【感想・ネタバレ】このやさしき大地のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

これは超絶好きなやつ。
アメリカ中西部を舞台とする、悲運にまみれた少年少女達が旅路の中で過酷な現実をくぐり抜けつつ逞しく、そして眩しいほど真っ当に成長してゆく物語。
いわゆるロードノベル。

似たような雰囲気の作品でぱっと思いつくのは『東の果て、夜へ』なのだけれど、あれは前半がいまいちだったのに対して、本作はもう最初から最後まで胸を掴まれっぱなし。
いじらしい展開、残酷なまでの運命の悲劇という点では『われら闇より天を見る』の色合いも持っているが、あちらよりも幾分穏やかな心持ちで少年少女の顛末を見守ることができる。

時は1932年ミネソタ。
幼くして父母を失った兄弟(兄アルバートと弟オディ)は当時先住民達の浄化政策としてアメリカ各地に設立された寄宿施設のひとつであるリンカーン救護院に身を寄せることになる。

行儀よく生活するアルバートをよそに、オディはイタズラや懲りない言動で心無い悪徳職員に目をつけられ、余計な難癖を自ら呼び寄せるような日々を過ごす。
徐々にではあるが悪化の一途を辿る生活の中、一縷の光が見えたと思いきや、絶望的な嵐に見舞われ大切な人とつかの間の希望を失う。
さらにはふとしたはずみで悪徳職員を殺めてしまう。

表面的にはいい子ぶっているが誰よりも弟思いで機械にめっぽう強い兄アルバート、親友で先住民をルーツとするモーズ、嵐で母を失った不思議な力を持つ妹的存在のエミーと共に、セントルイスへと続くギレアド川を下り逃亡する生活が始まるさすらいの4人。

もうとにかく行く先々で出会う困難、過ち、悟り、裏切り、真実との対面、ときに甘酸っぱい恋の展開が秀逸。
彼らの境遇を寓意で包み込み、美しく核心的な”おはなし”に仕立て上げるオディの語り、オディが奏でるハーモニカから溢れる音楽が物語の魅力をさらに引き立てている。

『名探偵のいけにえ』で感じた、史実をベースとするフィクションに対するエクスキューズの違和感についても、「私が語った話のうち、ある部分は真実であり、あとは…そう、薔薇の茂みに咲いた花と呼んでおこう。」なんて巧みな表現をしてくれており、何もかも満足。
この物語を執筆するきっかけとなった『ありふれた祈り』もおすすめ。

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2023年05月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

『ザリガニの鳴くハックルベリー・フィン…みたいな』

早くも本年の最高傑作が…
『ザリガニの鳴くところ』が好きな人にオススメの一冊!
表紙もどことなく似てますね…
4人の子供たちの大冒険、是非、ご堪能ください!

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2023年01月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

・あらすじ
1932年大恐慌時代のミネソタ州が舞台。
孤児であるアルバートとオディ(オデュッセウス)の兄弟はリンカーン救護院というネイティブインディアンの子供たちが集団生活を送る施設で暮らしていた。
横暴な施設長や管理人から支配され、鞭を振るわれる日々。
そんな中オディは横暴な管理人を殺してしまい、兄のアルバート、スー族のモーズ、孤児になったばかりのエミーとカヌーにのってミシシッピ川を下り兄弟のおばがいるセントポールを目指す旅に出る。

・感想
「ありふれた祈り」の姉妹作らしく「祈り、信じ、ゆるすことの大切さ」という明確なテーマがあった。
 
 川を下る中で様々な人々(家族)と関わりあい12歳の少年オディは成長していく、正統派な成長冒険譚。
 住む場所と家族をもたない「さすらい人」である4人の子供たちは旅を続ける中で、理解し合い反発し繋がりを深めていく。そして自分の土台となる「家族・居場所・自分の家・ルーツ」を見つけていく。

 現代日本では宗教というか信仰心は割と敬遠されるものではあるけど「信じるものは救われる」という精神性自体は大事なものだと思ってる。
 自分の土台となるもの、根をはれるものがある人はやっぱり強いとおもうし。
 
 特にエピローグがジンときた。
 「広大で不可解な大きな流れがあってその流れは捻れていたり澱んでいる。それらをコントロールしようとしたり、流れる先を心配するのは無意味である。」
 一種の諦観ではあるけど、だからと言ってやるべき事から逃げたり目を逸らすのではなく、人々がお互いを助けあい「信じて、祈り、ゆるす」事が大事だと説く作者の一環した哲学があった。

時代的に大恐慌、貧困、ネイティブインディアンへの迫害など様々な社会問題になすすべなく振り回される市井の人々もかかれている。
 登場人物たちも個性的でよかった。
 好奇心旺盛で無鉄砲な行動力のあるオディ。
 年長者として責任感をもち思慮深く、弟を大事に思うアルバート。
 幼少期に過酷な経験をしたにも関わらず大らかで優しいモーズ。
 不思議な力をもち、天真爛漫さで3人を癒すエミー。
 
 子どもたちが辛い目にあうけど、過酷な施設生活の中で味方となってくれたハーマンや生きていく上で必要な知識を授けてくれたボーイスカウトのミスターサイファーがいてくれて良かったー。
 あと登場時怪しすぎてお布施目的のエセ新興宗教団体に思われた「神癒伝道団ギデオンの剣」のシスター・イヴも強い信念を持った誠実な人だった…割と終盤まで怪しんでてごめん。
 おばの家に辿りついてからももう一展開あって、黒い魔女まじで最悪な種類の人間だなって感じだった。

 解説のおかげでこの作品がより深く理解できた。
 主人公の名前がオデュッセウスだしホメロスの一大英雄叙事詩「オデュッセイア」のテーマが「故郷への帰還(らしい)」なので、そこにオディの動機があるのも納得。(ただ私の知識は世界史の授業とFGOから得た偏ったものw)
 
 ミシシッピ川と4人のさすらい人が描かれた表紙のちょっと切ない絵も良かった。
  

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2024年05月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 長きよき物語を読ませてもらった。アメリカの歴史には詳しくないし、寒い時代を肌で感じたこともないせいで、本当にこんなにひどかったのだろうかという、平和ボケした違和感にはつきまとわれた。ただそれ以上に、目的地に向けての逃避行と、それにまつわるいくつかの出会いはどれも面白いものだったし、子供なりの誤解や失敗も隣り合わせでスリリング。ともすればオディとアルバートの兄弟の関係が薄く見えそうなほどに、いい四人組のきょうだいだった。
それにしてもモーズが(エピローグで成人してからも含めて)いいやつすぎてもう。

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2023年04月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ゲラ読みモニターに当選し、一足に読ませていただく機会に恵まれた。2段組約470ページという長い物語だけれど、4人がカヌーで川を下っていく間、ずっと一緒にカヌーに乗っていたような気がする。善い人にも悪い人にも出会い、ひどい目にあったり助けられたりしていくので、成長物語として、冒険物語として面白く読んでいけるけれど、ラスト30ページほどは、彼らが生き抜く現実の圧倒的な展開に驚く。決して軽くはないけれど、後味はちょっと風が吹いたような。

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2022年09月14日

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