あらすじ
多くの人は、オークションに出品された有名な絵画の落札額に驚愕したり、困惑したりしたことが少なからずあるはずだ。なぜ人びとは困惑するのか? その根源には、値段が付けられる「プロセス」の不透明さがある。
本書では、アート市場という特殊な交換の場におけるゲームのルール、「意味の交換システム」の存在を明らかにする。そして、経済学的理論モデル、インタビュー、データ分析、さらに参与観察などの社会学的方法を用いて、その特徴を分析していく。
経済学では、商品の値段は単なる値だが、それは芸術家とその作品に「象徴的意味(信頼・名声など)」をもたらすだけでなく、アート市場の根幹をなすものでもあるのだ。
◆目次
まえがき
序章 イントロダクション――アートの価格は単なる数字ではない――
1章 アート市場の構造――芸術はいかに商品化されるのか――
2章 意味の交換――支援と感謝の気持ちを交換する――
3章 後援者VS便乗者――ギャラリーとオークションはなぜ相容れないのか――
4章 価格の決定要因――統計分析からみるアートの諸要素と価格の関係性――
5章 値付けの技術――ディーラーは実際にどのように価格をつけるのか――
6章 価格の物語――価格はどのように正当化されるのか――
7章 価格の象徴的意味――価格に込められた意味を読み解く――
8章 結 論――価格が私たちに語りかけること――
付録A/インタビュー質問票 付録B/インタビューサンプルの解説
付録C/美術品価格の記録 付録D/美術品価格のマルチレベル分析
参考文献 索引
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Posted by ブクログ
副題の「現代アート市場における価格の象徴的意味」ってテーマをインタビューと統計を組み合わせで明らかにしようとしている意欲的な研究です。おととしだったか…サザビーズで25億円で落札されたバンクシーの絵が落札されたあとすぐシュレッダーされたというニュースが衝撃を与えましたが、そういう派手なオークションでの価格決定とは一線を画すギャラリーとアーティストとコレクターの三角関係のお金物語です。アートの値段を決めているシステムにオークションとディーラーの二重構造があることさえ知りませんでした。新自由主義が突き進み、資本主義のこれからが不透明になっている今、需要と供給で決まる「交換」の経済ではなく、「贈与」という経済なのではないか?と思い、ついつい「贈与」というキーワードについた本を手にしています。はからずも、実は本書もその流れでに乗っているような気がしました。贈与経済的なコミュニティとかネットワークとか数字ではないヒューマンファクターが大きな役割を果たす経済。「アートの経済」はポスト資本主義?それにしてもモヤっとした世界…。読み終わってから、最近読んだ別冊太陽の「石田徹也: 聖者のような芸術家になりたい」が気になりました。評価されつつもバイト生活で画材を買いながら貧困のうちに早生したアーティスト。村上隆を厳しく断罪するアーティスト。日本を離れアメリカで創作活動をしたかったアーティスト…彼が求めたのはこの本で書かれるギャラリーとコレクターとのコミュニティに入ることだったのでしょうか?この本を読んだからではないのですが俄然、現代美術館でやっているホックニー展行きたくなりました。ずっと静かに絵を描き続けられる人生に触れたくなりました。
Posted by ブクログ
現代アートの価格がどのように決められていくのか、ギャラリーとオークション(プライマリーとセカンダリー)の関係、伝統的なアートと現代アートのギャラリーとディーラー、アーティストそれぞれの考えや、芸術と商業性をどのように捉えているのかなど、社会学者による博士論文。
高価格を目指すオークションと異なり、必ずしも利益の最大化や販売の為の値下げをしない業界どのようなルールでそれを行なっているのか、商業以上に価値感の守護、贈り物の意味、生活の糧を超えた価格の象徴的な意味など。
Posted by ブクログ
アート市場における作品の価値、そして金額についてギャラリーととオークション市場の関係を含めて、インタビューを通して深掘りしていく興味深い一冊。