あらすじ
松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが(「みなも」)。いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、息子の清澄は扱いづらくなるばかり。そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とは(「愛の泉」)。世の中の〈普通〉を踏み越えていく、清々しい家族小説! 第9回河合隼雄物語賞受賞作品。
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Posted by ブクログ
思ったより面白くて、共感できる部分も考えさせられ
る部分も多々あった。
今流行りのジェンダー云々の話ではなく、常にそこら
辺に転がってる「○○なのに△△っておかしい」という
他人の目と価値観。
それをものともしない清澄が強い。
思い切って友達に正直に話してみると、友達の方も何と
も思ってないという意外な反応。
そういうものだと思う。
いらない干渉をしたり「おかしい」と決めつけてくる
人はいるかもしれないけど、大体はその場限りで、多く
の人は他人の好きにそんなに興味はないと思う。
水青の場合は少し特殊で、仕方ない。
誰だってああいう経験をしたらトラウマになる。
二人の父親だって悪い人じゃない。誰にでも向き不向き
があって、彼は「一般的な父親」という役に不向きだっ
ただけ。(さつ子が「○○すれば」と期待し続けた気持ち
はよくわかる。でも人って変わらないのよね…)
全には全なりの父親の形があるのかもしれない。
全が名前の由来を説明したときには涙が出そうだった。
彼の子供たちへの想いが伝わってきてとても良かった。
清澄が黒田に何気なく贈った言葉も良かった。
優しいなぁ。黒田の人柄だね。
気持ちが温かくなる家族の話でした。
皆が自分らしくいられますように。
Posted by ブクログ
水青は、過去の経験から「かわいい」を生活から削ぎ落とす。
そんなことで、って言われるのが怖い。
あなたが悪い、って言われる恐怖から、かわいいを遠ざける。
でも、その中でも紺野さんとの結婚で気づいたこと。
「かわいい」は、「好き」ってこと。
全の世界観はとっても素敵。
でも共同生活には向かないってこと、そうそう!って思いながら読んだ。
さつ子の「精一杯」と、もっとやれたんじゃないかという後悔。
普通、から外れるのを嫌う。それは、傷ついてほしくないから。
「わかるよ」の共鳴以外が怖い、そんなさつ子。
男と女、比べちゃならぬと心に決めている段階で、
その思想は消えてはくれない。
男と女で分けられた、苦い思い出。
旧友との再会をきっかけに、踏み出すことを思い出した、文枝。
家族というほど近くはないけど、
でもずっと一定の距離に居る、黒田。
全をずっと見守っている、そんな黒田。
女になりたい、そんなわけじゃない。ドレスを着たいわけじゃない。
でも、ドレスが好き。裁縫が好き。裁縫に魅了されている、清澄。
清澄、水青、さつ子、文枝、黒田、そして全。
松岡家の周辺を、ふんわりくるむ物語。
寺地さんの紡ぐお話は、不思議と、
経験したことないのに気持ちがありありと浮かぶ。
Posted by ブクログ
【男らしく、女らしく】そういう時代ではなくなった。無意識のうちに決めつけた発言をしてしまわないか気をつけようと思った。男女に限らず年齢や立場など、自分以外の誰かから決めつけられた〇〇らしく〜じゃなくて【自分】が大切。黒田縫製社長の視点が一番じんわりきた。子どもにとって両親以外に相談ができる大人の存在って大きい。大人になって、誰かの世話を焼いたり、頼りにしてもらえる子どもとの関係を築くことが、自分が自分でいられる、真っ直ぐに立っていられるような張りを与えてくれるんだな。あなたの決めたことを応援し、支える、見守る。大事だね。それはそれは美しいドレスができて満足でした。