【感想・ネタバレ】神様には負けられない(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年12月31日

 義肢装具士になるため勤めていた会社を退職して 25 歳で専門学校に入学した女性の努力と奮闘を描く青春お仕事小説。
         ◇
 義肢装具科2年生の教室。二階堂さえ子は下腿義足製作についての実習中だ。実習は3人ひと組の班で1人の義足ユーザーにモデルになってもらい行われる。

 さえ子たち4...続きを読む班のモデルは穂高優太という写真館の2代目だ。大学時代にバイト中の事故で右足の膝から下を切断したという穂高は高齢者の多いモデルの中でも 32 歳と飛び抜けて若く、人間的にも知的で包容力がある。

ミッション系の学校を出ている穂高から「人間の身体がよくできているのは神様が造り給うたからだ」という旨の話を聞かされた3人は、ならば自分たちは神の造形に優るような義足を造ろうと決意を新たにする。

 「神様には負けられない」という意気込みで義肢装具士への道を着実に歩もうとする3人だが……。

     * * * * *

 山本幸久さんの文章の巧みさが如実に感じられる作品でした。それに、恐らくかなり綿密に踏み込んだ取材をなさったことがわかるという点でも好感を持てました。

 例えば、義足を必要とする多くの人たちが登場しますが、どの人も前向きに生きていて人生を悲観してはいません。
 私も身体に障碍を持つ方たちと仕事を通して深く接してきた経験があり、皆さんが一様に明るく積極的に生きようとしていらっしゃったことをよく知っています。それだけに本作での描写にはリアリティを感じました。

 また、義足製作の過程が詳細に描かれていますが、説明くさくないのに非常にわかりやすく書かれています。
 さらに、実習などで製作に取り組むさえ子たちの様子が、その苦労も含め活き活きと伝わってきて、情景が目に浮かぶほどでした。
 こういうところにも、山本さんの丁寧な取材を感じることができます。


 そして何より作品を支えているのが、さえ子たち主要人物の魅力的な設定で、さすが山本さんだと思いました。

 7年間の建築会社勤めでバリアフリー設計に関わり、身体に何らかの不自由を持つ人たちの生活を意識したことが、さえ子をこの道に引き入れるきっかけになっています。
 これだけで中編程度の作品が1本書けそうな事情を、さえ子のために用意しているのです。

 さえ子とチームを組む永井真純と戸樫博文にも同様にバックボーンとなる物語が用意され、それが控えめに紹介されつつストーリーが展開していきます。
 3人とも、義足を必要とする人たちのことを第1に考えて義肢装具士を目指しています。フィクションとは言え、その姿勢には心が救われる思いです。

 ハード面ではバリアフリーがかなり進んできています。けれど、人々の意識面でのバリアフリーの拡がりは遅れているように見えます。
 障碍は個性の1つに過ぎないということを、すべての人が本当に理解するまでにはまだまだ時間がかかるのかも知れません。   
 それでもそういう社会の到来を信じたいと本作を読んで思いました。

 山本さんと言えば、軽妙な文章でコミカルに描かれた作品が目立ちますが、本作はコミカルなところを含みつつ、大切なことを深く考えさせてくれる内容でした。

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Posted by ブクログ 2023年12月03日

内容は少し特殊ですが、登場人物が皆さん個性的で、とても読みやすく面白かったです
実写化(映画かな)しても面白そうです

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Posted by ブクログ 2024年03月14日

義肢装具士を目指す主人公さえ子。高校を卒業してから7年勤めた内装会社を辞めて、貯めてたお金を専門学校の学費に使い、何年も付き合った彼氏にフラれて、まさに前を向くしかない崖っぷちの彼女。
渋谷にある専門学校で出会った2人の仲間と共に、四苦八苦しながら学びと経験を深めていく。

義肢装具士というお仕事、...続きを読む全くと言っていいほど知りませんでした。
お恥ずかしながら。
そこには、今まで知り得なかった深くて時に悲しくて、でも明るくて元気が出る素敵な社会がありました。
自分の人生に芯がある人は強くて美しい。
それは、義肢装具士を目指すさえ子とその仲間も、彼らに関わる先生や先輩、それから義肢を使っている方々も。
ズーンと胸に突き刺さるような出来事があって、そこから彼らは強くなり優しくなり明るくなったのかなと思った。
そんな一言では済まないような深い話なのだけども。

何かに向かって進む姿は、読んでいて頼もしく、力をもらった感じがした。

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Posted by ブクログ 2024年03月04日

背中を押し、前向きにさせてくれるお仕事小説。

社会人7年務めた後、専門学校に通う行動力もすごいけど、そうさせた過去の出来事もリアルだった。

専門用語も多いけれどそれがまた興味深い。

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Posted by ブクログ 2024年01月01日

ニニが出ている。芸者でゴー、こうして友情出演みたいに出てくるのが嬉しいし山本幸久さん好きだよね。義肢装具士の存在も含めて考えたことないので、勉強になりました。3人もよかった 会社はこれから本当に出来ると思う。専門学校は大学みたいに学生生活を楽しむ場所じゃないので友情を育てる難しいかと思いますが、この...続きを読む3人は巡ってきたのですね。無意識のうちに出た言葉が相手を傷つける場面があるけど、あれを言われると何も言えない声も掛けれないと自分も思う。難しいね良かれと思って伝えても相手には同情だけの哀れみと受け取られるって 五十嵐貴久さんと同じでこのふんわり読んでいて和んでしまうのはどういう理屈なんだろうと考えるんだよ。神様の話も良かった。

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Posted by ブクログ 2023年11月27日

覚悟を決めて何かに立ち向かう人の美しさが描かれていて私はとても好きでした。

と言っても、義肢装具士を目指す主人公のさえ子は途中で何度も「私は向いてないかも」と弱気になります。

そんな時に周りが羨ましく見えたり、自分の弱いところばかりが目についたりとすごくリアルな描写がありました。

でも周りには...続きを読む何気なく元気をくれる友人がいて、頑張っている人がいて、自分を頼ってくれる人がいる。

それを知りもっと逞しくなっていく、そんなお話なのですが読んでいてとても清々しい気持ちになりました。

読み進めるうちに登場人物に嬉しいことがあると自分も嬉しくなり、反対もまた然りですっかり没入していたように思います。

それくらい親近感の湧く素敵な小説でした。

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Posted by ブクログ 2023年10月16日

義肢装具士の学校に行って実際に働いていた身としては学生時代を思い出してとても懐かしかったです。実習の描写があまりにもリアルで共感しながら読めました笑
業界の良いところも悪いところもリアルに書かれており、義肢装具士を目指す学生さんにはぜひ読んでもらいたい一冊です。

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