【感想・ネタバレ】神々の復讐 人喰いヒグマたちの北海道開拓史のレビュー

あらすじ

「ヒグマの聖地」である北海道に流入していった人間たちとヒグマとの凄絶な死闘をもとに、近代化の歪み、そして現代社会の矛盾を炙り出す。

膨大な資料から歴史に埋もれた戦前のおびただしい北海道の人喰いヒグマ事件の数々を発掘し、なぜヒグマは人を殺すのか、人間はヒグマや自然に何をしてきたのか、という問いを多角的に検証する労作!

北海道で幕末以来に発生した人喰いヒグマ事件をデータ化し、マッピングした「人食い熊マップ」も掲載!


(目次
序 章 歴史に埋もれた人食い熊~上川ヒグマ大量出没事件
第一章 明治初期の人喰い熊事件~石狩平野への人間の進出
第二章 鉄道の発展と人喰い熊事件~資本主義的開発とヒグマへの影響
第三章 「枝幸砂金」と人喰い熊事件~ゴールドラッシュの欲望と餌食
第四章 凶悪な人喰い熊事件が続発した大正時代~三毛別事件余話と最恐ヒグマの仮設
第五章 軍事演習とストレスレベルの関連性~大正美瑛村連続人喰い熊事件
第六章 受け継がれる人喰い熊の「DNA」~北見連続人喰い事件
第七章 十勝岳大噴火~天変地異とヒグマの生態系との関連
第八章 炭鉱開発と戦中戦後の人喰い熊事件~封じ込められたヒグマの逆襲
第九章 樺太~パルプ事業の拡大と戦慄の「伊皿山事件」
おわりに 現代社会にヒグマが牙を剥きはじめた

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

有名な事件だけしか知らなかったけど、これほどまでにヒグマが起こした事件が多かったのかと震えた。人間との摩擦により追いやられ、反逆に出た人喰いヒグマという異形の神たち。残虐に殺されていく人間のあまりにか弱いことよ。昔の記事などは読みにくいところもあるが、大変興味深く読めた。

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2023年01月29日

Posted by ブクログ

これまで北海道で起きた人喰い熊事件を網羅。
引用多め。
地図面白い!
データをベースに考察をしてく構成

オリジナルで作成した人喰い熊マップ(この地図がめちゃ面白い)をベースに「なぜ熊が人を襲うのか?」を分析してく。有名な三毛別の熊は初犯なのか?とか人を喰う習慣は代々受け継がれてくのでは?とか考察が面白い!

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2025年02月09日

Posted by ブクログ

川﨑秋子さんの『ともぐい』を読んだ後に読みました。北海道開拓と熊による被害は関連しているんですね。これだけよく調べたもんだと思いました。

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2024年09月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

熊こぇ〜

北海道はまだまだ生態系の中にいるのか!?たまに人が熊に食べられてる。

今、友人に誘われて北海道で熊撃ちをしようかと思ってたので読みました。転居、転職の決意は固く、狩猟免許取得中だったのですが、この本のせいで躊躇。
この本(というより、引用元の新聞)、熊に襲われてる描写が生々しい。メディアの悪いところなのか、もしくはただ単に事実なのか、とにかく文面が不安を煽る。

熊に襲われていい事があるとしたら、火葬されず、生態系のなかにすぐに還れる事だな。私的な思想ですが、現代人の死体は「食べられる」事がないのが嫌だった。

痛くて苦しい死に様は嫌だけど、動物の最後は哀れなものだと思うから、熊と戦って死ぬのもありかな。
でもやっぱり痛いのはいやだな。

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2024年06月23日

Posted by ブクログ

日本史上最悪の「三毛別ヒグマ襲撃事件」は、インターネットで有名だ。1915(大正4)年12月に北海道苫前村の山深い地で起きたクマによる人身事故で国内最多の死者数らしい。しかし、戦前は、こんな事が当たり前のように起こっていたというのだ。街中に進出するヒグマの愛護を叫ぶ人々は、この本に書かれた人間と熊の戦いを一度は眺めて欲しい。銃撃の一、二発では仕留められず、人間を餌として食い荒らす様は、惨虐な殺人犯だ。

糞に含まれるコルチゾールの濃度から、生活環境の悪化が生物にストレスを与えていることが示された。ストレスレベルの高まったヒグマが凶暴化したり、あるいは狂犬病にかかっていたり、居場所を追われた熊が、一度人間の味を覚えると、何度でも、餌を求めてやってくる。

熊は食べかけを穴に埋めるのだという。まるで、バラバラ殺人事件のように。本書では、女性が喰われ、老人が喰われ、子供が喰われた事件が幾つも紹介され、熊との戦いの当時の新聞記事が載せられる。これは、ホラーだ。飢えた熊には、熊よけの鈴なんて逆効果らしい。

熊の居場所を奪った人間の悪業も考えなければフェアじゃないのかも知れないが、しかし、誰しも自分自身がそのテリトリーに遭遇するなら、そんな綺麗事も言ってられない。熊問題を他人事にせず、考えてみるキッカケになった。

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2024年06月19日

Posted by ブクログ

今年は例年以上にクマによる被害のニュースが多い。人身被害は、過去最多だった2020年を上回る勢いである。
クマが殺処分されると、管轄市町村に苦情が寄せられることも多いというが、さて手をこまねいたままで共存していけるのか、難しいところではないだろうか。

本書は2022年11月刊。
なかなかインパクトのあるタイトルだが、ヒグマがアイヌの人々に「カムイ=神」とされたところから名付けたのだろう。ただ本文中では特にアイヌとの関わりには触れておらず、明治期以降の北海道や樺太でのクマ(特に人喰い熊)被害に焦点を当てている。

明治11年から昭和20年まで、70年に渡る地元紙(函館新聞、北海タイムス、小樽新聞、樺太日日新聞)に目を通してクマに関する記事を拾い出し、データ化したというからその労力に恐れ入る。それに加えて市町村史や郷土史等にもあたっているという。
そこから浮かび上がってくるのは、まずは予想以上にクマによる人身被害は多いということだ。吉村昭『羆嵐』の三毛別事件はつとに有名だが、それ以外にもかなりの事例がある。新聞記事などで記述される「人喰い熊」の事件の現場はどれも相当凄惨である。

これ以前にどれくらいの人身被害があったのかは不明だが、この近代のクマ事件に関して、著者はいくつか仮説を述べている。
大筋としては、人間がクマの居住地に入り込み、衝突が生じやすくなったということで、これはなるほどその通りだろう。著者が注目した時代は開拓時代にあたり、多くの人が入植し、鉄道等も発展した時代である。
恐ろしい野獣と思われるヒグマだが、「人喰い」に走るクマは実はさほど多くはないという。著者の概算では全体の0.04~0.06%程度で、いくつかの事件は同一のクマによるものではないかと述べている。北海道内でも事件が多い地域とそうでない地域があり、「人喰い」クマの「血脈」のようなものがあるのではないかとの推測もしているが、このあたりはどうだろうか。母熊が人間を狩るのを見て子熊が習得したという推測もしており、個人的にはこちらの方がありそうな印象は受ける。
鉄道の工事や軍事演習の音がストレスになったという説も述べているが、可能性としてはともかく、若干根拠は弱いように思う。
開拓期は狂犬病が流行した時期でもあり、中には狂犬病に罹って狂暴化したクマもいたのではないかという推測は、同様に根拠は弱いのだが、ちょっと興味をひかれる発想である。

巻頭のクマ事件発生マップが労作で、目を奪われる。
クマが暴れた地点がそこここに点在しているわけだが、これは同時に、人間が居住域を広げていった証左でもある。そうして住むところを追われていった野生動物は数多かっただろうが、ヒグマの場合は体も大きく、力も強い。ひとたび人を襲うようになったクマとの「共存」は容易なことではない。

「おわりに」で著者は近年のクマ被害についても触れている。過疎化が進み、野生動物が再びテリトリーを広げつつある。農業が大規模化し、無人の畑地が増えて餌が入手しやすくなったこともある。
猟師は高齢化し、駆除に関する目も厳しい。ヒグマはここ20年間で4倍に増えているという。
人とクマ、両者にとって「ちょうどいい」距離を保つ術はあるのだろうか。

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2023年11月27日

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