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Posted by ブクログ
アガサクリスティではなく、メアリウェストマコット名の作品。
英語の題名はGiant's Bread「巨人の糧」。
幼馴染と男女の友情、従姉妹兄弟と叔母・叔父。
母親と父親。戦争と平和。
イギリスとドイツ。ユダヤ人とロシア。
音楽と美術。ピアノとオペラ。
相対する様々な関係が織り成す物語。
主人公も、男からその妻。戦士したはずの夫と遷ろう。
未完の肖像、春にして君を離れ、マン島の黄金
など、ミステリでない作品の方が、好感が持てた。
ただし、アガサクリスティの作品だと知らなかったら、読まなかったかもしれない。
Posted by ブクログ
巡りあい別れゆく運命の人たち。
お屋敷の少年ヴァーノン・デイアは、音楽が苦手だった。活発な従姉妹ジョー、隣のユダヤ人少年セバスチャン、大人しい美少女ネルと育っていくヴァーノン。彼が音楽に目覚め、オペラ歌手ジェーンと出会い、4人の幼馴染とジェーンをめぐる人間関係は変わっていき——財産、戦争、才能に翻弄される愛の大河小説。
ラストまで読んだら、必ずプロローグに戻りたくなる。そしてプロローグを読み返してため息をつくだろう。クリスティーはこういう話も書くんだ、というのが第一の感想。ロマンティックが濃厚に詰め込まれ、運命の波に一緒に翻弄された。翻弄され続け、失い続けたヴァーノンが、作り上げた《巨人》という賛否両論の楽曲。家も愛する人も名前も失った、一度は音楽も失った末に、彼がたどり着いたところ。芸術のエネルギーと狂気を感じた。
個人的にはネルの葛藤がわかりやすいというか、いくら女性の社会進出が進んでも、時代を超えて存在する人物像だと思う。貧しさに苦しんでも愛する人を選んで、けれどその夫は死んでしまった。だったら、手を差し伸べてくれた優しいお金のある人に身を委ねてもいいだろう。けれど、夫は実は生きていた。今更あの貧しい暮らしには戻る勇気が出ない。大抵の人が、ネルの立場ならネルと同じ選択をするのでは。ネルを好きだという人は少ないだろうけど、共感したりどきっとしたりする人は多いだろう。私はそうだ。
ジェーンのような人間は、あまりに理想的すぎて存在しないだろう。誰の理想か。ジェーンに愛されるヴァーノンの? クリスティーの? ネルのように男性に振り回されるのではなく、自分が男性を選び、動かしていく女性ジェーン。個人的にはネルくらい普通の人間なので、ジェーンがライバル側にいるのは怖い。ジェーンみたいに生きたいかというと、あまりそうも思えない。ジェーンの内側がよくわからないまま、彼女は去ってしまうから。
親友セバスチャン・レヴィンについて。ユダヤ人というコンプレックスがどれほどまでかは自分にはわかりえないが、自分のお金に対する才能を信じ、活かし、親友のために色々と尽力するところは好きだ。一定の成功は手に入れている。しかし、順風満帆ではもちろんないし、ずっと幸せかというとそうでもない。けれど、報われた、といってもいいのではないか。抱えた痛みは血を流し続けているのかもしれないが。彼を評価するのは難しい。