【感想・ネタバレ】臨時軍事費特別会計 帝国日本を破滅させた魔性の制度のレビュー

あらすじ

臨時軍事費特別会計制度──それは戦争の勃発から終結までを一会計年度とするものである。この制度は一般会計とは異なり議会のチェックを実質的にはまったく受けることなく、日銀に国債を引き受けさせて、戦争の続くかぎり戦費を無尽蔵に調達できる「打ち出の小槌」だった。統帥権や軍部大臣現役武官制ほど知られることのない、この「日本を破滅させた制度」の実態に迫り、日本人の欠点を抉り出す。


●ある時代にあっては意味があり、有効であった制度設計が、その後意図せざる国家の破滅の準備をしてしまうことがあります。戦前の大日本帝国の場合、それは三つあったと考えられます。

(1)政治の容喙をいっさい許さない統帥権
(2)倒閣の道具にされ、軍部をのざばらせることになった軍部大臣現役武官制

についてはよく知られているところですが、もうひとつ、こうした軍事面とは別に、

(3)戦争の勃発から終結までを一会計年度とする臨時軍事費特別会計制度

があります。この制度は一般会計とは異なり議会のチェックを実質的にはまったく受けることなく、日銀に国債を引き受けさせて、戦争の続くかぎり戦費を無尽蔵に調達できる「打ち出の小槌」でした。カネがなければ戦争はできません。この制度あるがゆえに、軍部は戦線を次々に拡大してゆきました。
満洲事変から日中戦争(支那事変)にかけて、日本の景気は上向きます。国民もメディアもこれを喜んだことは事実です。しかし、戦争が続き、ついには対米戦争に突入すればすべては破綻します。臨時軍事費特別会計はいつしか国家財政の枠を超え最終的には敗戦後の超インフレを引き起こすことになります。このことへの深刻な反省が、戦後日本において国債の日銀引き受けを「財政の禁じ手」としたのです。
いま、その「禁じ手」が解かれようとしています。暴走する財政、それをチェックできない議会、一時の好景気に幻惑されるメディアと国民を待つ運命はどのようなものなのか。
本書は従来あまり指摘されてこなかった制度と、その「魔性」について紹介し、歴史の教訓について考えます。

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Posted by ブクログ

 この本は『極東国際軍事裁判速記録』で読んだアメリカ国務省が提出した検察側資料を想い起させる。
 この裁判で検察側は1931年から1941年にかけて公表された大日本帝国の各年毎の一般会計予算総額と陸海軍予算総計を統計表で示し、開戦に至るまでの10年間は軍事費は常に総予算の50%以上、それも年を経る毎に増大し、開戦の年の1941年には実に75%に昇ったことを明らかにして、日本側の弁護団を大いに慌てさせたのであった。
 本書では一般会計予算ではなく、臨時軍事費特別会計という大日本帝国の<隠し金庫>に焦点をあて、その支出が一般会計予算総額にほぼ匹敵することを図示しているが、これを上記国務省の資料と合わせ読めばどうなるか。すさまじいばかりの金額が日中戦争から太平洋戦争に投ぜられたことになる。
 著者は議論はさまざまにあるとはいえ、数字に表れた国の方向は見間違うべくもないと述べているが、これはこの国で久しぶりに見る快論といえるだろう。江戸時代のサムライは数字は唾棄すべきもので、数字にうるさい人間をバカにした。同様に昭和前半の軍人たちも数字を蔑視しながら<飲み打つ買う>に励んだ。本書に示された数字は、そのような国の歩みがどのような結果をもたらすかを示したものといえるだろう。

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2014年03月23日

Posted by ブクログ

太平洋戦争に突入する頃の日本の政府予算の1つ「臨時軍事費特別会計」に注目して戦争を振り返る本。
臨時軍事費特別会計は支那事変以後だがそれの少し前から取り上げられている。
聞きなれない言葉だが文字通り臨時に必要になった軍事費のための特別な会計で、戦争(軍事費が必要な事案)の勃発から集結までを一会計年度とし不足分は追加予算で補われるもの。毎年決まった時期に予算案を提出する必要もなければ詳細の報告もいらないお手盛り予算バンザイ制度。

軍が向こう見ずな暴走に陥ったのはこの制度のお陰で予算に制限がなかったのが大きいと思われ、本のタイトルでもあり話の中心ではあるのだが、多くを割いて説明しているのは当時の状況。お金の話を絡めての説明は非常にイメージをつかみやすいものだが、軍事費についての詳細を知りたいと思った人には完全に物足りないのはいなめない。
当時としては満州をはじめあの一帯での衝突は邦人の利益のみならず現地で暮らす人々の財産や生命に関わる案件であり、そのため「戦争」ではなく「事変」と呼称していたこと。
アメリカ依存の経済であったこと。
この2点は特に重要なことであり数字を見ると異論を挟む余地はないように見える。
具体的な数字ではないが、日本は「アメリカは大西洋で忙しいので日本と戦争しないだろう」アメリカは「東洋のちっぽけな島国がこっちに戦争はけしかけないだろう」とお互いに相手を甘く見ていたフシがある話など興味深い見解も多かった。

無責任なマスコミ等による世論誘導などもあるが、経済状況は明らかにアメリカなしに成り立たないものであり、しかも同盟を結んだドイツは中国に武器を輸出してたりするわけで、なぜあのような選択肢を選ぶことになったのかと思うと不思議でならない。
経済に素人が国家財政の財布の紐を握った結果だと考えると帝国日本を破滅させた魔性の制度の副題にもなっとくできるとともに、同じ過ちを犯さないために必要なことも見えてくるような気がする。

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2014年02月08日

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