【感想・ネタバレ】サミュエル・ジョンソンが怒っているのレビュー

あらすじ

「小さな黒いノート」に記録された実生活の断片

『分解する』『ほとんど記憶のない女』につづく、「アメリカ文学の静かな巨人」の3作目の短編集。内容もジャンルも形式も長さも何もかもが多様なまま自在に紡がれることばたちは、軽やかに、鋭敏に「小説」の結構を越えていく。作家が触れた本から生まれたミニマルな表題作「サミュエル・ジョンソンが怒っている」をはじめ、肌身離さず作家が持ち歩くという「小さな黒いノート」から立ち現れたとおぼしき作品など、鋭くも愛おしい56篇を収録。
「それらはいわば、彼女という人の「自分観察日誌」だ。[…]結晶となった言葉は硬く乾いてひんやりとして、元の感情からは慎重に隔てられているように見えて、目を凝らしてみると、行間から血のしたたるような感情が、生の痕跡が、透けて見える」(「訳者あとがき」より)。強靭な知性に支えられた作家の本領を味わえる1冊。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

たった一行にも満たないものから数十ページになるもの、物語というよりは断片としか形容できないものや、特殊な形式のものまで、作者が『短編小説である』と断ずるこの作品集には一見どうやって読めばいいのか戸惑ってしまうような短編が多数収録されている。
正直自分の知識と感性の未熟さで楽しみきれなかったものもあるけれど、全体としてすごくスリリングで、こちらが読もうとすればするほど冷静で淡々とした文章の奥から物語がとめどなく溢れてくるすごい本だった。
比較的長めの作品なら、執拗なまでに細かい描写と事実を淡々と書き連ねた文章を追う内に胸が痛くなるほどの激しい感情が湧き上がってくるし、極端に短い作品ならば、そのたった数十から数百字に込められた意味を見つけようとする内に思いがけない場所へ辿りついて驚きと喜びにおそわれることになる。
本を読むのって楽し〜〜〜を実感させてもらった。

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2024年12月14日

Posted by ブクログ

一行で終わる小説を含む、ブラックジョークと妄想力に溢れた短篇集。


小川洋子の『原稿零枚日記』みたいな小説を読みたくて、久しぶりにリディア・デイヴィスを手に取った。『原稿零枚日記』は根暗の奇行と妄想が炸裂して岸本佐知子のエッセイを思わせるのだが、岸本さんの訳業のなかでも特に岸本エッセイに近しい世界観を持っているのがデイヴィス(とニコルソン・ベイカー)じゃないだろうか。
思惑は見事的中した。特に「甲状腺日記」は気分にぴったりだった!このマシンガントーク。かかりつけの歯科医との変な関係。病気から広がる妄想。物忘れは酷くなるばかりなのに、不謹慎な連想は止まらない。『分解する』を読んだときよりずっと文章にのめりこめた。歳を取るってリディア・デイヴィスがどんどん面白く感じられるようになるってことなのかも。
デイヴィスは日々つけているネタ帳から短篇を作りだしているそうだが、実際に他人のノートを盗み見ているような生々しさがある。たぶん自伝的な事柄を書いているからというだけではなくて、ごっちゃごちゃに絡まったところまで含めて頭のなかで起きていることを文字で表すのが抜群に上手いからだと思う。
例えば「〈古女房〉と〈仏頂面〉」や「正しいと正しくない」はすごくR・D・レインの『結ぼれ』に似ているのだが、『結ぼれ』では数学的な繰り返しや図式で表現されていた感情を日常的なやりとりに落とし込んで笑えるコントにしている。それでいてレインと同じギリギリの緊張関係も表しきっている。だからこそ「ボイラー」のような話がポンと置かれたとき、笑いと悲しみと諦めと優しさがじわじわ滲んでくるような書き方もできるのだろう。
岸本訳だと訳者あとがきで岸本さんの文章まで読めるのがお得だ。デイヴィスの「とめどなく膨らんで小説化した遺書」、読みたすぎるからそれをそのまま出版してほしい。

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2024年05月19日

Posted by ブクログ

1行で終わる小説
しゃっくりをする人の口述筆記
問いが空欄で回答だけで書き進められるお話
などなど
とても自由に好き勝手に書かれていて
筆者は面食らってる読者を想像しながら
ニヤニヤ笑っているのでは?
訳者の岸本さんも相当ニヤニヤしてると思う

【面談】

妄想が炸裂!
読後感はなぜか爽やか
溜飲が下がる

【甲状腺日記】

生活のほとんどが甲状腺に支配されてる?
病気に囚われがちな自分を眺めているよう

【サミュエルジョンソンが怒ってる】

原文でも読んでみたい

妄想の暴走ぶりがそこここに垣間見える
お話が私は好きでした

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2025年07月12日

Posted by ブクログ

ネタバレ

本当に短い、一行や二行で終わる作品もあり面食らった。かと思えばグッと引き込まれるような少し長めの(とはいっても一行に比べれば長いという話だが)読み応えのある短編作品がポンと出てくるので気が抜けない。
「植字工アルヴィン」「北の国で」「ボイラー」「ミセス・イルンの沈黙」が好みだった。これらはすべて長めの作品。
ユーモアやひらめきに満ちているこの作家のおもしろみをすべて楽しみきるためには、もう少し私に人生経験が必要な気がする。

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2025年03月14日

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