あらすじ
早まる台湾有事を警告した2022年8月刊の話題書、第一人者による邦訳完成!
・2020年代が米中新冷戦の最も危険な時期(デンジャー・ゾーン)で、台湾侵攻の最悪の事態に備えるよう説き、ワシントンに衝撃を与えた。
・経済減速と戦略的包囲網に直面する中国共産党にとり、時間が味方だった環境は急速に変わりつつある。
・「チャンスの窓」が閉じる前に行動しないと間に合わない、という焦りと誘惑。国力のピークを迎えて将来の手詰まりを自覚した大国が最も攻撃的になる「ピーキングパワー」の罠。
・ピークに達した中国に先んじるために、日米はさらに多くのことをさらに素早く行う必要がある。その具体的な内容を完全解説!
・デンジャー・ゾーンの「最初の短距離走の10年間で素早く大胆な政策を打っておかないと、その後の(米中冷戦での)長期戦の構造が決まってしまう」(訳者あとがきより)
・台湾有事で大きな被害を受ける日本は「デンジャー・ゾーンの脅威を、アメリカ以上に深刻に受け止めている。日本は21世紀において、ワシントンが最も頼りにする『20世紀のイギリス』のような同盟国になろうとしているのだ」(原著者まえがきより)
・「トゥキディデスの罠」「100年マラソン」よりも、危機はずっと早く来る。
ベストセラー『米中もし戦わば』(ナヴァロ)『China2049』(ピルズベリー)『米中開戦前夜』(アリソン)を越える衝撃作!
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Posted by ブクログ
アメリカの若き戦略家であるハル・ブランズ氏とマイケル・ベックリー氏の共著を奥山真司氏が訳したもの。
論旨としては、情勢分析と処方箋の二つに大別されると思う。
冒頭の4章までで、いわゆるトゥキディデスの罠的な台頭する国と老成した大国の対峙が危険なのではなく、台頭する国がピークアウトした後こそ危険であり、機械の窓が閉じないうちに行動に移すことこそ危険としており、過去の例として1914年のドイツ第二帝国、1941年の大日本帝国を挙げている。この中で、2027年頃が危険だという説について、中国側の事情だけではなく、米海軍・空軍のアセットが2020年代後半にかけて大量退役して復活までに時間を要すること、台湾側の体制が整わないことも併せて挙げているのは興味深い。
その上で、5章で中国政策を分析し、対中政策を論じる前提として6章で冷戦時代の対ソ戦略を解説している。その前提に立って対中政策を論じているが、まず、2020年代後半をデンジャーゾーンとして、そこに対しては今ある手段で対抗するような短距離走的な処方箋が必要となり、それにより紛争を抑止して次のフェーズに繋げることを提唱し、そこを乗り切ることがまず大事であり、次のフェーズ自体も冷戦のような長期戦を見据えて同盟国・同志国の枠組み、技術の囲い込み、軍事費の強化などの手を長期的に打っていくことを慫慂している。
いずれにしても日本がこれに無関係な訳はない。本書でも、短期的には、琉球諸島への長距離ミサイルの配備などのプレゼンス強化、長期的にも軍事物資の補給拠点としての役割など現行の安全保障政策を超えるアイデアが盛り込まれている。実際にそこまで踏み込むかどうかは別として、日米間での相当な政策調整が必要となってくる。
短期〜長期の対中政策を考える土台として非常に参考になる文献と思う。
Posted by ブクログ
米中冷戦は長いマラソンだなんて思ってると、最初の100mで負けるよ!と言う警告の本。
ホントそれな
勃興する大国と既存の大国が衝突するトュキディアズの罠はまちがいで、勃興してきた新興国が、既存の大国を抜くチャンスの窓が閉じる瞬間が危ないという警告には、それなりの説得力がある。
そして、中国は人口オーナス期に入り、その警告に当てはまる。
従って、この十年弱の短距離走を全力で走って中国の野望を未然に防ぎつつ、あるべきゴールを装丁して長距離走を走らねばならない。失敗すると中国の暴走で日本は多大な迷惑を被るよ。よ。
Posted by ブクログ
台頭する中国との武力紛争の危険性もしくは中国が暴発する危険性は、既存の大国(米国)の地位に新興国(中国)が挑戦することによる「トゥキディデスの罠」ではなく、衰退し始めたことを自覚した新興国が最後の機会に賭け無謀な軍事的手段に訴える可能性によって高まる、という主張。
人口(特に労働力人口)が減少に転じ、失政により経済成長が鈍化している中国の現状はまさにその条件に当てはまる。
その中国に対抗するには、民主主義諸国の団結、理想的にはそれらによる新たな国際機関の設置、短期的に有効な防御手段の実施、長期的に中国の弱点を攻めつつ弱体化を図る等々の対応が必要だと、的確に指摘されている。
朝鮮戦争を経て極度に高まった共産圏に対する危機感と比べれば現状のものはまだ緩いが、状況の厳しさは当時に劣らないという認識を持って当たることが日本を含む各国に求められている。
現状分析、将来のリスク評価、短期・長期の対抗原則・手段など、バランスよく、的確にまとめられた良書。