あらすじ
「民族浄化」「一大家族」「楽土」の歌詞を,ともに声あわせうたった園歌.だれが何の目的でつくったのか.上から押しつけられただけのうただったのか.ハンセン病回復者と長年かかわりつづけてきた歌手である著者が,13あるすべての国立療養所をたずねてそのなぞを追った旅物語.「うたの力」を問いかける稀有な記録.
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Posted by ブクログ
12日、初めて長島愛生園に行った。ハンセン病療養所と長く関わり、岡山大学の院で学んだ歌手沢知恵さんと、4年前に「くらしのアナキズム」に感心させられた岡山大学の文化人類学者松村圭一郎さんの新刊ブックトークである。
去年から、籠もってないで「お出かけ学習」しようと一人キャンペーン(笑)を心がけ、月1〜3回いそいそと軽4を走らせている。
本書は沢さんが日本各地のすべての療養所をフィールドワークし、園歌などを調べて書き上げたもので、ブックトークの対象ではなかったが手が届く値段なので買い求めた。信を置いている岩波ブックレットだしね。
読んでよかった。待ちの時間に言葉を交わし、トークに耳を傾けながらもこの人ただのゲイノウ人じゃないと思ったが、文章のあちこちから知性と誠実さが垣間見える。
権力の非道さの象徴の一つでもあるハンセン病隔離政策がどれほどのものであったか、沢知恵から入るのもありだ。
本書の最後に引用された言葉を書き残しておこう。
「深海に生きる魚族のやうに、自らが燃えなければ何処にも光はない」
ハンセン病歌人 明石海人『白描』より
さっそく岩波文庫を注文した。
Posted by ブクログ
沢知恵さんが全国の国立ハンセン病療養所を巡り、それぞれの園歌を探究したもの。沢さんはこのテーマで論文を書いていて、この冊子はそのエッセンスをまとめたような位置づけ。
全国の国立ハンセン病療養所13か所のすべてに園歌がある。誕生の背景や曲調に込められたものなどを探っていく。各療養所で園歌が複数あったり、作者が表向き不詳ということになっていたり、正式な記録と療養所住まいの人の語る事実とで相違があったり、何だかドキドキの面白いミステリーを読むような感じ。貞明皇后の御歌「つれづれの」に山田耕作と本居長世という大作曲家2人が別々に曲をつけているというのもその背景を探ったりもしている。
また、沢さんは音楽に関する理論的な知識をもって曲調を分析したり、そこに込められた意図なんかも見えてしまったりするんだなあ。歌ってピュアな好悪の気持ちで受け取るものだと思っていたけど、歌を通じて人の心を操るのなんかいとも簡単なように思えてしまう。
園歌の歌詞には「民族浄化」とか「一大家族」「楽土」など、ハンセン病が排斥されていた過去を思わせる語も多く出てくる。沢さんは歌ってくれたり歌について語ってくれた療養所で暮らす人たちに「うたっていてつらくなかったか」と聞くけど、多くが懐かしむ。なかには、疑念を抱きながらもそれでも好意をもっている人が多い。それってそういうものだと思う。たとえつらい思い出も月日がたてばよい思い出になってしまうということもあるだろうし、朝鮮半島の人々がこちらがかまえているのに対し、あっけらかんと軍歌を歌ってくれちゃったりしてドッキリしちゃうのと同じような構造があると思う。
一方で、沢さんが書くところの「二重意識」として見ることもできる。虐げられている身だからこそ、関わってくれる大きなものの陰に入ったり同化することで自分を保ったりするのってあるもの。それに、現在の認識からすればハンセン病者の排斥を温存させたという評価になる人も、当の療養所で暮らす人にとってはいい人であったり、その人自身もハンセン病患者に寄り添おうと当時の常識に沿って行動したにすぎなかったりする。
ハンセン病政策やそれを後立たせていた人々の何気ない意識っていまにしてみれば何だったんだろうってことを、園歌というちょっと変わった視点をとおしてあらためて思わせる一冊だった。