あらすじ
クラスで一人だけCマイナス――。7年勤めた会社を辞め、義肢装具士を目指す26歳の二階堂さえ子は専門学校の製作実習で最低評価を受け、激しく落ち込む。同じ班のメンバーは内気だが実力抜群の戸樫博文と、ピンク色の髪にドクロの服を好む永井真純という個性派だったが、次第に打ち解けて切磋琢磨してゆく。けれどさえ子には隠しごとがあって……。つまずいても立ち上がる大人のお仕事小説。(解説・彩瀬まる)
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Posted by ブクログ
内装関係の会社を退職して医療福祉専門学校に入り直し、義肢装具士(ぎしそうぐし)を目指す26才の女性(さえ子)の物語。
専門学校には年の離れた仲間がおり、またこのキャラクターがとてもいい。大変なんだけど前向きな姿勢を感じられる。山本幸久さんの小説はそんな主人公が多く、大好きだ。
小説の中の一節に『義肢装具士は神様と同じことを試みているようだ。(義足などの装具を作ることは)人間の身体を作っているのだから。だから、神様には負けられない。』という部分がある。めちゃくちゃ深いなあ。
主人公のさえ子も壁にぶつかる度に心の中で『神様にはまけるものか。』と呟き続ける…これが小説のタイトルの意味するところだ。
実はこの小説の文庫版には最後に書き下ろしの短編がついており、義肢装具士になってからのさえ子が描かれ、義足をつけることになった若い警察官の心の支えになっている。
読み終えてから、タイトルの意味を改めてふまえてみると、再び泣けた。
ちょうど世の中ではパラリンピックが始まろうとしている。ハンディキャップを背負ってもオリンピック出場という素晴らしい偉業を果たした選手たちの裏側には、さえ子のような義肢装具士さんたちの隠された苦労がきっとあるのでしょうね。
また小説内に友々家というチェーン店の丼の店、凹組というデザイン会社が登場するが、これは山本幸久さんの『店長がいっぱい』の舞台になるお店、『カイシャデイズ』の舞台の会社名なのである。こういう山本幸久ファンに向けての仕掛けもニクいなあ。
Posted by ブクログ
これ、おもしろい。
義肢装具士というあまり普通は馴染みがない話題。こういうの本当はちゃんと考えなきゃなんだよね。
それはそれとして重い題材の割に文章は程々にやわらかく、読みやすい。でもきちんと伝えるべきは伝えてくる。何故それを目指すのか。どうやったらきちんと作ることができるのか。またどうして義肢装具が必要になったのか。
さえ子さんがなかなか豪快な性格で、最初鬱屈してたりもしたのに遠慮ないとすげー口が悪いね。メイン三人がしっかりと人物として立っていて、なかなか面白いバランス。これから彼らが世間に揉まれながらも、ずっと良き同期として成長していくのが楽しみだよ。
Posted by ブクログ
義肢装具士になるため勤めていた会社を退職して25歳で専門学校に入学した女性の努力と奮闘を描く青春お仕事小説。
◇
義肢装具科2年生の教室。二階堂さえ子は下腿義足製作についての実習中だ。実習は3人ひと組の班で1人の義足ユーザーにモデルになってもらい行われる。
さえ子たち4班のモデルは穂高優太という写真館の2代目だ。大学時代にバイト中の事故で右足の膝から下を切断したという穂高は高齢者の多いモデルの中でも32歳と飛び抜けて若く、人間的にも知的で包容力がある。
ミッション系の学校を卒業している穂高から「人間の身体がよくできているのは神様が造り給うたから」という旨の話を聞かされた3人は、ならば自分たちは神の造形に優るような義足を造ろうと決意を新たにする。
「神様には負けられない」という意気込みで義肢装具士への道を着実に歩もうとする3人だが……。
* * * * *
山本幸久さんの文章の巧みさが如実に感じられる作品でした。それに、恐らくかなり綿密に踏み込んだ取材をなさったことがわかるという点でも好感を持てました。
例えば、義足を必要とする多くの人たちが登場しますが、どの人も前向きに生きていて人生を悲観してはいません。
私も身体に障碍を持つ方たちと仕事を通して深く接してきた経験があり、皆さんが一様に明るく積極的に生きようとしていらっしゃったことをよく知っています。それだけに本作での描写にはリアリティを感じました。
また、詳細に描かれる義足製作の過程にしても、説明くさくないのに非常にわかりやすく書かれています。
さらに、実習などで製作に取り組むさえ子たちの様子が、その苦労も含め活き活きと伝わってきて、情景が目に浮かぶほどでした。
こういうところにも、山本さんの丁寧な取材を感じることができます。
そして何より作品を支えているのが、さえ子たち主要人物の魅力的な設定で、さすが山本さんだと思いました。
7年間の建築会社勤めでバリアフリー設計に関わり、身体に何らかの不自由を持つ人たちの生活を意識したことが、さえ子をこの道に引き入れるきっかけになっています。
これだけで中編程度の作品が1本書けそうな事情を、さえ子のために用意しているのです。
さえ子とチームを組む永井真純と戸樫博文にも同様にバックボーンとなる物語が個々に用意され、それが控えめに紹介されつつストーリーが展開していきます。
3人とも、義足を必要とする人たちのことを第1に考えて、義肢装具士を目指しています。フィクションとは言え、その姿勢には心が救われる思いです。
ハード面ではバリアフリーがかなり進んできています。けれど、人々の意識面でのバリアフリーの拡がりは遅れているように見えます。
障碍は個性の1つに過ぎないということをすべての人が本当に理解するまでには、まだまだ時間がかかるのかも知れません。
それでもそういう社会の到来を信じたいと本作を読んで思いました。
山本さんと言えば、軽妙な文章でコミカルに描かれた作品が目立ちますが、本作はコミカルなところを含みつつ、大切なことを深く考えさせてくれる内容でした。
Posted by ブクログ
思いやりとか親切心とかって、結局のところ自分自身の傲慢なのか?
さえ子と醐宮が出会った場面、さえ子が前の仕事を辞めた理由、さえ子と義足ユーザーたちとの関わり…読み進めていくうちに、そんなことを考えさせられた。
相手の気持ちを100%理解することは難しい。
それは、マジョリティかマイノリティか(適切な言い方でなかったらごめんなさい)に関係なく、どちらにも言えることで、であるならばどうすれば良いのか。
どう向き合うのか、どう受け入れるのか。
自分の“あたりまえ”や“常識”は、他人のそれとは違うのだということを、日頃感じていることをこの本を読みながらふと思いだす。
バリアフリーとユニバーサルデザインの違いを少し勉強したことがあるのだけど、その考え方をもっと多くの人が知れば、もっとみんなが居心地良い社会になるのかな、なんてことも考える。
一方で、本の中にパラバドミントンの試合のシーンや、義足のボクサーの話がでてくるのだけど、オリンピック競技とパラリンピック競技って、現行の種目やカテゴリー分けじゃ、なかなか一緒には難しいよな…でも、せめて期間を同じでできないのかな、とか、派生していろんなことを考えてしまった。
義肢装具士という、知らなかった世界も垣間見れたし、いろんなことを考えることもできたし、ちょっぴり視野が広がったような充実感のある読後です。
Posted by ブクログ
義肢装具士を目指す主人公さえ子。高校を卒業してから7年勤めた内装会社を辞めて、貯めてたお金を専門学校の学費に使い、何年も付き合った彼氏にフラれて、まさに前を向くしかない崖っぷちの彼女。
渋谷にある専門学校で出会った2人の仲間と共に、四苦八苦しながら学びと経験を深めていく。
義肢装具士というお仕事、全くと言っていいほど知りませんでした。
お恥ずかしながら。
そこには、今まで知り得なかった深くて時に悲しくて、でも明るくて元気が出る素敵な社会がありました。
自分の人生に芯がある人は強くて美しい。
それは、義肢装具士を目指すさえ子とその仲間も、彼らに関わる先生や先輩、それから義肢を使っている方々も。
ズーンと胸に突き刺さるような出来事があって、そこから彼らは強くなり優しくなり明るくなったのかなと思った。
そんな一言では済まないような深い話なのだけども。
何かに向かって進む姿は、読んでいて頼もしく、力をもらった感じがした。
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背中を押し、前向きにさせてくれるお仕事小説。
社会人7年務めた後、専門学校に通う行動力もすごいけど、そうさせた過去の出来事もリアルだった。
専門用語も多いけれどそれがまた興味深い。
Posted by ブクログ
ニニが出ている。芸者でゴー、こうして友情出演みたいに出てくるのが嬉しいし山本幸久さん好きだよね。義肢装具士の存在も含めて考えたことないので、勉強になりました。3人もよかった 会社はこれから本当に出来ると思う。専門学校は大学みたいに学生生活を楽しむ場所じゃないので友情を育てる難しいかと思いますが、この3人は巡ってきたのですね。無意識のうちに出た言葉が相手を傷つける場面があるけど、あれを言われると何も言えない声も掛けれないと自分も思う。難しいね良かれと思って伝えても相手には同情だけの哀れみと受け取られるって 五十嵐貴久さんと同じでこのふんわり読んでいて和んでしまうのはどういう理屈なんだろうと考えるんだよ。神様の話も良かった。
Posted by ブクログ
覚悟を決めて何かに立ち向かう人の美しさが描かれていて私はとても好きでした。
と言っても、義肢装具士を目指す主人公のさえ子は途中で何度も「私は向いてないかも」と弱気になります。
そんな時に周りが羨ましく見えたり、自分の弱いところばかりが目についたりとすごくリアルな描写がありました。
でも周りには何気なく元気をくれる友人がいて、頑張っている人がいて、自分を頼ってくれる人がいる。
それを知りもっと逞しくなっていく、そんなお話なのですが読んでいてとても清々しい気持ちになりました。
読み進めるうちに登場人物に嬉しいことがあると自分も嬉しくなり、反対もまた然りですっかり没入していたように思います。
それくらい親近感の湧く素敵な小説でした。
Posted by ブクログ
7年勤めた内装会社を辞め、義肢装具士になるために専門学校へ入った二階堂さえ子。
きっかけは、内装を手掛けたバリアフリーのカフェだった。
専門学校で出会った年下の同じ班のメンバー2人はそれぞれが個性的だが、徐々に打ち解けていく。
事故や病気で片足を失った人たちの義足を作るため、切磋琢磨してゆく。
実習生として行った会社で、更に成長するさえ子の前向きな姿には力がある。
2025.9.24
Posted by ブクログ
はじめは義足などの専門用語の羅列に入り込むまで時間がかかりましたが、話に入ったらぐいぐい引っ張られます。
戸樫くんは芯がしっかりしててはっきり自分の言葉で意見を言える姿に憧れます。
真純も良くも悪くももはっきり言えるっていい。
さえ子さんはよくぞやってくれた、私は愚かだとは思わないです。
とりあえずみんな健やかに生きてほしいです。