【感想・ネタバレ】ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラスのレビュー

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Posted by ブクログ

・フランチェスカ・T・バルビニ&フランチェスコ・ヴァルソ「ギリシャ SF傑作選 ノヴァ・ヘラス」(竹書房文庫)を読んだ。中村融による「訳者(代表)あとがき」 にかうある。「ギリシャSFと聞いて、驚かれた方も多いだろう。ギリシャにもSFがあったのか、と。じつは筆者もそのくちだった。」(267頁、「く ち」に傍点あり。)これがギリシャSFの状況を如実に表してゐるらしい。ほとんど誰もが知らないのである、ギリシャにもSFがあることを。本書自体が 英語からの重訳である。本書の序文「はじめに」にギリシャSFの歴史が書かれてゐるが、 これが日本語版のための書き下ろしであるらしい。これが英語版にも付されるやうになつたのは、英語版を読む人にとつても事情は同じだからであらう。知らないのである、ギリシャSF。実際問題、ギリシャで SFが盛んになるのは21世紀に入る頃かららしく、それ以前もごく散発的には書かれてゐたらしい。せいぜい20年くらゐの歴史しかないと言へさうである。ギリシャの国内事情があるにせよ、これは極めて珍しい事態である。言はばギリシャSF の出発点にほとんど世界中が立つてゐるのである。本書に表題作はない。「ノヴァ・ヘラス」は「はじめに」の最後で触れてあるのみ、ヴァッソ・フリスト ウ「ローズウィード」を巻頭に 計11編収録である。私の知る作家はもちろんゐない。すべて初めて読む作品と作家ばかりで ある。
・ディミトラ・ニコライドウ 「はじめに」にかうある。「『α2525』が書かれた時期の厳しい経済情勢とギリシャ の激動の歴史を考えれば、著者の大半がディストピア的未来を夢想し、過酷な時代の到来を描いたのは不思議なことではない。」(11頁)「訳者(代表)あとがき」には「ギリシャの現状が色濃く反映されている。その意味ではディストピア SF集といえる」(270頁) とある。つまり、本書は誰が読んでもユートピアは描かれてゐない。描かれるのはディストピ アである。それでも「作家たちが語りに工夫をこらしているの で、陰々滅々とした話がつづいても意外に飽きずに読める。」(同前)とある。これが救ひではあらう。イアニス・パパドプルス&スタマティス・スタマトプルス「蜜蜂の問題」は「生きている蜜蜂の存在する場所」(100頁)は博物館だけとな り、ドローンがその代はりとなつてゐる頃の物語、主人公はその壊れたドローンを買ひ集めて 修理してゐる。ある日、本物の蜜蜂が存在すると知り……当 然、主人公は蜜蜂を見つけようとする。さうして「火事だ!」 「アクラムとクリスティナは死んだ。」(114頁)目的達成である。問題はこの後、「今日の議題はまったくの別件です」「この子はアクラムの娘、アシルです」(116頁)主人公は己が罰を覚悟する……普通はさうなりさうなものである。ところがさうならない。ある種のブラックユーモアのやうにも思へるし、私達の普通の思考ができない時代だからかもしれないとも思ふ。しかし、これが「ディストピア的未来を夢想し」てゐるものなのであらう。先に出た ニコライドウ、その「いにしえの疾病」には「やまい」のルビ がつく。そのやまひは漏失症といふ。要するに年を取つて衰弱死する疾病である。70や80は短命、人は300年以上生きるらしい。「病み衰えていくのはごめんだ」と言ふ医師、場所は山の中、そんな時代とやまひに抵抗する人達がゐた。これはこれで桃源郷の物語かもしれない。短編だからか、それ以上にギリシャといふ国と時代だからか、「1984」とはずいぶん違ふ。「華氏451度」の焚書が好ましくさへ思はれる短編集、これがギリシャのSFかと思ふ。

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2023年07月18日

Posted by ブクログ

ギリシアのSFと言われても、全く想像できない感じだが、ぱっと見は英米のSFと変わらない。序文によると出発点はアメリカSFの輸入だったそうなので、当然だろうか。ただ、アイデアの使い方なんかを見ると、むしろ日本SFに似たテイストを感じる。あくまでも感じだけれど。反面、これもあと序文にあるようにディストピア的な世界観に対して、登場人物のへこたれない感じがすごい。元から社会や政府に対して、ろくに期待してないんだろうなあなどと決めつけてしまっては、ギリシアの人に失礼かも知れないが。

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2023年04月20日

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