あらすじ
1891年、英国で創刊したばかりの〈ストランド・マガジン〉が掲載したシャーロック・ホームズ譚は、爆発的な好評を博し、雑誌の売行きは一挙に数倍にはね上がった。この異常人気に他誌が黙っているはずはない。かくして陸続と独自の個性を誇る名探偵たちが登場し、名推理を競い合うことになった。彼らを通称して《シャーロック・ホームズのライヴァルたち》といい、名探偵の世紀が開幕する。本巻はアメリカの生んだ名探偵《思考機械》の活躍を描く名作を選りすぐった本格派ファン垂涎のコレクション第1巻!/【目次】《思考機械》調査に乗り出す/謎の凶器/焔をあげる幽霊/情報洩れ/余分の指/ルーベンス盗難事件/水晶占い師/茶色の上着/消えた首飾り/完全なアリバイ/赤い糸/解説=戸川安宣
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Posted by ブクログ
ホームズのライバルとして描かれたアメリカ発のミステリ。とても読みやすい短編集で、思考機械と呼ばれる男と新聞記者がバディとなって難事件を解決していく。ホームズにおけるバディのワトソンは聞き役に徹しているイメージだが、こちらのハッチンソンくんは教授の指示通りに動き、時には教授以上の働きを見せるときもある。ていうかめちゃくちゃなオーダーすらこなしていくので、割とハッチンソンの役割が大きい。そこがホームズたちとは違うかもしれない。古きミステリながらとても読みやすく面白かった。ただただタイタニック号の事故によって亡くなってしまったのが残念でならない。
Posted by ブクログ
「海神の晩餐」に出てきたので。
シャーロック・ホームズのライヴァルの一人とされる、
「思考機械」ことヴァン・ドゥーセン教授のミステリーで面白かった。
シャーロックよりさらに頭脳派というか非肉体派で、
小柄で瘦せていて蒼白い顔という外観はちょっと典型的だが、
常に切手を持ち歩いているとか、
不可能ということばにいらいらするとか、
女性については何も知らないと断言するとか、
面白かった。
電話交換手とか、ガス燈とか、
夜間の12時間労働とかいろいろ小道具も面白かったが、
動機や容疑者を足止めしたメモの内容が
明かされない事件があったのが少々不満。
解説によると、このシリーズは
HowdnietからWhydnietへと変わっていったらしいので、
2作目以降が楽しみ。
Posted by ブクログ
『《思考機械》調査に乗り出す』
死に際の老人の役を個人的な仕事として引き受けたフランク。依頼人ホールマン氏の明らかな詐欺行為として思考機械に相談を持ち込む。
『謎の凶器』
楽屋で殺害された女優。被害者の肺からは全ての酸素が吸い出されていた。
『焔をあげる幽霊』
ハッチストン・ハッチが目撃した燃える幽霊の謎。失われた宝石の謎。
『情報洩れ』
ライバルに情報が漏れている。しかし秘密を漏らせる人間がいない。タイプライターを使った暗号。
『余分の指』
問題のない指を切り落として欲しいと頼む婦人。そして指が無い死体が発見される
『ルーベンス盗難事件』
盗まれたルーベンスの油絵、容疑者は別の絵を模写した水彩画を所持。
『水晶占い師』
インドの水晶占い師に自分が殺害されるシーンを見せられた大富豪。大がかりな詐欺のトリック。
『茶色の上着』
銀行強盗が隠した被害金の行方は?妻に頼んだ茶色の綻びの直し。
『消えた首飾り』
窃盗犯としてマークされていたレントン。パーティーで転倒したレディ・ヴァロンからネックレスを盗んだと思われたレントン。レントンを追って船に乗り込み捜査に当たったコンウェイ警部。見つからないネックレスの真珠。伝書鳩の秘密。
『完全なアリバイ』
被害者はダイイングメッセージを残すが、容疑者はその時間歯医者で抜歯をしていた。思考機械の罠。
『赤い糸』
ガスにより4回も狙われた男。同じアパートに住む女性がガスで死亡。
2007年3月17日購入
Posted by ブクログ
『思考機械(シンキング・マシーン)』は、本名を「オーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン」といい、哲学博士(PH.D.)、法学博士(LL.D.)、王立学会会員(F.R.S.)、医学博士(M.D.)、そして歯科博士(M.D.S.)といった、肩書きと名前とでアルファベットの殆どを使ってしまうという、驚くべき人物である(それにしても、長い名前だこと)。
1887年に誕生した、シャーロック・ホームズの人気を皮切りに、各国から、それに続けとばかりに現れた個性的な推理ものの中に於いて、この思考機械シリーズは、1905年の『十三号独房の問題』で初登場し、その彼自ら刑務所の独房内に入り、そこから見事に脱出してみせるといった、彼自身の知識の豊富さに基づく観察眼と発想を転換させる天才ぶりに、サバイバル要素も加わったストーリー展開が斬新で、それは、本書の「《思考機械》調査に乗り出す」にも感じられた、探偵自身が窮地を脱するようなワクワクさせる面白さがあった。
しかし、そのイメージがあまりに強すぎたのか、本書の短編十一作を読んだ率直な印象としては、割とオーソドックスな型に感じられ、誰にも解けないような謎に興味を持つ思考機械が、時に新聞記者の「ハッチンソン・ハッチ」(彼も思考機械の魅力に取り憑かれた内の一人)を情報収集役にし、安楽椅子、フィールドワークとやり方は様々でありながらも、やがては論理的思考によって、事件を解明していく、よくあるパターンといえばそうである。
また、謎の中には彼の肩書きを象徴するような、理系のそれの分かりづらさや、中には、伏線に無い後付けしたようなものもあって、読者が共に読みながら謎を解明していくには、やや合わないかもと感じたが、それでも1900年代に、このような今でいうところのオーソドックスな型を作り上げた功績は、凄いと思う。
そして、そこにフットレルならではのストーリーテリングが加わることで、事件の謎を解く物語としての面白さは充分に感じられ、特に、同じ叙情的文章を二度掲載したこと自体が伏線となっている、「完全なアリバイ」や、金庫破り専門の男ドーランが妻の為に、警察が押し掛けてくるまでに如何にして大金を隠すかといったスリリングさも読み所の、「茶色の上着」は良かった。
更に、フットレルの描き方で印象深かったのが、犯人の中にある人間の汚さや真意の読めない恐ろしい部分であり、その、時に思い切った非情なさまは如何にして、心の中で形成されたのかといった点に惹かれたのが、「情報洩れ」や「余分の指」であり、特に前者の、他人の信頼をいいことに飄々と日常生活を送っていた、その心理状態は全く理解出来ないものがあったが、そうしたものも含めて人間の複雑さなのかもしれないと、思わせるものがあったのも、確かであった。
それから特筆すべき点は、ホームズとはまた異なる、思考機械の探偵像であり、その興味のある謎の話を聞いている時の彼独特の仕種、椅子に座りながら細長い指の先をつき合わせ、斜視ぎみの目を天井に向ける様子や、スティーヴン・スピュリアによる表紙の彼の絵もそうだが、中でも、彼の生き様を表しているものとして、『二プラス二は四であるのは、つねにそうである』の台詞に裏付けられた、論理的思考に対する絶対的な自信であり、時にはそれによる頑固な一面も見られたが、『想像だけで論理操作の半ばが達成される』や、『あらゆる疑問点の答えを得るまでは、謎が解けたなどというべきでない』といった、考える事や、どこまでも丁寧に手抜かりなく一つ一つ追っていく事の大切さを唱えており、決して自信過剰なだけでは無い、直向きな真面目さこそが、彼の真の持ち味なのだと感じ取れた。
そして、それは物語で依頼人から届いた小切手も、身体障害児童収容ホームへ送付させる、彼の、謎自体が報酬であると認識している、その優しい人柄からも感じられて、そんな彼の人柄はそのまま、タイタニック号の遭難事故で、妻を救命艇に押しやり、自分自身は船に留まって海底に没した、フットレル自身のそれを表しているようで、なんだか切なくなってしまったが、おそらく確固たるものを内に抱いていた方なのだろうと思わせる、彼の人間性があったからこそ生まれた物語なのかもしれないと考えると、また違ったものが見えてくるような気がしてならない。
Posted by ブクログ
「ありそうもないことだとおっしゃるならともかく、不可能という言葉は、ぼくの前では口になさらないでください。神経に障りますから」正義や報酬のためではなく頭脳の体操として事件を解決するヴァン・ドゥーゼン教授は、チェスの世界チャンピオンとのゲームで15手先を読んで王手と言い「思考機械」と呼ばれるようになる。その活躍談11編収録。若い女性が傷ひとつない指を切断してほしいと医者に訴える出だしが奇想な「余分の指」や幽霊屋敷での大がかりなトリックが面白い「焔をあげる幽霊」など。
Posted by ブクログ
東野圭吾のガリレオが好きな人は一読の価値有り。1905年ジャック・フットレル著『思考機械』が酷似しています。哲学博士&法学博士&王立学会会員&医学博士&歯科博士・・・のヴァン・ドゥーゼン博士の頭部は大きく異様という下りは異なるけど。
Posted by ブクログ
代表作「十三号独房の問題」を含まない短編集
書かれた時代を思えば仕方ないかもしれないが
標準作であるもののそれ以上ではなく
これ以上が前記ひとつでは埋もれてしまうのもいたしかたなしか