あらすじ
東アジアのアートが照らし出す五つの物語。その一つ一つが大切な人との繋がりを浮かび上がらせる。世界の「今」を感じさせる小説集!
【ハングルを追って】
ハングルが書き込まれたアドレス帳を拾った美大事務職の江里子は、油画科の親友に相談し、ソフィ・カルにちなんで韓国へ行ってアドレス帳の持ち主を探すことに……。
【人形師とひそかな祈り】
伝統の御所人形を作り続ける正風は子どもにも弟子にも恵まれず、そろそろ工房を畳もうと考えていた。そんな折、フィリピンからの留学生を紹介され心を開いていく……。
【香港山水】
現代水墨画家の成龍は、コレクターたちのパーティに駆り出される。そこで本土の実業家の夫人・美齢と出会い、デモ隊と警察が衝突する混乱のさなかに二人は再会し……。
【写真家】
有名な写真家だった父が、記憶をなくして海外から帰国。娘は世話をしながら、母から写真家としての父の話を聞き、生涯を辿ることになる。知らなかった真実がそこに……。
【光をえがく人】
ミャンマー料理店の店主に、自国の政治犯についての話を聞くことになった。学生のころ反政府運動に加わって投獄され、劣悪な監獄生活のなかでの奇妙な体験とは……。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
『沁みるアート。』と帯にある。見事な単語の選択。自分の中に沁みて行く、竹の様なしなやかさと確固たる生き様。
思わず、自分のルーツを再確認したくなる。そして、自分の来し方も。こんな風に光を見上げて生きて来たか?影に向かって心を騙してはいなかったか?
人形師のように、胡粉を乗せそっと布でぬぐい、何度も繰り返し、ほのかに光る文章を削り出している作品。『神の値段』から読んでいるが、ここまで心を動かされたのは、初めてだった。
Posted by ブクログ
一色さゆりさんは、東京藝術大学卒で香港中文大学大学院を修了されています。この本は、彼女が東アジアの芸術についての造詣も深いことが伺えました。この作品は、アートと生きざまを感じることができる五つの短編集です。
【ハングルを追って】
淀川の遊歩道のベンチに置かれていた一冊のアドレス帳。ハングル文字で綴った持ち主を探すために、美大の事務職の久崎江里子と油画科の助手の早瀬海子が韓国へ向かいます。
韓国と日本。過去の両国の関係と朝鮮戦争がもたらしたことが、いまでも根強く残っています。アドレス帳の持ち主の人となりが明らかになるも、その家族の思いはまた別のところにあるという、複雑な感情を感じました。そのあとに、韓国にルーツを持つ助手の女性の作品と、アドレス帳の持ち主の家族からの手紙に心からの思いを感じました。読後感がとてもよかったです。
【人形師とひそかな祈り】
人形師、若柴正風が作る御所人形には、不思議な力があるという噂が······。子供の災難を取り除くといわれているのだが、当の本人にはそうとは思えない過去がありました。
フィリピンの人形と日本の人形、両方ともに思いが込められたものには、本当に不思議な力があるのかもしれません。優しい気持ちになれる作品でした。
【香港山水】
デモ隊と警察が激しくぶつかり合う香港。香港の闇と個人的な闇のなかに、光が見えてくるのかと、今に繋がる重い問題が書かれていました。闇のなかの光を描くといわれている一人の水墨画家と関わる人たちとの物語でした。香港は華やかさだけではない場所であることを心にとめておきたいと思いました。
【写真家】
モンゴルで記憶喪失になった写真家の父親。長い間離れて暮らしていた姉妹が、再会した父親を写真を通して受け入れていく物語。
親子だからできる許しのような気がしました。
【光をえがく人】
元日本一暑い町のミャンマー料理店に飾られた絵を巡る店主の過去の話が語られていました。ミャンマーの複雑な国家事情とともに、そこでどのような思いで生きてきたのかを知ることができました。未来のために残そうとしたものを壊さなければならないということに、複雑な思いを感じました。