカの情勢にもある程度詳しく、日米は開戦してはいけないと考えている。
喘息持ちで体が弱く、日本に残してきた妻と一人息子のために、なんとしても生きて祖国の地を踏むことだけを目的とし、そのために任務を全うしようとする麻田。
言ってみれば戦時中は『生きることへの執着』は醜いとされた時代です。作戦の責任をとって自決することが賞賛され、捕虜となることは恥とされ、捕まるぐらいなら民間人でも崖から飛び降りることを率先して選ぶ、そんな世の流れです。
人間も生き物です。生きている限り『生きたい』と思う気持ちは当たり前のことなのに、それが許されない時代です。
麻田の雇い主である堂本も、非戦のために諜報部隊を使っていました。開戦すれば遅かれ早かれ負けることは予測がついていたから、自分の役割を『戦争を避けること』と位置付け、自分の立場で出来ることに必死だったと思います。
開戦を望まないのは麻田も堂本も同じでした。
ただ、堂本は軍人だった。
物語の冒頭で、すでに堂本の中で自分の作戦が失敗した時の責任の取り方は決まっていたように描かれています。
度重なる失望、最後はそれが自分へ向けられたのかも知れません。
自決という最後を選んだ堂本に関して、麻田が抱いたのは怒りの感情でした。
これが、より一層麻田の中の『生きて帰る』という想いを強くし、戦況が激化する中でも信念を崩すことなく、最後の最後まで希望を捨てなかった原動力になっていたように思います。
生きることはきれいごとではないけど、生から逃げて選ぶ死もまた、きれいごとではないのだと、そう思いました。
Posted by ブクログ
戦時下、麻田は喘息の持病を抱え、単身サイパンへ。スパイ活動を余儀なくされるのだが…重厚、且つ鋭い機微を活写する筆勢は圧巻。世界で戦争が勃発している今こそ、読んでほしい一冊。戦争を戒め、反戦を促す良書だ。
Posted by ブクログ
第二次世界大戦開戦前のサイパンか舞台。
世の中の大きな流れの中で、自分の価値観を貫くことができるか。何が正しいか、自分で決めることができるだろうか。
問題提起される作品でした。
横浜で英語教師をしていた麻田健吾。持病の喘息のため東大卒でありながら職に苦労した彼は、喘息の悪化で教職さえもできなくなる。これでは家族を養えない、と彼はサイパン南洋庁の仕事を引き受ける。
南洋庁に赴任した彼の真の仕事は、海軍、堂本頼三少佐のもとでのスパイ活動。
いくら頭がいいとはいえ、普通の教師だった人にスパイなんてできるの?という心配をよそに、麻田は苦労しながらも見事にスパイの仕事を遂行していきます。
赴任したての麻田に堂本少佐が尋ねました。
「君は米英と開戦すべきだと思うか?」
日本が戦争に突き進んでいたときでも、戦争をすべきではないと考えていた人もいたはずです。だけど止められなかった。
サイパンでのスパイ活動をへて麻田は「米英と開戦すべきではない」という結論に達します。また、日本が助かるためには即時撤退しかないと。それを聞いた堂本少佐「それを、誰が決断する?」と。
そう!誰も決められなかった。世の中の流れが大きくなると、誰もそれに逆らえなくなる。
堂本少佐が死を選んだのがなんとも残念でした。一方で麻田が「死は、死でしかない」と、死ぬことが美徳とされた当時の価値観に抗ったことに、覚悟を感じました。麻田には生きていて欲しかった。
世の中の大きな流れの中で、自分の価値観を貫くことができるか。何が正しいか、自分で決めることができるだろうか。
問題提起される作品でした。
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とても読みごたえのある本だった
"生きる"、"自分の意思ん持つ"事が難しい時代だったと思う
私がこの時代にいたらどうなっていただろう
ただ流されるまま人に言われた通りだっただろうなと思う
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面白かった。戦時中のスパイものだけれど、体の弱いインテリがスパイっていうのも珍しく楽しめた。
最近、読みたいものを読む読書を控えていた。生活や人生における焦りで、何か身になる物を読まなければと、読みたい本ではなく読んだ方がいいだろう本を続けて読んでいた。社会問題、地政学、教育の本など…すると、気分はより沈み、どんどん闇が深くなってしまっていた。
久しぶりに読みたい物を読もうと手に取ったこの本。本の世界に入り込めて、現実逃避にもなり、純粋に楽しめた。
金原ひとみさんがある番組で言っていた。「どこにも居場所がなかったけれど、本の中にだけは居場所がある気がした」と。まさにそんな感覚だった。
この本の面白さに救われた。
内容は重いけれど、お堅い難しい本を読むより、人としての心を少し取り戻せたように思う。
岩井圭也さん、色んなテーマで書いていてすごいと思う。
Posted by ブクログ
戦前のサイパンを舞台にした防諜系スパイもの。いわゆるスパイものとは雰囲気が違って、普通な感じのエリートがっていうのが面白い。岩井圭也、こういうのも書くんだ。それにしてもサイパン、気になる……。
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太平洋戦争勃発直前の南洋サイパンが舞台。
自分の苦手な戦争やスパイがテーマなのに今回も一気読みだった。
スパイといっても敵国の情報を取得するスパイではなくて、スパイを見つけるスパイ。
そこにミステリーと人間ドラマが入ってくるので、戦争ものでもエンタメ性があってとても読みやすい。
私のように決まったジャンルしか読めない人間にとっては、ジャンルの垣根を壊して読みやすくしてくれる岩井さんの作品は本当にありがたい。
スパイを見つけるスパイとして必死に生きる男の人生が描かれている。
そして行ったことのないサイパンなのに、今回も主人公の隣で一緒に観ているような感覚だった。
戦争がどのように始まって、戦争がいかに愚かで、どのように終わっていったのか、自分も主人公の隣で体験していた。
戦争の悲惨さを直球で伝えるのではなくて、視点を変えて、エンタメ性もあるので私でも読みやすく面白く読める。
でも読んだ後は、戦争を2度と繰り返してはいけないと、ずっしり重く心に残った。。。
これで岩井さん4作品目だけど全部面白い。
そして自分の興味を広げてくれる岩井さんに完全にハマりました。
Posted by ブクログ
第二次世界大戦中のサイパンで諜報活動に従事する1人の男の物語でした。前半は、推理小説のような展開でしたが、日米の開戦が近づくにつれて緊迫感が増してきました。最後まで生きることに執着した麻田はあの時代には異端の存在だったと思います。だからこそ、簡単に自決を選んだその他大勢の人達より比べものにならないくらいの勇気が必要だったはずです。「生き抜くことが何より美しい」というメッセージを頂いたような気がします。平和な現代でも自殺を選択してしまう人は一定数いるので…。あとは、「因果ヅラ」というセリフが印象的で、スパイという人を裏切る活動に従事していた麻田が、家族と生きて再会することは出来なかった結末は仕方なかったのかなと思いました。
Posted by ブクログ
太平洋戦争勃発直前のサイパンが舞台となる物語。
日本がアジアの国々を次々に統治していた時代だった。とぼんやりとした程度の知識しかなかった私には、本書は学びになることばかりでした。
サイパンの気候や人々の生活風景、統治する側とされる側の差別など。
物語の舞台も素晴らしいですが、堂本さん、原田さんの生き方や、彼らの信条から発せられるセリフはすごく格好良く共感させられます。
初めて読む作家さんでしたが、ぐいぐい引き込まれる感じの最高の読書体験ができました。ラストがまた素晴らしかった。
Posted by ブクログ
タイトルだけだとどんなミステリか分からなかったけれど、いざ読んでみたらとんでもない熱さとテーマが秘められた素晴らしい本だった。戦時中は特に敵前逃亡、ましてや生き残ることなど言語道断とされていたのに、主人公はただひたすら生きることを貫こうとする。島民と日本人、海軍、陸軍、アメリカ軍、様々な組織の関係を絡めた凄いミステリだった。ラストの手紙もぐっとくる内容だった。本当に読んで良かった。他の作品も読んでみたい。
Posted by ブクログ
ずっと読んでみたかった本。
図書で予約して半年程待ち、やっと回ってきた。
概略☆いま最も熱い著者の最高傑作!
世の中が戦争に突き進もうとするとき、人はどこまで自分でいられるだろうか。
感想☆なんとも戦争と聞くと、内容も重いのかと。犬はどこで出てくるのか。
太平洋戦争前。スパイ。職業元女学校英語教員。
海軍少佐のもとで、スパイ(犬)の役目として海洋庁庶務係としてサイパン諸島に送られる。
M:Iの映画のような。
何度となく、任務を遂行すること主人公。
人の命に関わる難事を解決する。
優しい心ある先生が、ここまでスパイ行為をする理由も家族のため、病気で療養する目的ではあった。
外国から来るスパイ摘発の仕事も、そう長くは続かなかった。
自分の雇い主もスパイ扱いされ、主人公も同様な罪を被せられ、逃亡劇もありましたが、最後は、本当に切なかった。家族との再会を果たせられず、ただただ、戦争が憎たらしい思いが残った。
本の表紙の大きな桜?の木も文面に出てきて、謎解きに大きな役割として登場。
最初から最後まで、気の置けないスリル感は大変面白かったです。
Posted by ブクログ
人物造形や内容が誠実だと感じました。
デキる男なのですが、家族想いで喘息持ちな所等親近感のある主人公。スパイとして動くほど、反戦派になっていく所がリアリティを感じる。
戦時化、サイパンの市民の生活なんて、想像もできなかったけれど、島民と日本人の関係等の描写も現実感がある。
終盤の自死を美とせず、何がなんでも生き抜くというテーマが貫かれていてよかった。
ローザさん好き。表紙の鳳凰木の赤がすごい訴えかけてくる。表紙も含めて良い。
そんなに話題作というわけではなかったように思うのですが、もっと読まれていいのでは!?
⭐︎4.5
Posted by ブクログ
「君は米英と開戦すべきだと思うか?」
横浜で英語教師をしていた麻田健吾は、持病の喘息で休職を余儀なくされていたが、友人の伝手で南洋群島のサイパンに赴任することに。温暖な気候の方が喘息症状は緩和するという話を信じて赴任を決意する麻田。そこでの任務は表向きは南洋庁の職員だが、実際は海軍在勤武官補•堂本頼三の“犬”として、情報を集めると同時に、島に潜むスパイを排除する防諜(スパイ)活動だった…
太平洋戦争の開戦前夜、南洋の楽園•サイパンを舞台に繰り広げられるスパイ小説×歴史ミステリ。グアム•サイパンと言えば(私は一度も行ったことないけど)、南の島のリゾート地のイメージが強かったが、その裏にはこんな歴史があったとは…
フィクションだとわかってはいるものの、南洋進軍に沸く当時の世相、ナショナリズム、陸海軍の距離感など実にリアリティを感じる。ところどころに挿入された作者視点の史実描写が、それを後押ししているのかも。
本書で繰り広げられる諜報と防諜のせめぎ合いは、謎解き要素もあるし、ひりつくような駆け引きもあって手に汗に握る。特に終盤の逃走劇は祈るようにして読み進めた。麻田の上司である堂本の、掴みどころのないミステリアスな雰囲気も魅力的だ。
表紙を飾るのは南洋桜とも呼ばれる鳳凰木。サイパンでは至る所で見られる木だというが、その燃えるような赤は神々しい。日本人として、言葉に表せない色んな想いが込み上がってきた。国力、死生観、家族への想い、読後じんわり考えさせられた。もし自分がこの時代に生きていたらどう行動していただろうか?当時国の舵取りをしていた上層部に、堂本少佐のような“先見の明”があったなら…因果ずら
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悲しすぎるんだが。
麻田は親の死も、ミヤの死も知らずに殺されてしまった。
普通の善人が、ただ時代に巻き込まれた。
生まれた時代のせいか。
堂本が普通の感覚だよな。アメリカに触れたら、この国とは戦争してはならないと思うよ。昔の軍人、一般国民は日本を過大評価しすぎいた。あー、良一とだけでも再会してほしかったな。
Posted by ブクログ
いままで読んできた戦争を題材にした小説は大抵読後に「戦争はよくない」と考えさせられるような、ある意味説教臭く重いものだったけど、この小説は登場人物の心象がリアルでやりとりのテンポもよく、たまたま時代背景が戦時中であったヒューマンドラマであるところがよかった。
いろんな立場の人にそれぞれの正義があって、そこから争いがおこるのはいつの時代どこでもそうなんだろうけど、それを戦禍の中で信じて貫こうとすることは命がけの覚悟が必要なんだろうなと考えたりした。
それでも生き続けようとすることの大事さを問いていたりするのに、その反面不条理なまでにあっさり命を落とす場面もあったり、これが戦争か…とも思ったり。
Posted by ブクログ
星5つ寄りの星4つ。
重苦しい時代、南洋の空気感が伝わってきた。著者の伝えたいことも。
こんな時代を経てきたということを、今の時代に生きる人たちは、数多の資料や証言、そしてこうした小説などで知っているというのに、戦争しないという道を、なぜ選ばないのか。
攻めなければ攻められる、という状況にならないために、できることを何でもしていかないといけない。
今の世界の流れからしても。
『黒牢城』を彷彿とさせる構成。
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「楽園の犬」(岩井圭也)を読んだ。
最後に泣かされたよ。
タイトル『楽園の犬』の持つ重みに震える。
これは見せかけの楽園に降りたった犬ではない何かの物語だな。
『ヒトの愚かさ』『戦争の悲惨さ』『立ち向かう勇気』こうして言葉にしてしまうとありきたりな響きのテーマなのだが、岩井圭也の圧倒的な筆力で紡がれる物語は読む者の魂を思いきり揺さぶるのである。
ひさびさに『読むべし!』レベル。
Posted by ブクログ
戦前の日本統治下のサイパン
そこにスパイとして派遣された麻田が
様々な苦労を重ねながら
事件を解決していく前半。
麻田は喘息持ちで体に不安を抱えながら
家族を養うために必死に手探りで
そして大勢に流されることなく
家族にも息子にも恥じないよう節度を持って
防諜業務を遂行する様は
本当に素晴らしいなと思う。
しかし事件自体が小さいものなので
なんとなく物足りない、解決してもスカッとしないので、ちと期待ハズレだったかと思ったが。
後半、いよいよ米国と開戦してから
怒涛の展開。
ハラハラの逃走、何がなんでも生き抜く決意
そして終章での息子への手紙。
帰りたくても帰れなかった人も
待っていたのに亡くなった人も
実際に数多くいたのでしょうね。
胸が痛くなりました。
麻田が言う通り最善策は
米国と戦わず撤退しかなかったのだなと思ってしまう。
江戸無血開城ができた民族なのに。
戦争が二度と起きませんように。
Posted by ブクログ
第13回うつのみや大賞
死の覚悟をもって南洋諸島で戦時下を生きた人達が描かれる。
今ならわかることだけど、その覚悟は自死として発揮されるべきではない。
どうして捕虜になって生きながらえることが悪徳なのか。
命さえあれば未来がつながるし、どんな形でも愛する人には生きていて欲しいのが人として当たり前だと思う。
当たり前の感覚が通じない時代に、軍人ではなくスパイとして人の死を見てきた麻田が辿り着く「死は死でしかない」という悲痛な叫びが胸を抉る。
途中、麻田がスパイとして事件を解決する短編集のようで短調に思えたけど、後半はスピード感がありローザや堂本少佐の意思に迫り、麻田の行く末に手に汗を握る展開。
スパイという危うい立場や日本統治下のサイパンの様子を知れたのもおもしろかった。
Posted by ブクログ
そうだったのか。と、参考文献を読んで納得した。なぜこういう設定の小説が生まれたのか。南洋通信だったのか。
虎になる男のことは、コメント欄では、あまり話題になっていないのかな。
Posted by ブクログ
戦時下のサイパンで海軍の諜報活動をせざるを得なくなった麻田健吾の話。ある意味、密室とも言えるサイパン島で海軍少佐から無理強いされる諜報活動における推理ドラマと、戦争に翻弄される民間人の苦悩の両方を見事に描いている。
Posted by ブクログ
舞台は太平洋戦争開戦前の1940年のサイパン。タイトルの「楽園の犬」の犬とはここではスパイのことを意味します。
スパイと聞くとドラマや映画ではなんとなくかっこいいいイメージもありますが、実際には孤独で常に危険と隣り合わせの命を賭けた任務のように思います。スパイであることにいいことは一つもないように思えてしまいますが、抜けたくても抜けられなくなってしまうのでしょうね。
日本ではスパイ活動を取り締まる法律がなく、世界からは「スパイ天国」と言われているようです。大丈夫なのかな?
第二次世界大戦のさなかに勃発した太平洋戦争では、アメリカには石油等の資源量、経済力や軍事力でも到底敵わないことをわかっていた学者や軍人も多数いたものの止めることはできず結局戦争に突き進んでいきました。
人間同士で殺し合う戦争を現代でも無くせないということは、人類はまだバカのまんまですね。戦争のない平和な世の中で穏やかに暮らしたいものです。
Posted by ブクログ
戦争を回避すること。それがベストだと思っても、何か行動に移すことができる人がどれほどいるだろう。戦争がテーマの物語で主人公が軍の人となると共感できないことが多いけど、この作品は別。
堂本や麻田の生き方が人間らしく思えて、だからこそ悲しくて…
開戦前、スパイが入り乱れているサイパン。こんな疑心暗鬼になりそうな状況が実際にあったのか。
読み終えて改めて見ると、表紙の血のような赤さの南陽桜が何とも切ない。
Posted by ブクログ
死について、考え方は人それぞれあるが、時代の流れのなかでの死生観をどう捉えるか。
自決ということが、ある意味美しく語られた時代に、生きていくこと、生き続けることはどういうことだったのか。
ぼんやりと生きている自分には、南洋桜の鮮烈な赤は、美しいと言うより恐ろしい。
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気がつけば岩井圭也作品3冊目。
舞台は太平洋戦争勃発直前の南洋サイパン。
喘息持ちの元教師の男は、日本に残した最愛の妻と一人息子を養うため、日本海軍のスパイとなることを選んだ。
ん~。
外国の包囲網でどんよりと追い詰められ、神州日本が負ける訳はないという無知蒙昧と傲岸不遜により、いっそ開戦を望むという当時の空気感は伝わった。
嫌だな~。
嫌な話だな~。
おもしろくなくはないが、嫌な話だ。
実際、三分の二まで読んだ感想はつまらない、だった。
しかし、そこまでは前フリのようなもの。
そこから物語が激しく動き始める。
著者は……、きっと嫌だったんだろうな。
サイパンで行われた通称バンザイアタックや、捕虜になることを拒否した多くの自決。
凄く嫌だったんだろうと思う。
それを止めたいと願った末に作られた人物ではなかったろうか?
それでも……。
歴史を変えることなどできない。
それでも……。
少なくとも一人は、おそらくは彼の説得でもっと多くの人が思いとどまったのだと思いたい。
たとえそれがフィクションの中であっても。
蔓延する猛毒のような全体主義から逃れ、自分の頭と信念によって行動し、名誉や美学による”死”を拒絶し、足掻き続けた彼に称賛を送りたい。
願わくば、違う結末が読みたかったが、本当にどんな姿でも違う形のラストを願ったが、やむを得ないだろう。
「永遠についての証明」>本作>「文身」ってとこかな。
まあ、それはそれとして。
岩井圭也さん、書きすぎじゃね問題(笑)
書き始めが2016年頃か。
そっから8年で単行本だけで14冊。
単行本化されてない掲載作を合わせると倍以上かな。
いや~、凄い。
書きたくて書いてるんならありがたいがね、出版社の意向でガンガン書かされてるんじゃないだろうな。
「売れてる旬の内になんでもいいから書かせろ~!!」
みたいな。
依頼されたら書くしかないんだろうけど、事情はまったく知らんけど、この作家さんに限らず、もっとじっくり腰を据えて書いてもらいたいな~。なんて思ったり思わなかったり。
出版社は短期で作家を食いつぶさないで、長い目で見てあげて欲しい。
今作もね、もっともっと練れる余地があったような気がしてね。
余計なお世話だけどさ。