【感想・ネタバレ】こどもホスピスの奇跡(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

非常に良かった!生きるとは何かを考えさせられる良書。

難病の子供たちの困難から、さまざまな家族の姿や海外の先進事例に学び、小児ホスピス創設に至る医療・保育関係者たち。

盲目的に苦痛をもたらす治療を強いるのではなく、患者の人生によりそい、短くとも人生をよりよく生きることに向き合うためにどうするかを考える。その奮闘の姿はすばらしく、日本初の小児ホスピスの草創譚としても読みごたえがある。

海外に専門知識を学びに行った関係者たちも、また、シンポジウムで共鳴して仲間が増えていく様子も素晴らしい。が、さらに印象的なのは、エピソードに出てくる短い生涯を生きた子供たちだ。それぞれ個性があり、魅力的・印象的である。

(誰しも長く生きたいのはもちろんではあるが)必ずしも生の長さだけに価値があるわけではなく、短くとも精一杯素晴らしい思い出を作り、満足することが、本人や周囲の幸福感のある生につながってゆく。18歳までの短い生涯であっても、社会を変え、周囲にも多くを与えながら精一杯生き、周囲に何かを残し、今も皆の中に生きている青年もいる。わずか4歳でもたくさんの思い出を持って旅立っていった子がいる。幸福とは、人生とは、ということを何度も考えずにはいられない。

本書を読み、まったく世界は異なるが、以前読んだ『夜と霧』の世界観に共通するものを感じた。「今いる場所は本来の場所ではなく、ここから出たら本当の自分の人生が始まる」のではなく、「今、ここ」なのだ。病を得ていても、不本意な場所で今日明日の生がどうなるかもわからない中でも、私たちは今、ここに生きる。苦しい病との闘いや、短い生のなかでも、人間らしく幸福に生きることができた事例が本書には記されており、長生き=幸せという一面的な価値観を転換してくれる。(もちろん長生きできればそれに越したことはない。ただ、たとえそうではなかったとしても、幸せでなかったとは言い切れないのだ。)

そして、その幸福を周囲が手助けすることもできるのだ。ささやかなアルバム、大好きなキャラクターからのメッセージ。ピクニック。ささいなことでも、大きな幸せを生み出す。抗えない短い生に対して何もできないと無力感を持つのではなく、小さなことでも力になれるエピソードが紹介されている点にも、勇気づけられる。

本書では幾多の子供たちの短い生涯が記されるが、その生は関係者にも影響を与え、その後の子どもたちの療養に生かされ、親族の記憶にも残り続ける。生は個人のものであるが、かつ、リレーのように社会に継がれていくものでもあることも感じた。

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2024年03月28日

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