【感想・ネタバレ】ポロック生命体(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 2020年2月に刊行されていた、瀬名秀明さんの小説の最新刊である。文庫化されているのを見かけ、手に取った。タイトルからして相変わらず小難しそうだが、読んでみるとすいすいと読める。いい意味で裏切られた印象を受けた。

 一時期はロボット分野に傾倒していた瀬名さんだが、本作のテーマはAI(Artificial Intelligence)、人工知能である。全4編に描かれたAIの実力は、決して遠い未来の話とは思えない。AIという言葉は、現代社会でも人口に膾炙しているのだから。

 『負ける』。チェスや将棋において、人間対AIの対戦は実際に行われたが、今では聞かなくなった。藤井聡太ら現役棋士がAIで研究する時代。それでも人間同士の対局はなくなっていない。AIはむしろ、人間による棋戦の価値を高めた気がする。

 『144C』。創作分野へのAIの進出は時間の問題に思える。現在は定型的記事の自動生成に留まるが、小説のディープラーニングだって可能なはず。AIが物語を生成する未来は、読者にとって福音なのかどうか。怖いもの見たさという心理は、正直ある。

 『きみに読む物語』。小説の評価の数値化は難しいとされるが、こんな指数が普及したとしたら。優れた作品が売れるわけではないし、読者に寄り添うのが悪いわけでもない。多くの作品が「4.0」以上であろう、作家・瀬名秀明の自虐という気がしないでもない。本作に限れば「3.5」くらいか。我々読者は気楽なものである。

 表題作『ポロック生命体』。一世を風靡した画家や小説家の、輝いていた頃をAIが吸収し、さらに発展させた。人間のような創作の限界はない。やがて、開発者が辿り着いた結論とは。彼がやったことが「悪」とは思わない。古今東西、創作者たちは名声の裏でもがいてきた。もがかないAIの作品に、感動しないと言い切れるか。

 読者に問いかけるという点では過去作品に通じるものがあるが、本作の問いは至ってシンプル。AIが大きく進歩した未来を、どう感じるか? 倫理だの人間らしさだのを持ち出しても、AIの進歩は止められない。ならば見届けよう。我々人類の選択を。

 大御所中の大御所・島田荘司氏は、AIが書いた本格ミステリを読んでみたいと発言していた。実に懐が深いと思う。少なくとも、自分は創作の未来を悲観していない。

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2023年01月06日

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