【感想・ネタバレ】ネット右翼になった父のレビュー

あらすじ

ヘイトスラングを口にする父
テレビの報道番組に毒づき続ける父
右傾したYouTubeチャンネルを垂れ流す父

老いて右傾化した父と、子どもたちの分断
「現代の家族病」に融和の道はあるか?

ルポライターの長男が挑んだ、家族再生の道程!

<本書の内容>
社会的弱者に自己責任論をかざし、
嫌韓嫌中ワードを使うようになった父。
息子は言葉を失い、心を閉ざしてしまう。

父はいつから、なぜ、ネット右翼になってしまったのか?
父は本当にネット右翼だったのか?
そもそもネトウヨの定義とは何か? 保守とは何か?

対話の回復を拒んだまま、
末期がんの父を看取ってしまった息子は、苦悩し、煩悶する。
父と家族の間にできた分断は不可避だったのか?
解消は不可能なのか?

コミュニケーション不全に陥った親子に贈る、
失望と落胆、のち愛と希望の家族論!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

離れて暮らす父と決定的な価値観の違いを感じ、生前は歩み寄れなかった著者の、検証の軌跡。

「ネット右翼」とはなにか改めて文献にあたり、父の生前の言葉や周囲の人の証言を拾い上げていく中で、「自分の中の火事」「アレルゲン」への気づきから、自身の価値観の点検•自己覚知に至る。

親という距離感の個人に対しても、世代や年代といった背景的視点から理解を深めることができるし、価値観の違い=分断ではなく、共通点を見つけて互いに歩み寄ることもできるという気づきがあった。

一見私的な関係性の検証に終始しているようで、思考の整理から他者との関係性を見直すに至った良書であると感じた。

作者にとってはとても苦しい作業だったと思うが、わたしはこの本が読めてよかったです。

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2024年12月08日

Posted by ブクログ

ネタバレ

友人に勧められて読んだ一冊。私的には新書大賞。
本作は「ネット右翼になった父」に拒否反応を抱えながら看取ったルポライターが、父の死後、父は「ネット右翼だったのか?なぜそうなったのか?」を丁寧に紐解いていくそのプロセスが描かれている。
まず最初に一言書くとすると、「これ私じゃん」とめちゃくちゃ思って、共感の嵐だったことが、大きい。
父は存命で、ネット右翼でもなさそうなのだが、まさに「父親とコミュニケーションが取れない、何を話せばいいのかわからないといった問題」に直面している。
その一部は、父親の価値観というものが、私にとって許容できないものである場合、作者と同じく、その皮下に何があるかを紐解く前に、アナフィラキシーを起こしているということが言語化されて分かった。
本当に作者の言葉がこんなにも刺さること、なかなかなく、「わかる…」となっていた。

特に最後の章の「邂逅」内にて記されている、「触れているか」「染まっているか」を見極める、「相手がネット右翼化したと感じられる原動を調査」、そうして「分断の解消は相手が生きているうちに」というのがいやそうだよな…となるし、そのプロセスを提示してくれているのは、再現性という意味でとてもありがたい。

折を見て読み直したい一冊、折を見て人に勧めたい一冊

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2024年09月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ここ最近、自分にとって良い本との出会いが続いている。本書もそうだ。私は、いわゆる「ネトウヨ」的な発言を嫌悪している。女性差別、外国人差別、障害者差別など、ありとあらゆる差別を繰り返すこうした人間はクズだと思っている。

なので、本書に関しても、報道等で目にすることが多くなった、実家に帰ってみたら父親が差別的なスラングやヘイト発言をするようになっていた!的なルポルタージュかと思って読み始めたのだが、そんな底の浅い内容ではなかった。

著者の鈴木大介さんは、私と同年代。この中で出てくる時代的なエピソードやカルチャーは、そうそう!と共感できるものばかり。父親を憎悪するに至った過程も、そのひとつとして、「世代の違い」を挙げているが、そこも頷ける。

そして、本書の特徴は、あくまでも著者の家族の物語として書かれている点にあると思う。新書にありがちがな、入門的な概説や、知識や情報をまとめた内容ではない。なので、私は新書を読んで泣くという初めての経験をした。

ネトウヨが発するあらゆる発言や行為への嫌悪に変わりはないが、この著者の父親がネット右翼的な言動をするようになった理由を、時系列的に著者と辿っていくことによって、私自身がネトウヨ的な偶像を創り上げ、その人自身を見ていなかったことに気付かされた。

こう書くと、ネトウヨにもいろんな人がいるのだから、固定観念に縛られず、彼らの声を多様性として捉える必要があるよね。と言っているように聞こえるかもしれないが、そうではない。クズな発言や行動は、止めさせるべきだ。

ただ、著者がいうように「解消不可能な分断と、可能な分断。」(p.222)があるということを、私は本書で学び、自分の中の憎悪や嫌悪と向き合うことができたという点において、良い本に出会えたと思ったのです。

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2024年05月31日

Posted by ブクログ

同世代と話して、親族で書名のようなことをする人がいるような話も多くなり読んでみた。

内容としては、思ったよりも過激でなく、考えさせられる内容。想像と違う方向に行ったが、楽しめた。

親と子の関係だけでなく、価値観の違う他者とどう向き合って行くか、考えさせられた。同じ行為でも、自分と人の捉え方は違うし、客観的にどう把握することの重要性に気付かされた。

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2024年01月27日

Posted by ブクログ

便宜上、カテゴリ分けをしたが、実際は父と子の物語だと思う。
一定の時代の父と息子にありがちな互いに壁のあるような、胸襟を開いて話すことのない関係性。
その関係性を改善するための指南書でもあると思った。
父がネット右翼になってしまったと感じた著者は、父亡き後その言動を紐解いていく。
その過程が書かれているわけだが、結局のところ分断は両方に原因がある。彼の父に対する拒絶は彼の中にある価値観や思い込みに端を発している部分もあり、彼が勝手に父親の像を作り上げていたのである。
小さいころの親子関係は、子供の自己肯定感に大いに影響するだろう。
彼も子供の頃の厳しい父との関係で屈折した考えを持つようになったようだが、同じ環境にいた姉はまた別の見方をしていたようだ。著者本人も書いているように、そこにはジェンダーギャップが見て取れる。
これも、古い時代の価値観を持った両親の元に育ったことが影響しているのだろうか。(つまり、男の役目、女の役目といったジェンダーによる役割を当たり前に思っていた父と母はその役割を演じ、それを見ている子供たちも無意識にジェンダーを意識し、父と同性である息子と、異性である娘はそれぞれの立場を刷り込まれたことで、父に対する違ったイメージを持ったのかもしれない)
父亡き後、生前イメージしていた父とは違った父に巡り合った著者は、自身の父への言動を後悔しているけれど、亡くなった後だからこそ、和解ができることもあるのだろう。
私は著者を素敵な息子だと思った。
そして、私自身親に対して色々気を付けねばと改めて感じた。
その年にならないとわからないことがあること。
例えば、難しい話を理解し辛くなるとか、情報のアップデートが難しくなるとか。
親と子の年齢差を考えたら、子供である自分が出来ることを親も同様に出来ると考えるのは早計だ。

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2023年11月02日

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私の父はネット右翼ではないと思いますし、右翼ですらないと思いますが、
父と私の関係は近いものを感じます。
分断を解消したほうがよいのはその通りだとは思うんですけどね、
死んでるからそう言えるのであろうと思いますよ。
生きていると難しいです。
相手が生きているとあちらの思い込みも存在しているわけで、私には上手に意思疎通ができるとは思えませんね。
ただ、心には留めておきます。チャンスがあったら挑戦してみようかな。
チャンスはないかもしれませんが。

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2023年10月28日

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父の葬儀に出た筆者は何故か無に近い心境であった。教養ある父だったはずが晩年はヘイトスラングを繰り返していたからだ。なぜ右傾化したのか?家族親戚友人から聞いた父の姿とは?実像に迫る事は出来るのか? 家族再生の物語でありとても刺さる内容です。おすすめ本。

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2023年08月28日

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ネット右翼になった父というのは、筆者の認知バイアスで、筆者自身がリベラルだったこともあつて生前の父の片言節句に衝撃を受け、子供の頃からの疎遠な関係もあって心を閉ざし、コミュニケーションが取れないまま父は逝ってしまった。

当初はネット右翼に取り込まれ、エコチェンバーの中で過激化したと思っていたが、母・姉・姪・叔父といった家族や父の親友の協力を得て解析した結果、等身大の父を見い出し、世代の問題で自分と相容れない部分もある一方、共通点も多くあることが2年の検証を通じて分かった。可能なら共通点を中心に距離を縮め、生前に分断を回避すべきだったし、そういう人がいればそうすべきという論旨。

世代間の認知ギャップの話が面白かったし、自分自身、亡くなった父とは距離感が埋められなかったし、思春期以降の息子達とも距離感がある。世代間ギャップはあるにせよ、身近なところから共通点を見つけようという指摘は個人的にも示唆に富む。

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2024年12月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

新書大賞に名前が挙がっていたので手に取ってみた
タイトルからネット右翼を分析・批判した本なのかなと思っていたが、読んでみると全く違った。
年老いて、ファビョるやパヨクといったネット右翼的言動が増えた父に対して生理的嫌悪感を抱き、心を閉ざしてしまった著者。
父の死後、父と改めて向きあう中でネット右翼から家族の在り方まで問い直すハートフル?な一冊だった。

ネット右翼に関する本は読んだことがなかったので、初めて知る内容も多くおもしろかった。各世代で見てきた時代が違い、それによって感じ方や考え方が変わる。言われてみれば当然のことなのだが、なるほどと思わされた。
一方で、父はネット右翼でないことを願う気持ちが先行している感は否めないと感じた。さすがにベッドで桜チャンネルエンドレスはアウトな気がするのだけれど...。これも認知バイアスかかってるのか?

著者が行っていた嫌悪感をきっかけとして認知バイアスをあぶり出す、ひいては自己を分析をするというのはとても共感できた。
実は少し前から、私と思想が正反対の人の本を読むことが気に入っている。本を読んでいて何言ってんだこいつと思うと少し嫌な気分になる。そこにはある種の嫌悪感や怒りがあって、決して心穏やかではない。しかし、相手は本なのでケンカにはならない。言い返すこともできず著者の思想を浴び続ける。その中で内省すると譲れない、自分の思想のコアとでもいうようなものを見つけることができる。本著の大筋とは離れるが、私に似た方法を著者の手で文章化することで、私にとっては大きな学びとなった。

もう数年実家と連絡とってないけど、お父さんに会いに行くか悩むね。

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2024年08月21日

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ルポというか物語みたいだった。
読みものとしては面白いし、読みごたえもあったけど、実際に自分の周囲にあるお話としたら、誰の立場としてもしんどいなぁと思う。
ペルソナなんてどんなに円満に見える環境にいる人だって持ってるだろうし、心の中の醜い部分を全く持っていないという人もいないと思うし。

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2024年05月07日

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この本の端緒となった2019年のデイリー新潮の記事を当時読んだ。当時の著者と同じように、YouTubeでおかしくなる人おるなあとシンプルに捉えていたので、認識を更新できてよかった。

単語というか符牒というのか、仲間内に目配せするために使われる悪意と差別意識に満ちた言葉がネット空間には多く流通している。ネット上の一部の地域では、その言葉を知っていること、口に出すことが「山」「川」みたいな機能をもつ。その醜悪なやりとりを日々目にしているから、だれかがその言葉を発した瞬間に「あっこいつあっちやな」と判断してしまう傾向はわたしにもある。
が、それは発言者の拠って立つところを示すというよりは、うかつさ・不用意さ・認識の甘さ・知識のなさを示すことの方が多いのかもしれない。特に身近な人間に対して、少なくとも瞬間の判断は慎むべきだなあと思ったことでした。しかしその言葉の臭気を感じ取れないもんかねと失望はしますけど。

言葉に含まれる(言葉に含ませられている)背景や意味合いが多すぎて、アップデートったってしきれませんよという状況もあるのかもしれない。だからその言葉の意味合いをOKかNGかに単純化して「今はこれ言っちゃダメなんですよね」という認識になるし、そこから「自由に発言もできないこんな世の中」ってなるわけだ。分断は不用意な人間とそうでない人間の間にも生じるのかも。

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2023年09月14日

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ネタバレ

読み始める前と読み終えた後で全く印象が違う作品でした。テーマとしては『ネット右翼』より『になった父』に重きが置かれていて(もちろんネット右翼についての記述もありますが)、ネット右翼というテーマから筆者さんとお父様との凝り固まった家族関係を紐解き、最終的に「父と私はどうあるべきだったのか」という部分に着地します。
本筋からはずれてしまうかもしれませんが、私自身、現在父との関係がうまくいっていないこともあり、終盤の筆者さんとお父様の思い出の懐古描写で思わず号泣してしまいました。まるでうまくいっていない自分と父の関係性のように感じられ、感情が揺さぶられました。この描写で泣けたということは、私自身の中にまだ父との関係改善をしたいという気持ちがあるからかな、なんて思ったり。筆者さんの言うとおり、相手が生きている間に…とも思いましたが、私自身はまだ自分の中の感情の火事を鎮火しきれない、変な意地のようなものが渦巻いているのを重く感じました。でも、20代のうちにこの本に出会えて良かったと心から思います。相手を決めつける前に、まずは自分の考え方や捉え方を柔軟にしなければ、と気付かされました。

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2023年09月07日

購入済み

昔は世界に対する幅広い興味を失わなかった父親が、その晩年にその発言がネット右翼であるかのように変貌してしまったことに苦い思いを抱いていた著者。父の亡き後に改めてその足跡を丁寧にたどり、家族のつながりを回復していく話。

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2023年08月26日

Posted by ブクログ

強い思い込みから始まった父の像を、改めて検証していくプロセスが記載されている。
世代と年代を切り分けて考える、触れていると染まっているは異なる、などいくつか人間関係を考える上で大きなヒントになるキーワードがあった。
ここまで丁寧に掘り下げて検証するのはかなりしんどい作業だし、親が生きているうちにやるのはやっぱり辛いかもしれない。

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2023年08月23日

Posted by ブクログ

タイトル通り、ネット右翼になった父親について終始書かれている本かな?と思ったら、最終的な着地は全然違っており、読み応えはあった。ただ、周りにネトウヨがいないとなかなか共感できない話も多くて、判断が難しいところ。

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2023年08月13日

Posted by ブクログ

弱者に寄り添う著作を執筆してきたルポライターの著者が、年老いて「ネット右翼」化してしまった(と著者が感じていた)父親に、その死後、とことん向き合った記録。
読んでみて、これはあくまでも著者とその父親のケースであり、中高年のネット右翼化の背景や対処といった一般論的な内容を期待すると肩透かしを食らうと思った。
死後になってしまったとはいえ、著者にとっては「パンドラの箱」だったであろう自分の父親に徹底的に向き合った著者には敬意を表したい。著者が父親について、「対峙」し、「検証」し、「追憶」し、改めて「邂逅」する様を臨場感をもって追体験できた。
身近な人こそ、相手の等身大の像を見失わないように、目を背けず向き合うことが「分断」を避けるために必要だという教訓を得られた。
ただ、やはり著者はまだ父親の呪縛から解けきれていないようにも感じた。著者の父親への態度は両極端に振れているように思う。当初の父親がネット右翼だという罵倒も行き過ぎの面もあったかもしれないが、著者の父親の言動は、「ネット右翼」の定義に当てはまるかどうかは別にして、明らかに外国人や女性などを傷つけるものであり、最終的な著者の擁護的態度には少し疑問を感じた。

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2023年07月02日

Posted by ブクログ

タイトルからしたら、いきなり老いてからネットにはまって、理解力の低下も相俟って右翼になってしまった父の話かと思ったが、そうではなかった。
父は若い頃から、当時メインであった左翼の学生運動のカウンターとして右翼的な傾向はあった。老いてからも(こういう言葉はいかにも老人みたいだが)矍鑠としていて、認知機能が著しく低下した、ということもなかった。
息子である著者が、ネット右翼的な発言のせいで拒絶反応を起こし、父を理解しないまま死別してしまったことへの蟠りから、父とはどういう人間であったか、そして最晩年にネット右翼的な発言を繰り返したのはなぜなのかに迫る本だった。

一読して感じたのは、ここまで息子に丁寧に人生を辿ってもらえる親とはなんと幸せであることか、ということ。大抵の子どもは、ここまでしない。それは著者の職業的な調査能力と無関係ではないが、調査能力があったとしても、親に対してその能力を発揮する人は希である。それだけ、愛情があったのだ。それを、「父」という人を全く知らない読者が読んでも興味深い内容に仕上げる能力、私が「父」だったら、本当に自慢したくなるだろう。有名人だった父について書いた本なら大した内容がなくても売れるが、一般人だった無名の父との相剋を小説ではなくノンフィクションとして描いて読み応えのあるものにしているのはすごいと思う。
そしてもう一つ感じたのは親子の難しさである。
子どもが幼い時は、自分が欠点だらけの人間であることはわかっていながらそれを隠して、人としてお手本となるようにふるまわなければならないときも多い。それは子どもに道徳心や社会性を身につけてもらうためである。しかし、その「ふるまい」を思春期の子どもは偽善や建前と感じ、反発する。ここを乗り越えて、子どもが大人になったとき、双方とも対等な個人として付き合えるようになれば成功だと私は考えていた。
しかし、どんなに能力の高い人でも老いるに従い能力は衰える。そうなってもなお対等な個人でいられるのか。特に賢い人は、認知機能、理解力が衰えたことを、子どもに覚られたくないという気持ちは強い。その焦り、足掻きのようなものを、この父から感じたのだった。
肉体も頭脳も衰えて、それでもなお対等な個人でいるのは難しい。昔の親子の立場が逆転し、面倒を見て時には叱るのが子どもで、どうしてよいかわからずおろおろするのが親になってしまう。その時の親の辛い、情けない心情を子どもは意外に考えないものだし、そこまでくると「対等な個人」として扱うこともない。
この人生最後の時期を尊厳を持って生き抜くのは本当に難しいのだ。老年期の親と中年以降の子の関係を考えるきっかけとなる本だと思う。

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2023年06月03日

Posted by ブクログ

コロナ渦に断捨離に励み過ぎたあまり、極度なミニマリストになり、家庭内からモノは減ったと同時に会話も減ったとか、妻がダイエット中にオーガニック食品にどハマりし、食品のみならず衣類にまでそれは及び生活費は毎月赤字続き…。

いずれも寸止めで止まれば、目的達成の副産物として解されるが、行き過ぎると脳内のドーパミンが過活動し、やがて制御不能となり、獅子身中の虫状態となる。

本書は、還暦を境に『ネット右翼』に豹変した実父を題材に取ったドメスティック・ドキュメント。

新書って、昨今の現象に対する考察・解説・警鐘を気軽に読める書物であるが、本書は異質も異質、読み進めるにつれ、はたしてこのネタを新書の形式で上梓するのが正しかったのか…と思ってしまうほど父親の価値観の変節を追う取材は、登場人物が少ない密室ミステリーを読んでいるかのような錯覚に陥るほどだった。

さて本書。
2019年に亡くなった父は、一流大学を卒業し、一流企業へ就職した高度成長期を駆け抜けた典型的な昭和のサラリーマン。ところが還暦の頃より『ネトウヨ用語』『ヘイトスラング』を含む嫌韓嫌中に類する言葉を何気ない会話の中で使うようになる。書棚には月刊Hanadaや正論が並び、社会的弱者への無遠慮な見解を述べ、盲目的安倍応援団となり、政権批判をする者は即反日と断定。価値観や思想が定食屋の品書きよろしく並ぶ典型的なネット右翼に。

その父と著者の関係は、若い頃から父親と折り合いが悪く家を飛び出す。以来、会話らしい会話はなくそこに晩年の変節。変わり果てた父親にただただ茫然とするしかなく、やがて病に冒され77歳で亡くなる。

死後から1年半が経過しても、失意と嫌悪感に苛まれている著者は奮い立ち行動を起こす。いつから『ネトウヨ』になったのか。価値観を変節させたものは何なのか…を探し始める。手始めに『敢えてパンドラの箱を開けよう』と腹をくくり、PCを開く。

通電しデスクトップに現れたのは、予想に違わず嫌韓嫌中のフォルダーにヘイト動画や記事、保守系のサイトの数々。嫌悪感を抱きつつも、自分の知っている父の言動と思い浮かべながら、丹念に検証を重ねていく。それ以降も叔父(父親の弟)に会い、母親・姉にも繰り返し父親の変節をめぐる取材を重ねていく。

ところが、調べれば調べるほど謎の霧は晴れるどころか深まるばかり。一般にネット右翼や保守が共通に持つ価値観と父親の価値観は一向に相入れない。もともと保守的な価値観があったのかすらあやしい。

いったい父は何者だったのか。父は、家では積極的に台所に立ち、会社では女性の社会での活躍に尽力し、定年退職後は中国に語学留学した後さらに韓国語も学ぶほどの知的欲求旺盛な人であり、地域福祉や住民ネットワークの構築に奔走するなど、保守的・伝統的家族感とは別の価値観を生きてきた人であった…。

晩年の父親の変節を文章にして晒すことは、家庭内の恥部を晒すことであり。事実、身内にも反対され、それでも敢えて綴ったのはルポルタージュライターのサガではなく、深い溝ができたまま死別した父への贖罪であり、次第に明らかになる父親の実像を知ったことへの懺悔録へ…と昇華していく。

『親孝行したい時に親はなし』というパラドックスを噛み締めた一冊。

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2023年05月16日

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普段離れて暮らす年老いた父親を訪ねると、人種差別などに塗れたYoutubeのテキスト動画に熱中し、口に出てくるのはネトウヨ特有のジャーゴンばかり・・・、というのは現代における悪夢の1つのように思う。
その悪夢を実際に味わった著者が、父親を亡くした今、徹底的に父親の行動や思考を検証し、「本当に父親はネトウヨだったのか?」という問に答えを出すプロセスが本書には綴られている。

著者は子ども貧困問題などの社会問題を扱うルポライターであり、ネトウヨ的な価値観に全く相入れない中で、死ぬ間際の父親が自身が忌み嫌う言葉を口にすることで、ほぼ最後の瞬間を没交渉で過ごした過去を持つ。一方で、若いときの父親からはそうしたネトウヨ的価値観に該当するような言動はなく、一体どちらが本当の父親の姿なのかという答えを求めて、家族・親類・父親の友人らなどにインタビューを行っていく。

著者と父親は最後の瞬間を断絶のまま迎えてしまったが、本書ではその断絶に対する悔いが赤裸々に綴られており、そうした断絶を避けるための具体的な思考のステップがまとめられている。陰謀論なども含めて、愛する家族がそうしたものを信奉する状況は確実に今後も増えていくと思う。そのときに不幸な断絶を避けるための一助を本書は与えてくれる。

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2023年05月13日

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生前に叶わなかった親子のコミュニケーションについて詳しく考察されていた。
著者がここまで父親の言動を検証することになった理由の一つは、自分の父が晩年ネット右翼になってしまったという趣旨の記事をWebメディアに寄稿したことにあると思う。
その後もしかしたらそれは違っていたのではと考えはじめると、あの寄稿をそのままにしておけなかったのではないか。
威圧的な親と繊細な子供の組み合わせというのはやっぱり相性悪いと思った。
もしこの父親にタフなタイプの子供だったらまぁまぁ上手くいったかもしれない。
でも大人として、その子の必要とするものを与えられなかったという点は父親に責任がある。
必要としているものに結構な個人差がある所が難しいんだろうなぁ。
あと、何がどの位傷付くかという部分も個人差が激しそう。

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2024年11月04日

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タイトル自体に心惹きつけられるものもあったけれど、途中ダレてしまった所も。不必要な所もあった気がした。

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2024年07月17日

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父の中には、自立に向かう思春期以降の子どもたちに対して、穏やかに軽口を交わしながら、それでいて本音を語り合い過ごすための「お茶の間のペルソナ」が存在しなかったし、あとから作ろうとしても、そこには子どもである僕側の問題もあって、失敗してしまった。父に対してコミュ障だったのは僕自身も同じだ。
ノスタルジー的軽い認知症気味の父の絶対右翼嫌悪の息子とコミュ障親子の話。

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2024年05月17日

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この本のコンセプトがすごいなぁと思いました。
ここまでなくなった父親に対して、真摯な態度で検証できる人はなかなかいないと思います。

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2024年04月03日

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真相を追っていたら、自分が真相だった、というような、物語を聞かせられているような本だった。
この本で取り上げられているような何かを決めつけるような思考回路は、実は自分にもあるんじゃないかと思い、はっとさせられた。

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2024年03月22日

Posted by ブクログ

なるほど、父親がいかにネット右翼になっていったかを描きその危険性だけを解く本かと思いきや父と子の関係性や、過去の話、そして誤解を解いていく本だった。少々、感性が違うかなと思わされるところもあったが、なかなかの本だった。

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2024年01月10日

Posted by ブクログ

自分でも思うし、親しい友人や家族から見ても私はかなり左寄りの人だと思います。
だから、ネット右翼ってものに対してやはり嫌悪感はかなりあった。ってか、今もある。絶対的にある。

結局は、人は分からないもの、得体の知れないものが本能的に怖くて畏怖を感じてしまうだなということ。それゆえに、これまで自分が生きてきたなかで培われた価値観や知識を覆させられるようなものに出会うと、敵意にすり替わってしまうんではないかと思った。
私自身、重い病気や障がいを持った子供を授かってから理解できたことは数知れず。それまではどう接していいかわからない、とこの一点張りだった気がして。

そういう自分バイアスをまず理解すること。
嫌だなと感じる相手の言動の底には何があるのか、自分バイアスに引っかかる何かを考えること、相手を知ること。ネット上の分断も国と国との争いも、要はそこなんではと思いました。
知らないから怖い。怖いから寄ってきて欲しくないから嫌う。これを、
知って理解する。理解したから対話してみる。に変えていけたら。

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2023年10月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

なぜ、に答えは無かった。でも、息子が危惧したホンモノのネトウヨでは無かった。どちらかと言うと息子の父親追悼の物語。

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2023年08月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ネット右翼になってなかった!ということかな(違う)。
叔父さんのいう世代と年代は分けて考えるというのは腹落ちする。そもそもくるっと一纏めにするのもどうかという話しでもあるが。
ネトウヨになった身近な人はいないけど、陰謀論とかラジオフォビアやワクチンフォビアに傾倒した知人はいる。身内かそうでないかは心情的に大きく違うだろうとは思っていたが、自分の書いたものを推敲するという作業を常日頃行っている文筆家の著者でさえ接し方を間違い後悔している。身内と丁寧に向き合い死者と向き合い、著者は文体よりも遥かに苦しい産みの作業を経てこの本を書いたのではないかと察せられる。自分と向き合うことはとても苦しいものだ。
身内がネトウヨもしくは特定の思想に陥り出したときは冷静にまず自分がその考え方の何に嫌悪感を感じるのか、双方の価値観の洗い出しを試してみたいと思う。

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2023年08月24日

Posted by ブクログ

2019年に逝去した父。その2か月後のWebメディアへの寄稿。晩年の”ネトウヨ化”を嘆く。そこから始めた検証。家族や友人の話を聞く。思い込んでいた父の像とは違う。偏執化などしていなかったのではないか。心を閉ざしていた自分にも問題はなかったのか。父への想い。右傾化と分断という社会問題を取り上げるつもりが自身の悔恨へ。差別表現は看過できぬが言葉狩りだけで終わらせてはよくない。発言は思想の断面に過ぎぬ。それが発せられる背景は何なのか。エンパシーを働かせねばならぬ。真の解決は探索と推測を繰り返し行きつくもの。

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2023年08月12日

Posted by ブクログ

父の触れていたコンテンツや断片的な発言からネトウヨだと思ったが、死後に検証すると実はそんなネトウヨ要素を満たしていたわけではなく、父は父なりの価値観を構築していただけだった。リベラルな筆者側にも「こういうこと言うやつはネトウヨ」とのいわば過激な思い込みがあり、自ら父との間に分断を作り出してしまっていたということがわかった、という話。

筆者の思考の掘り下げプロセスが描かれていて面白くなくはなかったが、この内容ならzine でいいんじゃね?と思う。
社会派ルポでは全くなく、どちらかというと筆者と父の親子の物語に近い。
学術的な要素はなく、ちょっと期待外れだった。

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2023年05月07日

Posted by ブクログ

著者は、ネット右翼になった亡き父を振り返りその理由を考え抜いた挙句、自分を知っていました。著者がここまで掘り下げて考えられたのは、父との大きな葛藤があった故な気がします。安心できる自分の生活が確保された後、親との葛藤について深く考えることは、人によってはとても有意義かもしれません。
ただこの深く考える作業、著者の母は辛かったのではと感じます。この家族がそうとは思いませんが、人が自分の大きな傷を癒す時、他の誰かを揺らがせることもあるんだろうなと少し悲しいことを考えました。

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2023年05月21日

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