【感想・ネタバレ】サミュエル・ジョンソンが怒っているのレビュー

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Posted by ブクログ

一行で終わる小説を含む、ブラックジョークと妄想力に溢れた短篇集。


小川洋子の『原稿零枚日記』みたいな小説を読みたくて、久しぶりにリディア・デイヴィスを手に取った。『原稿零枚日記』は根暗の奇行と妄想が炸裂して岸本佐知子のエッセイを思わせるのだが、岸本さんの訳業のなかでも特に岸本エッセイに近しい世界観を持っているのがデイヴィス(とニコルソン・ベイカー)じゃないだろうか。
思惑は見事的中した。特に「甲状腺日記」は気分にぴったりだった!このマシンガントーク。かかりつけの歯科医との変な関係。病気から広がる妄想。物忘れは酷くなるばかりなのに、不謹慎な連想は止まらない。『分解する』を読んだときよりずっと文章にのめりこめて、歳を取るってリディア・デイヴィスがどんどん面白く感じられるようになるってことかも、とウキウキした。
デイヴィスは日々つけているネタ帳から短篇を作りだしているそうだが、実際に他人のノートを盗み見ているような生々しさがある。たぶん自伝的な事柄を書いているからというだけではなくて、ごっちゃごちゃに絡まったところまで含めて頭のなかで起きていることを文字で表すのが抜群に上手いからだと思う。
例えば「〈古女房〉と〈仏頂面〉」や「正しいと正しくない」はすごくR・D・レインの『結ぼれ』に似ているのだが、『結ぼれ』では数学的な繰り返しや図式で表現されていた感情を日常的なやりとりに落とし込んで笑えるコントにしている。それでいてレインと同じギリギリの緊張関係も表しきっている。だからこそ「ボイラー」のような話がポンと置かれたとき、笑いと悲しみと諦めと優しさがじわじわ滲んでくるような書き方もできるのだろう。
岸本訳だと訳者あとがきで岸本さんの文章まで読めるのがお得だ。デイヴィスの「とめどなく膨らんで小説化した遺書」、読みたすぎるからそれをそのまま出版してほしい。

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2024年05月19日

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