【感想・ネタバレ】楽園の犬のレビュー

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Posted by ブクログ

鬼★5 人間としての魂の叫びに痺れる… 開戦間近、占領下サイパン島でスパイになった教師 #楽園の犬

■あらすじ
1940年、アメリカとの開戦間近の日本。英語教師として生業を得ていた主人公の麻田だったが、喘息のため休職中であった。家族を養うため日本占領下サイパン島での役人の仕事を得るも、日本海軍の堂本少佐から防諜スパイの密命を受ける。
不穏な自殺を遂げる漁師、日本人と現地人カップルの心中、スパイ嫌疑がある現地人の殺害。麻田は様々な事件と対峙しながら、「楽園の犬」としてスパイ活動を続けていく…

■きっと読みたくなるレビュー
これ、文学賞あるわ。映像化もされるに違いない。

占領戦時下における時代小説、スパイとしての苦悩、ひとりの人間としての闘いを描いた傑作です。
物語のプロットはもちろん、文章や会話のバランスも抜群。鳳凰木をはじめとするサイパンの情景描写も素敵すぎる。島で発生する各々の事件や、終盤の謎めいた展開など、ミステリーやサスペンス要素もしっかりある。読めば読むほど熱くなってしまい、そして身体じゅうが打ち震えてしまった作品でした。

〇魅力的な登場人物たち
ひとりひとりの顔が目の前に浮かんでくる。主人公の麻田、堂本少佐、宇城中佐、武藤警部補、ローザ、フィリップ、シズオ。ひりつく駆け引き、威圧、苦悶苦闘、諦め、悲しみ、怒り…彼らの魂の叫びが、本から聞こえてきました。

〇人間の扱いを受けないスパイ
スパイとして生きねばならぬ者のプレッシャーがヒリヒリと伝わってくる。ひとつ間違えば明日はない。狂乱時代に数奇な運命を背負った彼らの姿、とても見ていられない。

これまでどれだけ尽くして、成果を上げていたとしても、所詮は「犬」でしかない。少し状況や立場が変われば、守ってくるどころかむしろ敵や犯罪者に成り下がってしまうんです。強大な権力の恐ろしさ… こんなひどい話はあるのか、悔しくて腹立たしくて、泣いてしまいました。

〇占領下~戦時におけるサイパン
日本が統治していた占領地の現実。戦争が終わって80年以上経過しても、我々は知っておくべきでしょう。現地民の差別や統治、天皇の神格化がどんな悲劇をもたらすのか。どんな人間でも、ひとりひとりに大切な家族がいる。多大な影響を及ぼすことになることを心に刻むべきです。

〇最後の一頁
世の中には健康や経済的に困っている人、人間関係に悩んでいる人、生きるだけでも辛いという人がたくさんいるでしょう。ぜひこの物語を体験し、そして最後の一頁を読んで欲しいです。

■ぜっさん推しポイント
時代の渦に巻き込まれ、まったく望んでいなかった役目を担った主人公。頭脳は明晰ではあるが特別な能力はなく、病弱で腕力もない。暴力や権力が嫌いで、ただ自分の家族を大切に思っている、どこにでもいる普通の父親。

「犬」でしかなかった彼は、どうなっていくのか…本作四章以降の彼の姿は、決して忘れることができません。

1
2023年10月13日

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──「死は、死でしかない。」
許容される死も、許容されない死もない。
どんな言葉で飾り立てようと同じことだ。──


時は1940年、太平洋戦争勃発直前。
主人公の麻田は日本海軍のスパイとして、サイパンへ渡る。
横浜には、妻と幼い息子を残してきた。
麻田は、海軍士官の堂本少佐の元で“犬”となるのだが

この堂本少佐がスゴイ人なんだ。
堂本は、海軍士官としての使命を考えた。
被害を出さないための最上の策は、戦争を回避することである。
──戦争をさせない。

世界中が戦争へと向かう中で、死にたくない、戦争はしたくない、と声をあげられるのか。

すごいテーマだなと思った。
そんな緊迫感のあるスパイ小説でありながら、ときおり南国の暖かい風を感じ、気持ちが和らぐ。
表紙にもなっている鳳凰木(南洋桜とも呼ばれる)やハイビスカス、椰子の木などの風景。
開け放した家に自由に出入りする村人たちの様子など…
それでもやっぱり苦しい物語に違いない。

一度“犬”になったら二度と開放されることはなく、少し状況が変われば誰も守ってくれない。
もう読んでいて苦しくてたまらなかった。

そして日本統治下にあるサイパンということで、島民への差別意識が強く、日本人はこんな事やってたのか…と悲しくなる。

地獄のような日々の中で麻田は強く思う。
──何があろうと、生き延びる。
どんなに美しい言葉で飾られようと、死の淵へ落ちるつもりはなかった。──
麻田は、再び家族と会うことが出来るのだろうか…

ラストの一頁に辿り着いた時、叫びたいほどの震えと涙に襲われた。

0
2024年02月06日

Posted by ブクログ

 馴染みのある苗字の作家というだけで応援している岩井圭也氏。前回の「完全なる白銀」は自分の好きなジャンルである山岳小説ということで読んだが、今回はどんな小説なのか。題は「楽園の犬」。ハチ公か、などと想像を膨らましてみたが、いい意味で裏切られた。楽園とはサイパンのこと。昭和15年からの話なので、どんなストーリーなのかは想像に難くない。権力の手先に喩えた犬。この時期の南洋社会ならではの対立軸が複雑にからみ合い、主人公の任務が産み出す人間関係と相まってリアリティを物語に与えてくれる。

0
2024年01月27日

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太平洋戦争が勃発する直前、南洋サイパン島を舞台にスパイ活動という密命を帯びた主人公の活躍や生き方に焦点を当てながら、軍人や島民の姿、南洋社会の様子などを描いたスケール感あふれる長編小説。
主人公・麻田健吾は東京帝国大学を卒業して英語教師になったが、持病の喘息が悪化し、休職中に旧友から別の就職先を提案される。提案されたのは、転地療養を兼ねた南洋庁サイパン支庁の庶務係勤務だった。だが、条件として、支庁の海軍武官補である堂本頼三少佐の手足となり情報収集する“犬”となることが課せられていた。
家族のことを考え、逡巡しながらも腹を決めた麻田は1940年11月、サイパンに単身で赴任する。
サイパンではあらゆる種類のスパイが跋扈しており、麻田は堂本少佐から、まず、鰹漁師の自殺と米国への情報提供との絡みを解明するよう命ぜられる。
真相を見事に解き明かした麻田は、その後も、夫婦になれず毒を飲んで心中した事件や別の殺人事件を調べ、その裏に陸軍のスパイや皇民を自負する人物がいたことを暴き、堂本少佐の信頼を得ていく。
一方で堂本少佐は謎めいた人物だった。無表情なエリート将校だが、留学経験があり「アメリカ側の人間では?」という疑惑も持たれていた。
第3章までは、こういった展開で、麻田の推理と謎の堂本少佐との絆を主眼に置いたミステリー小説の色彩が強かった。
だが、12月8日、開戦を迎える日から始まる第4章に入ると、麻田に危機が迫る怒涛の展開となる。そして、ラストで強烈に伝わってくるのは、麻田の「生命の軽さ」への強烈な反感、なんとしても戦争を避けたい、生き抜きたいという熱い信念だ。挙国一致で戦争至上主義がまかり通る世に、息子に対して、戦う術(すべ)ではなく生きる術を説いていた麻田の姿に崇高さを覚えた。
麻田と合い通ずる堂本少佐の人間性、チャモロ人の優秀な女性、ローザ・セイルズと麻田の間にできた信頼関係、海軍と陸軍の微妙な思惑のすれ違い、島民が日本軍に抱く感情、沖縄・本部村の漁師がサイパンに渡ってきた事情など、様々な要素が組み込まれ、リアリティーもあり、読みごたえ十分な小説だった。


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2024年01月21日

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第二次大戦前,サイパンを舞台に海軍のスパイとして生きることになった喘息の持病のある麻田,防諜の中で自殺や殺人事件の謎を解く.戦争へと突入する中で家族を思い生きることを諦めないその姿勢に心打たれる.

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2024年01月04日

Posted by ブクログ

なんだこれは。
何がそうさせるのか言葉にできないが、空気が伝わってくる。冷たさ、熱さ、速さ、早さ、遅さ、震え、静けさ、騒がしさ、虚しさ。引き込まれ続けて、「ああそうだ、死とは…」と思いに耽る。
久々にあたった。ありがとう芝さん。

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2023年12月18日

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主人公の麻田健吾は、東京帝国大学を卒業した後に英語教師として従事していたが、重度の喘息持ちのために度々休職を強いられていた。
そんな麻田に、旧友が転地療養を兼ねて南洋庁サイパン支庁への転職を勧められ、愛する妻と可愛い息子を横浜に残して単身で赴任することを決める。
この地には真紅の花を咲かせる鳳凰木があり、移り住んだ多くの日本人はこの木を南洋桜と呼んで愛でていた。
気候が麻田の病状に合っていたのか喘息も治り、一見この地は楽園のように思われた。
赴任して6日目、海軍武官補である堂本頼三少佐から命じられたのは、自殺した鰹漁師が日本の機密情報をアメリカに渡していたかどうかを調査することだった。
情報収集と云うの名の下に、浅田はこの一件から堂本の飼い犬となり、スパイとして暗躍することを強要されたことになる。
冷酷無比とも言える印象の物静かな堂本と定期的に会って報告を繰り返すに従い、アメリカ留学の経験のある堂本に、何故かある種のシンパシーを覚えるようになって行く。
物語は、麻田が、自殺、心中、殺人などの事件を解き明かすミステリー仕立てで進んでいく。
そして麻田が赴任して一年後、麻田の意に反して日本は米英との開戦を迎えることになる。
『 楽園の犬 』は戦争ものではあるが、戦争の場面は全く描かれてはいない。
岩井圭也氏が綴ったテーマは、過酷な社会状況に於いてでも、個人の思い、人としての矜持を保ち続けることは可能なのかどうかを問いているように思えた。

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2023年11月05日

Posted by ブクログ

『楽園の犬』とは反戦の物語だ!
「戦争」という大義によって軽んじられる「いのち」を守るために「戦争」と戦う物語だ!


はい、先日読んだ『文身』が超面白かった岩井圭也さん
次は何を読もうかな?と思っていたら新作が借りられたので読んでみることにしました
秋さんも推してたし(重要)

物語は太平洋戦争勃発直前のサイパンが舞台です
主人公はそのサイパンでアメリカのスパイを摘発する密命を受けた海軍のスパイとして現地に赴きます

「戦争」に翻弄されながら信念を捨てることなく生き抜いた主人公に、作中に描かれた理不尽な死に、今の時代を生きる私たちはあらためて「いのち」について考えさせられるはずです

あらためて「戦争」の愚かさに気付くはずです

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2023年10月21日

Posted by ブクログ

生きることを諦めない。

一介の英語教師であった麻田は、家族を養うために単身、サイパンでの役所仕事兼防諜業務に従事する決意をする。
いつか家族と再会できることを希望にして、難しい業務をこなしていく。
だが、一度スパイとして働いたが最後、その運命からは逃れられない…。

日本がアメリカと開戦し、敗戦の色が濃くなっても、決して生きることを諦めなかった麻田。その信念が、最後の章でずしんと伝わってくる。
深夜まで一気読みするくらい、勢いと熱い展開があった。
生きるとは何か、信じるとは何かを考えさせられた。

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2023年08月26日

Posted by ブクログ

1940年 太平洋戦争勃発前 南洋サイパン
高校英語教師を 喘息のため辞し 
南洋庁サイパン支庁庶務として勤務することになった麻田
堂本少佐の元 日本海軍のスパイとなることが
条件だった
イメージしていた訓練されたスパイ小説とは趣きが違いました
スパイの密命を受けた麻田は 東大を卒業して
英語は堪能であっても一般人
妻と子を養うための仕事なのです
この麻田が堂本少佐指示の元
サイパンで起こった 自殺、心中、他殺 それぞれの事件にスパイ活動が絡んでいないか
彼なりのやり方で検していきます
日本統治下、南進の前衛地
あらゆるスパイが混在して スパイ小説の要素は大きい 素人スパイの麻田の成長も緊張感を持つ
それ以上に サイパンでの
日本人に支配された島民の扱いの理不尽さ
日本からの移民の中での区別
軍人であるか民間人であるかという区分
海軍と陸軍の対立となる図式
混沌とした楽園での それぞれの生き抜き方を読むのも魅力かなと思う
堂本少佐の日本を守るため戦争をさせないという使命感
非戦のための諜報活動
戦争を回避できなかった時死を選んでしまう
スパイとしてではなくて軍人としての生き方
その対比としての 民間人麻田の生に対する固執
戦争は軍人だけでなく あらゆる人を巻き込んでいったのですね

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2024年05月23日

Posted by ブクログ

一国の政治が歯止めなく流された結果が軍国主義となって多くの国民の命を奪った。反対にポピュリズムも今さえ良ければ良いという民衆の刹那的な雰囲気で国力を低下させる。多くの流れに抵抗する一定の想いがいつでも発言できる時代でありたい。

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2024年05月14日

Posted by ブクログ

「親子月軍衣まとひし楽園の犬の骸に桜降り敷く」

昭和15年。太平洋戦争開戦がひたひたと迫っている頃である。
南洋・サイパンに一人の男、麻田健吾が降り立つ。
麻田は喘息持ちだった。秀才で将来を嘱望されていたが、就職難と自身の病気が重なり、ようやく女学校への就職口が得られたのみだった。ところが、病状がさらに悪化し、それすら辞めざるを得なくなった。妻子を抱え、困窮した麻田に、知人が持ちかけたのがサイパン・南洋庁での仕事だった。転地療養を兼ねて、ということだったが、これには裏があった。
ただの役人としてではない。麻田が求められたのは「スパイ」としての役割だった。

スパイの活動には2種類あるという。
1つは敵国に潜んで機密情報を取得する「諜報」。もう1つはこうした諜者から機密を守る「防諜」。
麻田は後者の「スパイ」となるよう任じられた。
何しろ開戦は間近いのだ。南洋群島は米国本土とハワイやフィリピン、グアムを分断できる位置にある。オランダ領東インドも近い。米英だけでなく、オランダからも諜報員が入り込んでいる。日本の陸海軍の民間協力者も数多くいる。
いわば、百鬼夜行の中で、情報収集にあたり、諜報者を見抜いて機密漏洩を防げ、というのだ。
一介の女学校教師であった自身が果たしてそんな職務にあたれるのか。
麻田は疑問に思ったが、指示役である海軍少佐、堂本頼三は麻田を気に入ったようだった。堂本は軍人然とした人物であったが、どこか底が見えないところがあった。
麻田は、楽園のような南の島で、謎めいた上司の犬となることになったのだった。

物語は連作短編の形を取る。
第一章「犬」。第二章「魚」。第三章「鳥」。第四章「花」。
いずれもある事件が起こり、その背景を麻田が探る。
時にはそれは本当にスパイ活動に関連するものであり、時にはそうではない。
その顛末もなかなかおもしろいのだが、本作で特筆すべきは、麻田と堂本の人物造形だろう。
麻田は、同時期にパラオに赴任していた作家・中島敦を強く連想させ、巻末の参考文献にも中島の著作が複数挙げられている。とはいえ、中島が諜報活動に関与したわけではないだろうし、中島はパラオの気候が合わず、1年も経たずに帰国しているため、中島のその後は、麻田の辿った運命とはかなり相違している。
堂本は時代がよく見えている人物で、開戦を回避しえないこともよくわかっている。軍人としての職務には忠実だが、それはそれとして、彼は現実主義者でもある。堂本と麻田では、先々、選ぶ道は異なるのだが、2人に共通しているのは現実を見据えている点で、そういう意味ではよく似た2人でもある。
さてこの時代にこれだけ先が見通せた人はいたのかと若干疑問に思わないでもないが、「当局」の言うことを鵜吞みにする人物ばかりではなかっただろうとは想像がつく。

同じ時代でも満州を舞台とした小説は多いが、南洋を描くものは意外に少ないのだそうで、そのあたりの着眼点もおもしろいところである。

冒頭に掲げた短歌は本書巻頭に置かれている。
誰の作であるか、「親子月」とは何か、「犬」とは、「桜」とは、というのは、終章で明確になる。
物語の中盤で麻田は1つの賭けに出る。この賭けが意外なところで効いてくる。それは吉と出るか凶と出るか。

表紙の赤い花は、楽園が地獄と化したとき、命を失った幾多の人々の鎮魂のようでもある。
終盤まで、物語は駆け抜ける。
生きろ。生き延びろ。麻田。--そんな読者の願いは届くのか。

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2024年04月29日

Posted by ブクログ

2024年の第77回日本推理作家協会賞候補作品。候補作を読むのは3作目だけど、どれもレベルが高い。この作品、太平洋戦争前夜のサイパンを舞台にするって発想がまずすごい。で、ミステリーとして面白いし、戦争を取り扱った話としても深い。悲しいわ・・・

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2024年04月06日

Posted by ブクログ

楽園=サイパン、犬=スパイ
太平洋戦争下のしかもサイパンだけを舞台にした、さらに海軍のスパイという設定でここまで読ませるのはすごいことだ。海軍だけでなく、陸軍の海軍へのスパイであるとか、米軍の犬(スパイ)であるとか、入り組んだストーリーに加えて太平洋戦争におけるしっかりとした調査も伺える。
そしてエピソードも考えられている。主人公の息子は成人となり、父親の末路を聞かされることになる。戦時下に南国の島に捨て置かれた元スパイの悲哀を感じた。事実に基づいていてもそうでなくても、これがあったと思わせる筆致だった。

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2024年03月18日

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ネタバレ

第二次世界大戦中の、日本の植民地になっているサイパンが舞台の話。
海軍のスパイとして、アメリカ側のスパイを摘発する主人公・麻田。
連作短編集のように、一つの章に一つの事件という構成になっているが、最後の章は、アメリカとの戦争が開始され、主人公の雇い主である海軍少佐・堂本が失踪したことで、海軍から、麻田も堂本の協力者なのではと疑われ、海軍から逃げるエピソードが描かれている。ハラハラドキドキで面白かった。
連作短編集みたいな構成は、個人的にあまり得意ではないのに、この本は物語に没頭できる文章で楽しかった。

サイパンはグアムのようなアメリカ領のリゾート地という認識しかなかったけれど、かつて日本が占領していて、アメリカ戦では戦場となり多くの人が犠牲になった土地だということを改めて認識した。

自決が美化されていた時代に、「美しく見えても死は死でしかない。なによりも命が大事。」と考えて最後まで生きようとし、その意思を妻子に伝えようとした麻田が良かった。

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2024年03月17日

Posted by ブクログ

目を惹くのは表紙の木に咲く赤い花。
これが鳳凰木ー別名、南洋桜の花でサイパンではこの南洋桜が咲くのは春から秋にかけて。
10月にはすべての花が落ち、枯れるがたった一本だけ12月に咲いてる木がある。
その木の下で…。

1940年のサイパンで日本海軍のスパイという使命を帯びていた1人の男の生きざま。
家族のためにその任務につき、必ず生き抜いて再会できると最後まで諦めずにいた強さに胸をうたれた。




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2024年03月11日

Posted by ブクログ

太平洋戦争開戦直前×日本統治下のサイパン×謎解き短編連作という今までにない組み合わせでした。
サイパンでの人々の様子や心情、生活風景がとても具体的で、たくさんの資料を元に書かれているのがよく分かり、勉強にもなりました。
軽めに書かれた1作目からどんどん内容は濃く、重くなって行きます。そのグラデーションが見事でした。
最後の作品が全てを包み込みます。心に残る作品です。

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2024年01月24日

Posted by ブクログ

前回の読書会でお借りした本その1。
岩井圭也さん作品は初めて読んだ。

第二次世界大戦直前のサイパンが舞台で、横浜で英語教師をしていた麻田健吾が、
海軍少佐堂本頼三のスパイとして活躍する話…、
かと思いきや、
戦争が勃発してからの展開に、物語への興味自体もそうだが、読んでいる私の感情があっちへこっちへと飛び回る稀有な読書体験を得た。

以下、少しネタバレ。

正直、南洋桜の下へたどり着き、事を確認した時にはこの物語自体に面白みを感じられなくて、
まあでもだいぶページ数残ってるしなー…と思いながら読み進めた。
これもまた微妙なネタバレだが、
麻田が自室に落ち着き、
そこからめっちゃ怒るところで、完全に彼に共感…、
というか、今までこの本に対して面白みを感じられなかった理由がストンと腑に落ちた。
全部主人公が言ってくれていた。
そしてそこからめちゃくちゃ味わい深く、大変美味しく読んだ。

そして読み終えた今、よくわかる。
なんかこの本、構成がうまい…。
登場人物の登場のさせかたや、事件の起こり方、あらゆる細かな伏線が、派手派手しくはないがしっかり後に効いてくる構成。

この本をおススメしてくれた書店員さんは、岩井圭也さんゲキ推ししていたけど、こんなに骨太なのに読みやすい上、なんとも味わい深い読書感を与えてくれるなら、俄然他の作品も読みたくなってしまった。

しかし、この頃の戦争小説はあまり読んでいないが、時系列も舞台設定も結構珍しいのではないかな。
とは言え、この物語からも思いはせることはやはり多い。

歴史の事実として、教わったことがあったかもしれないが、日本が南洋諸島を支配していた時間が四半世紀もあったんだという事実を噛み締めるように知ったのはこの作品を読んだからこそだった。
そしてそれを知った上で考える。
その頃の日本がそこから撤退する選択肢など、内地の国民からしても馬鹿げた話だと思うかもしれないと。
歴史に振り返ってあの頃の日本の、その愚かしさを指摘することは簡単だけど、小説世界に浸り、自分なら何ができてどう考えどう動くかと思いを巡らせることもまた、激動する現在に対する学びにもなる。

いやぁ…示唆深い。
良い小説だった。

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2023年12月12日

Posted by ブクログ

世の中が戦争に突き進もうとするとき、人はどこまで自分でいられるだろうか。

大きな時代のうねりの中で、個々は非力で取るに足らない存在のようになってしまう。
死んで償う事が正解のように死が美化されてしまう時代の中で、「死ぬのは嫌です」そう言い切れ、自分自身を貫く事がどれほどのことなのか。

戦争と死について考えさせられる1冊だった。

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2023年12月12日

Posted by ブクログ

岩井圭也さんの新刊ということで読み始めた。第二次世界大戦開戦前後、サイパンでの諜報活動を行った麻田健吾のお話。歴史物や戦争小説は苦手であるが、岩井圭也さんの小説に登場する主人公の強さや信念のようなものにいつも惹かれる。この小説も麻田健吾の家族に対する深い愛情や生きることへの執着、命の尊さが描かれていた。

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2023年11月26日

Posted by ブクログ

「みづから死を選ぶこと程愚かしいことはない。美しく見えても死は死だ。命を絶つな」
先の戦争でそんなふうに思った人はどれほどいたのだろう。この物語は意図せずサイパンで防諜としてのスパイ(犬)となってしまった人の物語だ。

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2023年11月26日

Posted by ブクログ

謎解きの舞台を戦時中、サイパンに置き換えただけで、たいした推理もなくスパイかどうかを見極めるだけ。人物描写も浅く主人公に感情移入できない筆力ではあったが、2章目の終わりから戦時中独特な不穏な感じが入り組んで来て、無二の小説となっている。もう少し人物描写と推理に一捻りあれば星5でした。

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2023年11月25日

Posted by ブクログ

1940年、喘息に苦しむ英語教師の麻田は転地療養もかねてサイパンの南洋庁に赴任する。しかし彼に与えられた役割は、迫りくる戦争に向けての防諜だった。サイパンで起こった事件の裏に潜む真相を突き止め、それに関わる他国のスパイをあぶりだすという任務を受け、麻田は慣れないながらも持ち前の知恵と機転を駆使し奮闘する。不穏な時代の、圧倒的な臨場感を体感するミステリです。
もちろん現代に生きる読者は、この後の国際情勢がどのような方向に進むのか、当然知っているわけです。だからこそ必ず勝つと信じて戦争に挑んだ当時の日本人たちを愚かだと思ってしまうのですが。冷静に状況を見極め考慮する人たちも少なからずいて、それでも戦争を避けられなかったのだとするとこれは何ともいえず悲しいことでした。あの人の志があまりに痛々しくて、南洋桜のシーンの美しさすらあまりに悲しく思えました。しかしそれでも麻田と同様に、あの人が選んだ道を正しいことだとはやはり言いたくはないですね……。
今の時代に読んでも、けっして終わってしまった昔の話、とは思えません。当時に生きた人たちの思いが心に刺さる気がしました。

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2023年11月23日

Posted by ブクログ

いつまでもいつまでも南洋の地から戻れずにいる。
灼熱の太陽の湿度の中にたたずんだまま
歪んだ世界を眺めている。
異常も正常も消し去ってしまう
戦争という争いの物語。

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2023年10月29日

Posted by ブクログ

2023年度、個人的に最も部屋に飾りたい表紙NO.1にランクインしていた本作、貴志祐介さんの帯の文言も相まって飛び付きました。
表紙の木は鳳凰木、日本人には南洋桜と呼ばれる燃えるような木ですが読み終えた後で見返すと一際感慨深くなります。

スパイもの×ミステリー×戦史が絶妙に絡み合った最高の胸熱作品でした。(こう書くと一気にチープ感増しますが本当に感動しました)

英語教師であった主人公の麻田が、喘息の為に職を失い家族を養う為に海軍少佐の堂本の元でスパイ、犬となって開戦前のサイパンを奔走します。
この麻田は中島敦さんをモデルにされているとの事で、参考文献にも中島さん関連の書物が並んでおりました。
しかし今回も参考文献の数が凄い…。戦史ものを書くに当たっては必然なのかも知れないですが、本当に尊敬します。

日本がサイパンを占領下に置いていた頃の話なので「教育を施してやっている」との名目で島民の名前を取り上げて日本の名前を与えたり、蔑んで差別をしたり、同じ日本人として目を覆いたくなる場面も多く出てきますが、麻田が公平で実直な人物なので我々読者は救われます。

勿論、日本に感謝している島民も存在します。その極端な例であるシズオという人物が登場するのですが、日本人になりたくて仕方が無い彼に対して日本人は認めないどころか蔑みの目しか向けない。
あまりの悲しさに「ごめんな…」と思わず謝罪してしまう私。

スパイと言えば私は真っ先に007が思い浮かぶのですが、実際のスパイは非常に過酷で泥臭く、命を懸けて這いずり周るようにして諜報活動をするんですね(ボンドも派手に命懸けですけれど)

海軍と陸軍の腹の探り合いも熾烈を極めます。
ふと実際にあった件を思い出しました。日本の将校が酒盛りをしていたのに対し、米国の将校は部下の下に訪れて一人一人に激励の言葉をかけていたという話。
軍事力の圧倒的差もあるけれど、そりゃあ負けるよなあ…と悲しくなってしまいましたが、勿論それは一例であって素晴らしい日本の軍人さんも数多くいらっしゃった訳で、その中の1人が堂本少佐です。

彼は彼なりに祖国日本を守る為に命を懸けている姿…かっこいいよ!!

そして始まる真珠湾攻撃、堂本少佐と麻田の命運はいかに…?!
と、テレビの次回予告のような文言を書いてしまう程に最後の方は結末がどうなるのか全く分からず、ページを捲る手が止まりませんでした。

お得意の余談なのですが、カフェの隅っこにてボッチで読書に勤しんでいた私の隣に、可愛らしいカップルが座っておりました。
「どうする?帰っても暇やしなー」「でもこの辺も何もないんよなあ」とお困りのお2人に「本を読めば一瞬でサイパンに行けますぜ」と言い残して(心の中で)カフェを後にしたのでした。

本はどこでもドアですよね、読書は至福の時間だと再確認しました。

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2023年10月04日

Posted by ブクログ

犬が好きなので借りたら全く別の犬だった。犬をそういう意味では使うけどいつまで経っても慣れないな。思いの外最後まで面白かった。この作家さん他も読んでみたいな。

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2023年09月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

昭和15年、麻田健吾は南洋庁サイパン支庁庶務係の職を得てサイパンに来島した。表向きは閑職、裏の顔は海軍のスパイとして上官の指示に従い己の頭脳を駆使し仕事をこなしていく。

戦争という現在からすると非日常の中で紋切り型のヒーロー、ヒロインのような人物ではなく、ただ能力ある普通の人々が己の信条によってのみ生きている様が描かれていてそれがまた戦争というものの非情さを戦後を生きる私に訴えかけてきました。

読後、因果は巡る、誠実に生きないと、と襟を正される思いがしました。

8月に読むことができて良かったです。

#楽園の犬 #NetGalleyJP

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2023年09月08日

Posted by ブクログ

喘息で仕事にも支障をきたしだした麻田健吾。
療養も兼ねて家族と離れサイパンに赴任することに。太平洋戦争開戦前の話だ。
そこで海軍の堂本少佐のスパイとして活動することになる。

死を美化する事が普通だったこの時代の中、「死は死だ」と言い切ることがどれほど難しく勇気がいる事か。全編死についての麻田の違和感と固い決意で貫かれていた。

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2024年05月05日

Posted by ブクログ

「君は米英と開戦すべきだと思うか?」

太平洋戦争前夜のサイパンを舞台にしたサスペンス×ミステリー。
軍部の「犬」となった男が、動乱の時代に見せた生き様に胸が熱くなる!

1940年、南マリアナ諸島の一つサイパン島に「南洋庁サイパン支庁庶務係」として着任した麻田健吾。

一高、東大という経歴で優秀な麻田だが、持病の喘息のため、高校の英語教師の職は休みがちで、妻と息子には苦労をかけていた。

家族を養うために新たな職を求め、単身サイパンへ。しかし、彼を待つ本当の仕事は、海軍のスパイという任務だった….!

堂本頼三少佐直属のスパイ、つまり「犬」となった彼は、島での防諜活動で実績を上げていく。

第一章『犬』 第二章『魚』 第三章『鳥』までは、舞台が戦時下のサイパンではあるが、フォーマット的には「殺人の謎を解く」という、ある意味「普通のミステリー」だった。

しかし、 第四章『花』で急展開が起こり、物語は急速にボルテージを上げていく!
それは対米決戦が近づく情勢であり、堂本と麻田にせまる危機でもある。
「楽園の島」に破滅の予兆が、そして「犬」には因果がめぐる….。

圧巻の終章。この小説で作者が伝えたいことは、ここに詰まっていた。
麻田たち先人の生命の上にいまの私がいることを再認識し、懸命に生きなければと身が引き締まる。


戦時下の話ですが、ストーリーはそれほど重くはなく読みやすい。
そして、このラストはぜひ読んでいただきたいと思います。

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2024年04月01日

Posted by ブクログ

岩井圭也作品 初作家さんです。

日本が中国や東南アジアへ兵を進め、米英との対立が強まる1940年頃。
英語教師だった麻田健吾は体調を崩し、職を失っていた。
職探しの中 旧友から紹介されたのは 南洋庁サイパン支庁庶務係
しかし 本当の仕事は現地での日本海軍のスパイ(犬)だった。
戦争というきな臭い状況の中 様々な事件・案件に巻き込まれながら 一般人であった麻田が徐々に防諜活動に染まっていく。

頭の良さと冷静さで謎解きをしていくのだが、戦争が背景にあるだけに 悲しさとあきらめが漂い 苦しくなる。
世界のあちこちで戦争が 現実に起こっている今 
大きな国のうねりに飲み込まれずに 自分は生きていけるのか・・・・

史実を追いながらも 色々なミステリーが織り込まれていて 面白い作品でした。
他の作品も読んでみたいと思います。

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2023年12月21日

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