【感想・ネタバレ】百(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

大好きな作家・色川武大の大好きな一冊。自身の卑屈な部分を非常に繊細で絶妙に表現している。同時に、とても純粋な人間性を持っていた方なんだというのも見てとれ、読後のくどさがない。親との確執、愛情、自己との葛藤、自嘲……。誰もが持つ泥臭さを、美しい文体で著した一冊。何度でも読み返したくなる。

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2023年04月12日

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退役軍人の父親との親子関係をつづった私小説短編集。

起きていることをあるがままに受け入れるということは
実は大変なこと。でも、この親も、この子(著者)も、それ
が出来てしまう。出来てしまうと言うよりは、そうする
("身幅で生きる")ことしか知らないと言った方がいい
かもしれない。

逃げることなく、面と向かう。ただこれだけのことに凄み
すら感じてしまう。

苦くてざらついた小説。読み応え十分。

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2018年11月18日

Posted by ブクログ

 私小説になるのだろう。
 色川武大とその弟、母親、父親、その他親族との関わり合いや愛憎入り乱れた葛藤を描いている。
 著者自身、ノーガードで自身のダメな部分や醜い部分を、あますところなく書いている。
 自嘲気味、という訳ではなく、割とドライに、それでもあまり俯瞰しすぎずに、程よい距離感を保って書いている。
 まさに色川武大その人そのものを読んでいる感覚に陥る。
 読んでいる間はずっと、作者と共に喜び、悲しみ、途方に暮れ、自己を嫌悪する。
 それにしても、なんて文章を書く人なのだろう。
 決して独特な言い回しでも、強い個性がある訳でもないのに、一行一行が、単語の一つ一つがこれほどまでに心地よく流れ込んでくる作家も稀だ。
 万人向けの作品ではないだろうし、もしかしたら排他的な印象を持つ人もいるかも知れない(思うに私小説って排他的な分野のように思える)。
 その分、好きな人にとっては、つまり色川武大という作家に思い切り肩入れ出来る人にとっては、たまらない魅力を持った作品だと思う(決してエンターテインメント的な魅力とはいえないが)。
 色川武大の人を見る目、人との付き合い方、人付き合いに対する彼なりの哲学、優しさとだらしなさ、自己に対する嫌悪と憐憫、それらすべてがとても愛おしく感じられる。
 僕にとって本書はそんな作品だった。

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2018年01月04日

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色川氏の家族を綴った私小説。
弟との関係を描いた「連笑」、
幻視との奇妙な付き合いが恐ろしい「ぼくの猿 ぼくの猫」、
老耄の父親に振り回される家族を描いた「百」それに続く「永日」。
自分の家族と照らし合わせて読まずにはいられなかった。
どんなに逃げて離れたくても、ついてくる家族という因縁。
子供のころに抱いた劣等。
それでもなお、死なないでほしいという執着。
この世に生を受けた以上、逃れることのできない宿命が家族なのだと思い知らされた。
色川氏の底が知れない優しさに包まれて、絶望の色が薄まるようだ。
この作品に出会えて本当によかったと思う。

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2011年09月29日

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主に退役軍人の父親との関係を描いた私小説4編。
父親との親子関係を契約ととらえた『永日』、父親とのズレた会話が印象的な『百』など、淡々としたなかにリアルかつ冷静冷淡な展開がなんともいえない。
本題とはズレるが、『連笑』の中の競輪に関する部分(32頁あたり)の解像度の高さはさすが。

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2024年05月17日

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色川武大 「 百 」 家族との関係を描いた私小説。

この本で描かれているのは
*劣等意識を基礎とした 著者の人と違う生き方
*近すぎず遠すぎない家族関係、ただ在るだけの家族
*死を描いているようで 徹底した生を描いている

「小説は〜大きな道を歩いて造るもの〜お前は大きな道を歩いていない〜それじゃピエロになるだけだ」

身の幅で生きる
*身の内の自然に 出来るだけ沿いながら、得心し続ける
*身の幅以外のものは 観念で、そういうものは信じない
*内心を身の幅の中に入れて 自分の心にしている

自分の内心が あまりに個人的な尺度を持ちすぎて 他人に通じる言葉にできない
「僕の恐怖は 自分にこだわるわりには 自分を他人に主張する術がなくて 絶句して終わるしかないこと」

他人に管理されて生きる=一兵卒になる

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2021年08月13日

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―私は弟を貴重なものに思いだした。

軍人だった厳しい父親と影の薄い母親。
薄暗い家に弟が生まれ、少し大きくなると、
どこにでも付いてくるようになった。

充足というものの欠如。
父親の影響だけではないだろう、生まれながらに持ってきた屈託。
弟は著者のそういう部分を見てきた。

どうにもならない部分に対して、ふっと笑い合い言葉を交わす。
兄弟ってこういうものなのか。
そういう相手がいるということに、破天荒な生き方の著者に対して、全く関係のない自分の胸が、ほうっと温まる。

弟の結婚式で、もの思う著者の言葉が突き刺さる。
「おい、お前、こんな程度の晴れがましさを本気で受け入れちゃ駄目だそ。
烈しい喜びを得るつもりで生まれてきたことに変わりはないんだぞ。
式次第で生きるなよ。コースは一応もうできたんだから、あとはどうやってはみだしていくかだ。
とにかく、淋しく生きるなよ・・」

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2013年12月01日

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家族にまつわる私小説集。

『連笑』
――殴れば泣いてしまう、そのくせどこまでも後をついてくる――弟と、私。

『ぼくの猿、ぼくの猫』
軍隊でも、社会でも、家庭でも、終始ちぐはぐな父親。
「ぼく」は、毎晩、猿や猫の幻をみる。
のちにわかる、ナルコレプシー(睡眠障害)の症状が如実にあらわているお話。

『百』
「哀れなもンだなァ――孫に何かをやるのに、百まで生きなけりゃならん」
父親が老いていく。
すぐ死ぬだろうと思っていた父親は死ぬことなく、ひたすらに老いていく。

『永日』
父親が40のころの初子だった「私」にとって、父親と死は深く結びついていた。
この人は、私が成長するどこかで死んでしまうだろう、死とぶつかって、どうやって得心するのだろうかという興味をずうっと持っていた。
ほかのどの面でも父を凌駕していないのに、体力だけが勝ってしまう。
全部で負けなければ。
私のような男は、そうでなければ人を愛せない、許せない。


誰しもが経験のある絶対的な「家族」の存在、存在感。

『連笑』では弟に焦点をあてていたが、それ以降の作品はすべて父親に重きをおいている。
父親の絶対感と、死んでしまうと達観してそっぽを向いて全部を母親と弟に託していたのだが、いざ迫りくる父の死に絶望している「私」。
家族だからこそ許される「勝手さ」と、それぞれの「主張」が、なんともリアルで、ぞっとした。

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2013年01月22日

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色川武大の私小説は、現実なのか作者の想像・妄想の類いなのかの境界線が曖昧な所が良い。
自分の現実とかけ離れていて、安心しながらとろとろ読んでいると、深い屈託の中に引き込まれていてなんとなく頑張れば出られるんだけど、出るのもなぁみたいな気分にさせられる。
それでまたとろとろと色川氏の世界に埋もれていってしまうわけです。

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2009年10月04日

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阿佐田名義の作品も好きですが、私的にはこちらの方が好きですね。
エンターテイメント度は断然下がりますが。

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2009年10月04日

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色川武大の川端康成文学賞を受賞した作品。短編小説が4つ詰まってる。
タイトルの「百」は年齢を表してる。裏表紙の一部を抜粋すると、「百歳を前にして老耄のはじまった元軍人の父親と、無類の日々を過してきた私との異様な親子関係」とのこと。
「猫や犬は死んだらどうなるの?」ではじまる作品など、生と死に関連しつつも、日常を描いたような不思議な作品集。

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2021年12月17日

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初めて書いた小説は父親を薪割りで叩き殺す話であったー自らの創作のルーツから、父との複雑な関係を描き続けた色川武大の4つの作品を収めた短編集。

作品全ては時系列は異なれど、父親との関係性を巡るものである。叩き殺したい、という明確な憎悪があるわけではないけれど、かといって愛情があるわけでもない。それでも父がただ寂しく亡くなるのだけは避けたいと思い、珍しく能動的なアクションを取る「永日」が印象的。

日本文学の潮流の一つである私小説の流れを色濃く受けている作品である。そしてそこには、私小説というものの意味合い、つまり極めてパーソナルな事柄を突き詰めていけば、万人に通用するユニバーサルな何かが描けるはずだという観念が間違いなく具現化されている。いずれ自身にも父親のこのような場面に接するのではないか、という漠然とした不安が心に強く残った。

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2020年05月03日

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鬱屈した、内にいろいろ秘めた大人と老人の話であまり好きではない。読んでて次が楽しみ、ということがない。しんどくなる。

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2019年09月07日

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幼少の頃、近い過去、現在、そして幻想。ナルコレプシーをかかえているからか、時制が錯綜しているし、父親や弟について同じ事を何度も言及してて、物語として流れてなくて読みにくかった。これが味なのかも知れないが、一読しただけでは良さが分からなかった。

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2014年10月19日

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20150602 何と無くムズムズする話。真剣に捉えれば誰もが体験することなのかも知れないが難しく考えるとこうなるのかも。考える人が減ってるような今日、この本の成果かためされると思う。

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2014年06月02日

Posted by ブクログ

「居眠り先生(伊集院静)」から興味を持って読んだ。歪な親子関係を軸に人生について考えさせる。主人公の状況が特殊すぎて理解しづらい部分もあるが、大筋では「読んで損なし」の印象だった。老いることについて考えさせられる。

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2014年05月29日

Posted by ブクログ

「好き」と「嫌い」の二言では表せない血族のしがらみ。
とんでもない暴君が家族のなかにいて、毎日緊張、毎日疲労。
それでも、社会的にも個人的にも完全には離れられない悪循環。

これは、問題を「背負う」というより、
問題に「取り込まれてしまう」あるいは「引き寄せられてしまう」
そんな感じ。

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2013年11月23日

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