あらすじ
川の中洲で共食いを繰り返す異常繁殖した白兎たち、
耳から生えてきた肢に身体を乗っ取られた作家、
レストランで供される怪しい肉料理と太古の絶滅動物の目撃譚、
死んだ母親から届いたフェイスブックの友達申請……
今、世界の文芸シーンでブームの渦中にある〈スパニッシュ・ホラー〉の旗手による、11篇の鮮烈な迷宮的悪夢が本邦初上陸!!!
現実と地続きに現出する奇怪な歪み、底知れぬ不安と恐怖を、
生理的嫌悪感を催すような濃密で冷たい筆致で描き切った、
現代スペインホラー文芸の旗手による11篇の鮮烈な傑作怪奇幻想短編集!
〈スパニッシュ・ホラー文芸〉とは
マリアーナ・エンリケス、ピラール・キンタナ、サマンタ・シュウェブリン、フェルナンダ・メルチョール、グアダルーペ・ネッテル――今、スペイン語圏の女性作家が目覚ましい躍進を遂げている。作家によっては三十か国以上で翻訳され、世界中で好評を博すなど、現代文芸シーンにおける一大ブームとなっている。中でも、社会的なテーマを織り込みながら、現実と非現実の境界を揺るがす不安や恐怖を描いた作品群である〈スパニッシュ・ホラー文芸〉は、特に高く評価され、全米図書賞などの著名な賞の候補にも作品が上がるなど、今、最も注目すべき熱い文芸ジャンルの一つである。そして、このほど本書で初めて邦訳紹介するスペインの新進作家エルビラ・ナバロも、その代表的な書き手として数えられる。
作者エルビラ・ナバロは世界最大の文学誌Granta誌(英)のスペイン語圏ベスト若手作家にも選出された気鋭の作家。 本書の英訳版(2021)は、ニューヨーク・タイムズ紙、ロサンゼルス・タイムズ紙などの各紙誌でも絶賛され、同年の全米図書賞翻訳文学部門ロングリストにノミネートされた。
「この作家は生まれながらの文学的才能に恵まれている」エンリケ・ビラ=マタス
「不安を掻き立てる、カフカ風ですばらしい語り口」マヌエル・ジョレンテ
La isla de los conejos, 2019
【目 次】
ヘラルドの手紙
ストリキニーネ
兎の島
後戻り
パリ近郊
ミオトラグス
地獄様式建築に関する覚書
最上階の部屋
メモリアル
歯茎
占い師
謝辞
訳者あとがき
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
エルビラ・ナバロの短編集。スパニッシュ・ホラーと銘打ってあるが、どちらかというと幻想文学?
日常の何気ないことが、非常にむず痒く気持ち悪く描写されることが多く。嗅覚、触覚を使い読書をする感覚。良かった。
○ヘラルドの手紙
付き合っている男性との別れを決意した女性の心理を描いた短編。現実なのか、この女性の妄想なのか。凄く曖昧な、真ん中はハッキリしてるけど、周辺がボヤけているような。なんとも言えない読後感。シャワー室の虫の描写が気持ち悪い。女性の心理を表しているのか、むず痒くなる。
○ストリキニーネ ★おすすめ
最後の一行怖い。耳たぶから肢が生えてくる時点で怖いけど。だんだん、自分の身体が乗っ取られそう。それにしても最後の一行がとんでもなく怖い。
○兎の島 ★おすすめ
表題作。一見愛らしい兎の、醜悪な行動。本当に気持ち悪い。一つ一つの描写が気持ち悪い。これほど気持ち悪いって感想しか湧かないのが凄い。
○後戻り
衝撃の一行(おばあちゃん)。二度見した。そしてその後の思春期ならではのいじめ。仲良くしていた子が急にそっぽ向くとか。おばあちゃん以外は普通の短編。おばあちゃん以外は。
○パリ近郊
これまたよくわからない読後感。不思議な世界観。滲み出る不安感というか、何もないのに焦っている感覚がある小説。
○ミオトラグス
前半と中盤以降のつながりが全くわからなかった。小山羊の肉じゃないと言ってクレームをつける女と、絶滅したヤギ、ミオトラグスをもう一度見たいと探す変態貴族。時代も違うようで、本当によくわからない短編だった。
○冥界様式建築に関する覚書
発狂した兄と建築を学ぶ弟の話。霧がかったように描写が、背景がボヤける。不思議な感覚の短編。
○最上階の部屋
他人の夢を見てしまう料理人の話。住み込みでホテルの最上階をあてがわれており、宿泊客や乗務員の夢を受信してしまう。段々と正気ではいられなくなり、最後は建立されたばかりの橋梁の下で100万人の夢を見るというとんでもない話に。他の話よりわかりやすいかも。
○メモリアル
死んだ母からFacebookにメッセージが届く。イタズラか、なんなのか。読みやすく、すんなりと情景は理解できる。最後の手記も良い。
○歯茎 ★おすすめ
もう結婚式の話をしたくないカップルが結婚式の偽装、偽の新婚旅行を行う話。結婚に向けた葛藤が、偽の夫の歯茎の腫れと共に示される。彼女の不安が、偽の夫の臭い息と共に深まっていく感じがシュール。
○占い師
未来を予言するメールが勝手に届く話。自身の不安を他人が形にすると、あたかも予言に思えるだろうなぁと。
Posted by ブクログ
シュールな不安と恐怖を描く短編集。「兎の島」は小島に持ち込んだ兎が恐ろしく変容する物語、「最上階の部屋」は他人の夢が見えるようになる話、「メモリアル」は死んだ母からFacebookの友達申請が来る話です。先がどうなるか分からない不気味な味わいでした。
Posted by ブクログ
鳥を始末させるために小島に放たれた兎の異様な変容を描く短編の表題作を始めとして、幻想と現実が入り交じった不可思議なシチュエーションの短編が集められた作品集。
わけのわからなさ、きわめて難解な風景の中から仄見える、現実で抱える恐怖や哀しみが時折スパイスとなって胸に刺さってくる、そんな話が多いように感じました。
そのわけのわからなさにまったく感応できないままのお話もあったのですが、その置いてけぼり感というか、何を見せられたのだろうという茫然とした感覚もまた面白いものだな、とも自分は感じられました。なかなか不思議な後味のある短編集でした。
Posted by ブクログ
装丁が綺麗で手に取ったもの。
11の短編。タイトルの兎の島は、川の中の小島でウサギを飼ったところ、兎が想定外の行動を始める話。主人公がいなくなると、ウサギも死んで何もなかったかのようになる。
「ホテル最上階の部屋は」、住み込み料理人が、ホテルの部屋で他人の見る夢を見始める。
他人が見ている夢といいつつ、他人の考えを夢想しているだけでもあり、精神病名がつきそうな症状とも思える。
「メモリアル」は死んだ母のアカウントが自分のFacebookに友達申請される話。ホラーというよりも、母を亡くした喪失感と立ち直りの話のようである。
全編精神疾患の症状を、語るようでもある。
スペインの持つイメージともかけ離れているし、人間は意外とみんな同じなのだと感じるくらい、普遍的な不穏さがある。
Posted by ブクログ
全く、スペイン語圏ホラーに触れるのは初めて。新鮮という感触より、同じ 人間同士という事でのカルチャーショックを愉しんだ。
妄想、夢想、無気味、居心地悪さ、嫌悪的感触や臭気・・は人間なら同様に感じるはず~言語は異なっても。
11の短編はいずれ劣らぬ秀作。
個人的には「兎の島」のシュール度が圧巻。
肉しか食べなくなっていた兎が、発端を作った人間が消えると死滅、あとは綺麗な白い毛布となって(死体の形状から見ると)島を覆っているというラスト観が寒い。
「地獄洋式建築に関する覚書」に登場する大兄~語り手の自分の在り様がそもそも精神的なので言うこと見る事の確かさが危ういまま、最後は霧の中に消える。司祭になったという話も霧の中。。。
「歯茎」読んでいる間、臭気が立ち込めて来て。。歯茎そのものが健全な状態でも何かしら生臭いのに。最後の方になると、わたしの余りにも自己中心的な想いがさく裂して行き 暴走っぽくなっていく。
「占い師」 「ここ数が月間予想していたことがぴたりと」と言いつつも、「わたしたち」も「彼女」も言うコトンすことゆらゆらと手触りが危うい。
スパニッシュホラー、今後、注目の感強し。
Posted by ブクログ
所謂ジャパニーズホラーとは違って訳者あとがきに書かれているように「幻想文学」
怖い!ではなくてどこからが妄想なのか、現実なのか。このまま続くのか的な不安と恐怖。
Posted by ブクログ
短編集。これからなんか展開が。。。何もなくいきなり終わる。という。疲れる。冒頭のやつと、終わりくらいに倦怠カップルの別れが書かれていてそれが共感できた。1個目はいわゆる修羅場を経験せずに関係を終わらせたい、ってやつで、なかなか。後のやつ。なんだかいい歳だし結婚してみるか、という男女が一応挙式などを行ったりする。一緒に過ごすことが増え、彼氏の歯茎の病気で口が臭く、人格を全否定してしまう女性。なんだろ、このドリフ感。身近感。