【感想・ネタバレ】近代出版史探索のレビュー

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Posted by ブクログ

とんでもない本、とてつもない本。とにかく読み終わるのに一か月近くかかってしまいました。書名の通り、明治以降の本の歴史を作者の膨大な読書体験から思いつくまま、思い出すまま、まるで彼の脳の中のシナプスが発火するがままに彷徨い歩きます。知らない本、知らない作者、知らない出版社の知らない情熱が、また次の知らない出版に繋がっていく繰り返し。シナプスという言葉を使いましたが、まさに出版界の細いニューロンとニューロンを繋いで神経系をたどっていく感じ。時々、知っている本、作家が出てくるのでそこでなんとか息継ぎできるのでなんとか進んでいけます。最初は密やかな性の世界から始まり猟奇、犯罪、探偵小説へ。それが宗教、政治、社会主義、ファシズム、パリ、ドイツ、はてまた健康法、さらにはエミール・ゾラへとあれよあれよと領域が広がって、どんどんページめくるのも加速度がついていきました。いかに近代社会というものが印刷物によって欲望されたか、がよくわかりました。実はこの本、新聞の書評で「日本の書籍流通の未来へのヒント」と書かれていることで手にした本なのです。出版不況と言われ続け、立ちいかなくなる書店、取次、出版社がどんどん出てくる中で、そのシステムがどうやって生まれたのかを遡ることで、未来へのヒントを探す、という作者の試みは興味深く、そしてその探索は成功しているように思えます。ひとつは円本ブームが本という商品の大ブレイクを作る、一歩手前の国民文庫刊行会の販売システムのような「全集類の読者を対象とした予約出版形式」への着眼。もうひとつは啓蒙的な上部構造としての出版に対比される「娯楽、健康、療養、ガイド、宗教、占いといった民間出版物を主体」とした赤本といわれる下部構造の出版物の流れの発見。まさに今、危機と言われるのは出版社・取次・書店という近代出版流通システムの危機なだけで、出版というコンテンツに対する欲望はこれからも存在し、ビジネスになりうるという楽観を受け取りました。ところで自分にとっては初めての作者だと思ってずっと読み進めたのですが最後の方に、本書を執筆するきっかけが『〈郊外〉の誕生と死』を書いた際に、ゾラに突き当たったこと、と打ち明けられていて、彼の二冊目だったことに気づいたのでありました。小田光雄、要チェックです。

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2020年04月10日

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