あらすじ
フランスBD界がその才能に驚愕した当時28歳の新鋭アーティスト、バスチャン・ヴィヴェス。みずみずしい感性で描く新感覚BD、初邦訳でついに登場!
脊柱側湾症を患い、かかりつけの運動療法師の勧めでプールに通うことになった少年。最初のうちはあまり気のりしない彼だったが、泳ぎの上手な少女を見かけ、彼女と親しくなる。毎週水曜日、プールで逢瀬を楽しむ二人。彼女に惹かれていくにつれ、水泳そのものの魅力にも目覚めてゆく彼だったが……。表題作『塩素の味』の他、男女の他愛無い会話やすれ違いを一貫した「僕」の視点で描く『僕の目の中で』も同時収録。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
泳ぎ姿がこれほどちゃんと美しく描かれた芸術メディアがほかにあっただろうか。これは映画にはできない気がする。やっぱ人は静止した画が好きなんだよね。絵画とか写真の凄みってのはやっぱり,ある瞬間を捉えている点の大きさを忘れずには語れない。捕らえられたある瞬間をじっと好きなだけ見させてくれる,これは漫画っていう形をとっているわけだが,絵画的写真的であり,そこにそれらの繋がりを作り出す物語と言葉が添えてあるわけで,ようするに画がすごいってわけ。
その添えてある物語に少し触れると,脊椎側弯症の主人公がまあ最後に振られちゃうわけだけど,読み返してみると振られた理由ってのはある会話に起因してるなあ,と想像できる。あるとき主人公は「これのためなら死ねるとか,これは絶対手放さないとか,そういうの考えたことある?」と女に聞く。結局その答えは彼女からは得られない。その問をした後の彼女の表情と泳ぎと時間の経過感覚は,読み手の僕らに,ああやっちゃったよと感じさせるのに十分なものをもっている。その後彼女はプールに現れなくなっちゃうんだけど,気持よく泳いでいたのにそんなこときくからよ,とどうしても取ってしまう。あるいはこれまで主人公に対して優位にたっていたけれどそれが逆転してしまったような気がしたのかもしれない。主人公の存在が怖くなってしまったのかもしれない。それでその言葉は彼女の中の何かを変えたかもしれないし,彼女のその後の行動に影響を与えたかもしれない。悪かったかもしれないが良くなかったとも必ずも言い切れない。
いやまあそういうことをふわあと考えさせられる画の集合としての強度がある。
Posted by ブクログ
フランスの作家によるバンデシネ。セリフが少ない分、五感を刺激され、肝心っぽい言葉ほど聞けなかったりするものだから、好奇心をくすぐられたまま宙ぶらりんの状態にされる。でも、「BDはもともと、読者に積極的な参加を求めている」。人間の動きに味がある。
“しょっぱいボーイ・ミーツ・ガール”ってなっているけれど、しょっぱい以上に、泳ぐときの感覚が伝わってきて気持ちいい。