あらすじ
香港の民主化運動への禁圧、台湾への軍事的圧力――。現在の中国が見せる、特に南部への強硬な姿勢には、どのような歴史的背景があるのだろうか。中国史のフロンティア=華南地方の周辺民族と移民活動に焦点を当て、南から中国史を見直す。
中国の歴史は従来、黄河流域に展開した古代王朝の興亡史や、騎馬遊牧民が打ち立てた大帝国など、「北から動く」ものとして捉えられてきた。しかし、清代末期、広州などの港町を窓口とした近代ヨーロッパとの出会いをきっかけに、新しい時代が始まる。洪秀全の太平天国、孫文の辛亥革命など、社会変革の大きな動きは南から起こり、中国史上初めて「南からの風が吹いた」のである。その「風」を起こしたのは、漢民族にヤオ族・チワン族やミャオ族、さらに客家など様々な人々が移動と定住を繰り返す「越境のエネルギー」だった。
世界のチャイナタウンではなぜ広東語が話され、福建省出身者が多いのか。周辺民族は、漢民族のもたらす「文明」にどのように抵抗し、あるいは同化したのか。辺境でこそ過剰になる科挙への情熱や、キリスト教や儒教と軋轢を起こす秘密結社、漢民族から日本人そして国民党と、波状的な支配を受ける台湾原住民など、中国社会の多様性と流動性を史料と現地調査から明らかにし、そこで懸命に生きてきた人々の姿を見つめる。
目次
序章 中国史のフロンティア=華南
第一章 動き出した人々――福建・広東の移民活動
第二章 越境する漢人移民――広西と台湾への入植
第三章 辺境の科挙熱――中国文明と向き合う
第四章 周辺民族の抵抗と漢文化――流入する移民と秘密結社
第五章 太平天国を生んだ村で――移民社会のリーダーたち
第六章 械闘と動乱の時代――つくり直される境界
終章 越境してやまない人々――海外移住と新たな統合
あとがき
参考文献
索引
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
華南の移民史や社会構造、思想がわかったのはよかった。
しかし時系列がバラバラすぎて頭に入りにくい。
特に台湾は台湾だけで通して読んだほうがよさそう。
あとがきに出てくる筆者の広西の友人が全員収賄関連で人生を狂わされていて、しかもおそらく冤罪とのことで、やっぱり中国は大変だなと思った。
筆者は中央政府に逆らう越境のエネルギーをポジティブに捉えようとしており、過酷な競争社会に苦しんでいるのは漢人自身と言うが、周辺民族にとってはたまったものじゃないのは事実である。
Posted by ブクログ
日本人にとって馴染みのある中国はだいたい北部で華南には馴染みがない、と言われてまずなるほどと思った。華南が中華世界に組み込まれたのは遅く、歴史の表舞台に立っていたのはいつも華北であった。本書はそんな華南が辿った歴史を解説している。華南には福建人、閩南人、潮州人、広東人のような漢民族のサブグループの他にイ族やチワン族などが入り乱れている。彼らはみなそれぞれに貧しく、18世紀の人口爆発に押されて移動を余儀なくされる。華南の歴史は彼らの闘争の歴史であり、ひたすらに暗い歴史が綴られる。彼らの生き方は「ワンセック」と呼ばれる、食べるために様々な事業に手を出すという、華北の儒教的価値観とは齟齬のあるものだった。だからこそ太平天国や辛亥革命のような近代中国の革命の風は南から吹いたのではないか、と筆者は語っている。
Posted by ブクログ
「越境」には地理的な意味と文化的な意味を持たせたらしい。
人口爆発と均等相続、中央集権的政治圧力を背景に辺境を侵食する漢人とそれに対応・対抗する原住民。
現代のアフリカやウィグルで起こっていることが、共産党以前の中国の歴史の延長線上にあることがよくわかる。
Posted by ブクログ
華南がどのように中国の版図に入っていったか、王朝の政策を超えた、貧しさから抜け出そうとする漢人の向上心が領土を広げ、今もその勢いが続いていることを思い知らされる。
中ほどは飛ばし飛ばしで読んだが、参考になる本だった